『喰い尽くされるアフリカ 欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取る日』 解説 by 中原 圭介

集英社学芸編集部2016年07月26日 印刷向け表示
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喰い尽くされるアフリカ 欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取る日
作者:トム・バージェス 翻訳:山田 美明
出版社:集英社
発売日:2016-07-26
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かつて江沢民が国家主席だった時代に、中国の市場経済化が待ったなしで進むなかで、国有企業の民営化が凄まじいスピードで行われた。そのとき、国有企業の膨大な資産を引き継いだのは、大半が共産党の高級官僚だった。このことが、中国が汚職国家となる原点であったといえるだろう。

共産党の高級官僚は自らがトップを務める企業の利益を追求するために、特権をふるいながら汚職にのめり込んでいくことになった。あらゆる産業の分野で彼らの息のかかった既得権益集団が形成される土壌が形づくられていき、官僚と資産家、あるいは官僚と業者の癒着が常態化し、腐敗と汚職を急増殖させていったのである。

中国の汚職や不正は、他国と比べてもスケールが大きい。国有銀行や国有企業の元幹部たちのなかには、1000億円単位の汚職や横領を働いた者もおり、当局に拘束される前に海外へ逃亡してしまっているケースも珍しくはない。もちろん、1000億円ものお金を海外に持っていくことはできないので、タックスヘイブンで幾重にもつくられたペーパーカンパニーを介して、汚職や不正によって蓄積した富が海外に流れていったと考えるのが妥当だろう。

2010年に北京大学が「中国における富の集中」の調査結果を発表したが、その内容が衝撃的だったのは今でも覚えている。全人口の1%でしかない高級官僚、共産党幹部、彼らの権力を利用して巨富を得た事業家たちが、民間総資産の40%超をすでに手に入れているといった驚くべき内容だったからだ。

この調査結果が表している格差は、2011年に「ウォール街を占拠せよ」のデモが行われた格差大国であるアメリカをはるかに上回るものとなっている。アメリカでは格差や貧困の拡大によって、多くの国民が2016年の大統領予備選挙では既存の政治家たちにNOを突きつける結果となっているが、共産党一党独裁である中国でも、習近平体制は格差拡大による社会不安に神経を尖らせ、汚職官僚の摘発に躍起になっているのだ。

中国における富の略奪システムがアフリカの天然資源国よりもたちが悪いのは、国民(住民)から税金を徴収したうえで成り立つ予算から、巨額のお金が汚職や不正によって略奪されているという点である。アフリカの天然資源国では、支配階級が国民から税金を集める必要がないため、何をやるにしても国民の同意を取り付ける必然性がない。これに対して中国では、国民の同意が大前提であるにもかかわらず、その関係自体を破棄してしまっているのだ。

 

汚職大国である中国では、全国各地のインフラ建設が汚職の舞台となっており、総建設費の3割程度は賄賂に消えているといわれている。当然のことながら、賄賂に消える分の金額は、いわゆる 「おから工事(豆腐渣工程)」として反映されることになる。「おから工事」とは、明らかに強度や 耐久性が不足している材料を使用した手抜き工事のことを指している。中国全土ではそのような手抜きのインフラづくりが連綿となされてきたというわけである。

「おから工事」が最大の被害をもたらしたのは、2008年の四川大地震だろう。このときは、約9万人もの死者・行方不明者を出した。中国では道路、橋梁、鉄道、ダム、学校などのインフラで予期せぬ災害がたびたび起きるが、実際のところ、その多くは手抜き工事に起因する人災に置き換えられるべきものである。

読者の記憶にも残っていると思うが、2011年に中国の高速鉄道が浙江省温州市の高架橋で日本では絶対に起こり得ない追突事故を引き起こした。あの事故は中国の脆弱な交通インフラの一端を暴露したといえるだろう。しかし、温州市のような沿岸部のインフラはまだマシなほうだ。中国では内陸部へ行けば行くほど、脆弱なインフラが広がっているのだ。道路が突然陥没したり、橋が落ちたりするのは、決して珍しいことではない。

上海、北京、深圳など大都市におけるインフラは、いわば海外向けのショーウインドーなので、それを決して中国全体の建設レベルと受け取ってはいけないだろう。むしろ、それらの大都市のほうが例外中の例外だと思ったほうがいい。そのようなわけで、アフリカの国々で中国が建設している天然資源を運ぶ交通インフラは、果たして本当に大丈夫なのだろうかと考えてしまう。たとえば、耐用年数が40年ともいわれる橋梁が20年で崩落してしまうこともあるのではないだろうか。

 

いずれにしても、中国の汚職官僚たちは自国で略奪システムを構築し、そのシステムを通して蓄えた富を秘匿性の高いタックスヘイブンに隠すテクニックを身に付けるようになった。その意味では、今のアフリカの天然資源国における略奪システムは、中国の高級官僚によってつくられた汚職システムが修正されて、アフリカに輸出されたものであると考えても差し支えないかもしれない。

かつてはフランスやポルトガルなどの旧宗主国の資源企業が、アフリカの資源ビジネスに深く食い込んでいた。その当時にも、汚職のネットワークはできあがっていたのだが、今のようには手が込んでいなかった。そのため、資源企業が当局の調査を受ければ、汚職をした人物や金額、契約内容まで突き止められてしまう可能性が高かったのである。そこでアフリカの支配階級にとっては、中国のクイーンズウェイ・グループないし徐京華なる人物のテクニックが価値あるものとなっていったのだろう。その手法は本書にも書かれている。

クイーンズウェイ・グループはアフリカの天然資源国の支配階級と合弁会社(実質的には、ペーパーカンパニーに近い)をつくる。その合弁会社が中国の国有銀行から融資を受け、天然資源国のインフラ建設にその資金を充てる。合弁会社は天然資源国が中国に売却する石油などで得た利益で、中国の国有銀行に借金の返済をする。こうして、合弁会社は融資と返済を仲介するだけで、過分な利益(手数料)を吸い上げ続けることができるというわけだ。

もちろん、合弁会社の過分な利益は、株主であるクイーンズウェイ・グループやアフリカの支配階級の持つ企業に還元されている。しかしながら、この資金の流れを辿ることは不可能に近い。タックスヘイブンが幾重にも絡んでおり、その秘匿性に調査は阻まれてしまうからだ。「パナマ文書」 によってタックスヘイブンという言葉が改めて注目されているが、その秘匿性の一端が明らかになったのは、あくまでも内部からの情報流出であったということに留意する必要があるだろう。

いまや潤沢な資金を持つにいたったクイーンズウェイ・グループは、海外の石油メジャーなど多国籍企業から直接、アフリカの資源権益を購入するようになっている。汚職のネットワークをアフリカに輸出するだけでなく、そのネットワークで蓄えた莫大な資金力で欧米の多国籍企業に堂々と対抗するようになってきているのだ。外部から見れば、実質的な所有者が誰ともわからない企業が中国が使用する大量のエネルギー資源を手当てしているというのだから実に驚くべきことだと思う。

 

アフリカにおいて政府が天然資源から得る収入は、汚職の蔓延により権力の中枢にいる人々だけに富を蓄積させている。その結果として、権力者たちの最大の目的は、天然資源に関する既得権益を守ることとなり、激しい権力闘争によって独裁政治を生み出す土壌が形づくられていった。そのような背景によって、教育関連の予算が削られる一方で、軍事予算が膨らみ続けている。権力者を批判する者は、治安当局に拘束され、処刑される場合も珍しくない。

アフリカ一の経済大国であるナイジェリアでも、政府の収入の80%を石油が占めているため、 この権益を獲得するために激しい権力争いが行われている。2014年秋までは原油価格が高止ま りしていて、ナイジェリアの経済成長率は順調に右肩上がりを続けていくことができていた。その あいだ、権力者たちは略奪システムのなかで、自らの資産を膨らませることができたに違いない。

それにもかかわらず、ナイジェリアの失業率は高まり続け、若者の失業率は債務危機の後遺症に苦しむギリシャやスペインを凌駕していたのだから、「資源の呪い」は実に恐ろしい。同国では若者たちの怒りや悲しみ、絶望感などが充満し、職がない若者の有力な就職先が過激派組織となって いる。悲しいことに、彼らは日々の生活するために、国家に対するテロの手先となっているのだ。 貧困がテロを生み出している構図は、アフリカ全体でも中東でも共通しているというわけだ。

中国はアフリカの経済を発展させるといって資源開発を次々と進めているが、今のところアフリカの人々にはその恩恵はまったく及んでいないという事実がある。エネルギーを輸出するためにつくられた交通インフラは人々のために役立っていないどころか、むしろ、安価な中国製品が大量に流入するルートとなり、現地の工業化を著しく妨げてしまっているのだ。さらには、そのインフラ建設費のコストの3割程度は汚職によって消えてしまっているという。

アフリカの資源国は植民地時代と何も変わっていない。天然資源の略奪システムは独立後の支配者に引き継がれ、中国や欧米の企業は新しい支配者に協力しながら、略奪の分け前を手にしているのだ。世界銀行やIMFまでがアフリカの経済発展を支えるために資源関連の融資を実行しているが、現実には多くの職員や関係者がすでに汚職のネットワークに取り込まれてしまっている。アフリカの国々で汚職により蓄えられたお金は海外のタックスヘイブンに逃げていく一方なので、資源開発によってその国の人々の生活が豊かになるということはないだろう。

そのうえ、天然資源関連の産業は国内に雇用を生まないため、人々のあいだに大量の貧困が発生しているという事実を忘れてはならないだろう。たとえば、石油の輸出で有名なアンゴラでは、石油が同国の輸出収入の100%近くを生み出しているにもかかわらず、石油関連産業は同国民の雇用の1%も生み出していない。インフラの建設では、中国は融資をするだけでなく、労働者も大量に供給しているからだ。そのせいで、アンゴラの人口の半数が国際的な貧困ラインである1日1.25ドル未満(現在の基準は1日1.90ドル以下)の生活をしている。

だからこそ、アフリカの天然資源国では2000年以降、天然資源価格の高騰により政府の収入が増大していたにもかかわらず、未だに最貧国からなかなか抜け出せていないというわけだ。これらの国々の国民生活が向上するためには、教育水準を高めるのと併行して、製造業の育成に努めていくのが必要不可欠な条件となるに違いない。アフリカを「資源の呪い」から解き放つべき、偉大な指導者が現れることを期待したい。

中原 圭介(経済アナリスト)

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