理不尽に辞めさせられた時でも、こんな人がいれば再起できるのに! 今こそ読むべき『口入屋凶次』 なぜ、この作品は知られていないのか。あまりにも完成度の高い傑作のため、紹介せずにはいられない

東海林 真之2016年08月24日 印刷向け表示
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この世は理不尽に満ちています。

どんなに能力を磨いていても、嫉妬深い同僚による策謀や、欲に目をくらんだ上司による謀りによって、正当な職から理不尽に追い落とされることは、ままあるでしょう。

しかし一方で、能力を磨いていれば、活躍の場さえ与えられれば見事に花開くこともできるのです。けれどその「活躍の場」って一体どうやって見つけたらいいのか。自分では分からない、見つけられないものでしょう。

そんな時、代わりに「活躍の場」を見つけてくれる職があります。それこそが、口入屋(=職業紹介所)です。

現代社会における職業紹介所は、自らの利益を追求するために虚偽求人などを行い、厚生労働省が罰則規定を検討している現状です* 。しかし斡旋の本来の姿、あるべき姿は、人を活かすことでしょう。そのあるべき姿を描いた爽快な作品こそが、この『口入屋凶次』。そしてまた、この作品は、時代劇でもあり、ミステリーでもあり、そして企業再生の物語でもあります。それはつまり、いったいどんな話なんでしょう?
* 虚偽の職安求人に罰則 厚労省検討会報告書 ブラック企業対策、懲役刑も(2016.06)

口入屋兇次 1 (ヤングジャンプコミックス)
作者:岡田屋 鉄蔵
出版社:集英社
発売日:2015-01-19
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  • honto
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  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
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ところで一時、話は変わります。

マンガHONZが立ち上がって約2年半。それなりな数のマンガを読んできました。緻密に描かれた世界観がすばらしく惹きつける作品、キャラクターの掘り下げが魅力的な作品、物語の構成がうまく読ませる作品など、いくつも魅力的なマンガに出会ってきましたが、その「すべて」を持ち合わせていて、かつ、こんなにもレベルが高い(=満足度が高い)マンガには、ほんとうに久しぶりに出会いました。

あまり断言することはない性格なのですが、『口入屋凶次』 というこのマンガは「読んで損をさせません!」...どころか、「読まないと損なのではないか」と思うほどの作品です。

ところがなぜか認知度が低く、それゆえにか、4月に第3巻がでて「第一部」が終わったあと、いったん完結してしまっています。どうやら、多くのひとが続きを希望すれば(要は売れれば)「第二部」が始まる可能性も高まるとのこと。なので、今こそ、この作品の魅力を伝えていかなければ!と思い、今回、筆をとりました。(当初は別の作品レビューをする予定だったのですが)

マンガHONZのレビュアーの方々も、この作品、知っていました? 読むべきですよ、ぜったい。これは。ほんとうに、おもしろいので。

口入屋兇次 1 (ヤングジャンプコミックス)
作者:岡田屋 鉄蔵
出版社:集英社
発売日:2015-01-19
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話は、作品の内容に戻ります。

この作品、読みはじめは、時代劇なのです。なにやら訳ありの女性が、それも高貴な身分のような女性が、女郎に身をやつそうとしてトラブルに巻き込まれるところから、話は始まります。

一見、ふつうの時代劇。それにしても、絵がきれい・・

そして話は進み、口入屋である凶次が、この女性の目利きを行います。凶次は口入屋(=職業紹介所)といっても、誰彼かまわず斡旋する訳ではありません。人を選び、その代わりに、その人が活躍できるだろう場所を紹介し、花開くまで見届けるのです。

今回の女性を凶次が斡旋した先は、女郎屋でした。――意外性がない? いえ、おもしろいのはその与えた役割にあります。女性は、女郎として斡旋される訳ではなく、女郎屋の「再建」を任されるのです。

本人も気づかぬ「才」を見抜く口入屋

あれ・・・時代劇だったはずが・・・企業(女郎屋)再生の依頼?

ここから話が急に、企業再生ものに変わります。落ちぶれた、4人しかいない女郎屋を、どのようにして再建していくのか。その過程は鮮やかで、なるほど確かにそのような手を打てば店も活気づくだろうというリアリティがあります。

途中から話が変わる、と書くと、あるいは、話が迷走しているのではと危惧するひともいるかもしれません。ところがまったくそうではないのです。時代劇としての考証や描写も緻密でしたが、企業再生を描く様にもリアリティがある。打ち手のひとつひとつに筋が通っていて、複線も回収していって、これは確かに繁盛するぞと思わせる。たしかに話の重点は変わっているのですが、それぞれの充実度が深いのです。

真っ先に手をつけたのは、提供する品質(Product)と利益率の見直し

限られたリソースで追うべきターゲットを明確に指示。とるべきアクションも具体的に

提供品質を整えた上で加える、差別化の策と、話題づくりの仕掛け(Promotion)

そうした一方で、企業再生の物語が進むうちにも、ところどころで時代劇の魅力、さらにはミステリーの興奮が、顔を覗かせます。どうしたらこんなに上手く話を構成できるのか。ぐいぐいと惹き込まれ、気づけばひと息に読み進めてしまいます。

時代劇お約束の切った張ったも、きちんと用意してございます(よっ!待ってました!)

…とここまで書いてきましたが、この作品の魅力を伝えることはなかなかに難しい。たいへん遺憾ではあるのですが、紋切り型の言葉ながら、「まずは第1巻だけでも、どうか読んでみてください」。「読めば、分かります」。この作品こそ、そのように伝えたい作品です。

マンガHONZは、「世に眠ってしまっている傑作を掘り起こし、多くのひとに届ける」ために作られた背景があります。これまでに私が紹介してきた作品は、もちろんそれぞれ間違いなくおもしろいのですが、既にある程度知られている作品がほとんどでした。しかしこの作品は、そのクオリティに対して、なぜかほとんど知られていませんまさにマンガHONZのコンセプトのとおりに、心から、多くのひとに読んでみてほしいと願う、そんなマンガなのでした。

ちなみに上記では、分かりやすさから第1巻の説明をしてきましたが、個人的には第2-3巻の方がさらに惹き込まれる内容で、おすすめです。まだたった3巻しかないので、読むべきですよ、ぜったい。これは。

口入屋兇次 1 (ヤングジャンプコミックス)

作者:岡田屋 鉄蔵
出版社:集英社
発売日:2015-01-19
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