これが現代の『変身』!?「なろう」1位の話題作!『蜘蛛ですが、なにか?』 生きているだけでは誰も誉めてくれないけれど、必死に生き延びようとする蜘蛛になった女子高生

マンガサロン 「トリガー」2016年07月30日 印刷向け表示
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蜘蛛ですが、なにか? (1) (カドカワコミックス・エース)
作者:かかし朝浩
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2016-07-07
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 カフカの『変身』で、グレーゴル・ザムザは毒虫になりました。

一方、現代では女子高生が異世界で蜘蛛になりました。

『蜘蛛ですが、なにか?』は、「小説家になろう」にて今年のランキングトップに輝いたこともある原作のコミカライズです。

「なろう」と言えば異世界や転生、異世界や転生といえば「なろう」。そんな昨今の趨勢を取り入れつつ、しかしキャラ萌えやハーレム、チート的俺TSUEEEEE要素は入れずに着実な成長を見せて行くのが見所の作品となっています。

本作は、日常を過ごしていた女子高生の「私」がある時突然謎のダンジョンで小さな蜘蛛のモンスターになり、命懸けの生存戦略を駆使して行くことになる物語です。ゲーム的なパラメーターやスキルが設定されているのは、今やこの手の作品のお約束。

『変身』も『蜘蛛ですが、なにか?』を含めた多くの転生ものも、変化に対する理由というのはあまり重要視されておらず、そう変貌した時に何を想い考えどう行動するか、という点に主眼が置かれています。

そして、多くのなろう系で顕著なのは、主人公が非リアであり現実世界に居づらいと感じている中で、異世界において現実では有り得ない活躍を果たせて居場所を獲得して行く、という展開です。

カフカの『変身』は、逆に不条理な変身によって日常から居場所を失って行く物語ですが、根源を求めれば家族や社会といった組織の中で、個人が抱える抑圧や孤独という人間にとって普遍的なテーマが見え隠れします。

『蜘蛛ですが、なにか?』のヒロインも、学校には行くもののネットとゲームに没頭する半引きこもりであり、ご飯はレンチンで親とは顔も合わせず、ネトゲですらほとんど喋らない、という設定です。

現代社会的にも未来は暗いし、今の自分の人生なんて割とどーでもいい。そういった現代型のニヒリズムは若年層に共有されている感情でしょう。なろう系が支持を集めているのは、実際に現実世界に多寡はあれ不満を抱いている中で共感できたりカタルシスを得られたりする設定があり、そのストレスを薄めてくれるという部分もあるでしょう。

『蜘蛛ですが、なにか?』のヒロインは、なろう系の基本要素を完璧に押さえつつ、自分の命を脅かす敵を持ち前の蜘蛛の糸と毒牙、そして鑑定スキルという僅かな武器で対峙し、少しずつ成長を重ねて行く様子を丁寧に描いて行きます。人気が出るのも頷けます。

そして、コミカライズ版ではダンジョンの蜘蛛という存在を上手に可愛く、しかし他の生物とのバトルアクションは激しく描いており、原作未読の私でも入り込めました。

他の生き物との過酷な生存競争に身を投じていく。どんなに獲物が不味くとも、生きるために、喰らう。

永遠に暗黒のダンジョンの中ということで、画的に映えさせるのは難しさもあるだろうと思いますが、背景が単調であることが気になることは全くありませんでした。構図や演出、コミカルさとシリアスさのバランスで上手く緩急がつけられている印象です。

原作未読の私でも入り込めて楽しめましたので、原作ファンの方もそうでない方も読んでみては如何でしょうか。

ちなみに、名前も判らないヒロインの表紙にも描かれている人間であった頃の姿は黒髪ロングストレートの美少女であることは確定的に明らか(※注 筆者は黒髪ロングストレート原理主義です)。『アトラク・ナクア』を紐解くまでもなく、蜘蛛と黒髪ロングストレートの美少女の関係性は深いものであるというこの世の定めもあります。人間の姿に戻らない可能性も高いですが、最終話には無限のポテンシャルを秘めているという部分で黒髪ロングストレート好きの諸兄にもお薦めしておきたいです(表紙からしてかわいいですよね!)。

 

(文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)

 

蜘蛛ですが、なにか? (カドカワBOOKS)
作者:馬場 翁
出版社:KADOKAWA/富士見書房
発売日:2015-12-10
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