ちっぽけな自尊心を木っ端微塵にデストロイ系劇薬マンガ『無常のふでこさん』

マンガサロン『トリガー』2016年08月07日 印刷向け表示
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無常のふでこさん (1) (REXコミックス)
作者:ぬこー様
出版社:一迅社
発売日:2016-06-27
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諸行無常。
それは永遠不変のものなど存在せず、万物は移ろい行くという仏教の価値観。しかし、逆説的にその中にこそ真なるものが存在する。永遠に続く喜びや楽しみ、幸福がないことは不幸ではなく、その須臾の間に永遠を超えた貴い真理は存在するのだ、と。

全てが正しく間違っている世界の中で、人は今日も怠惰に流され、保留し、見栄を張り、浅はかな思考や無知を露呈し、身勝手な断罪を行い、利己的な自身すら欺瞞で覆い隠し、自らの本質を直視することを拒否して心地良い幻想に浸りながら生きて行きます。

されど、そういった部分も含めて人間であり、人間の在り方であり、自他の持つそんな弱さに寛容になることで世の中における生き難さや息苦しさが多少緩和される。そんな風に私は思っています。

しかし、本作のふでこさんたちは、そんなことはしません。突き付けます。その人が向き合おうとしなかった事物の本質を剥き出しにして、眼前にまざまざと、容赦なく突き付けて行きます。

読む人によって、あるいは読むネタによって「それな!」と強く共感するでしょうし、「うわあああ、やめてくれええええええ!!」と抉られもするであろう、攻撃力12000くらいの問題作です。

 

4人(?)の

『無常のふでこさん』では、表題通りヒロインである「ふでこさん」、それに加えて「女神さん」「悪魔」「たまごくん」の四人(二人と一柱と一個)がそれぞれ主人公となり、一つ一つ独立した編を構成する四コマ漫画です。
四人は各々の視座から現代社会のすみっこを照らして行きます。

まずは、ありとあらゆる人間を言葉のナイフで滅多刺しにしていくふでこさん。

DQN、オタク、ウェーイ系、構ってちゃん、俺はまだ本気出してないだけキャラ、ワナビー、アイドル、歌い手、頭カラッポJK、モンスター主婦、ダメ上司etc…...。吹き荒れる諫言の嵐は、チキンナイフとライトブリンガーの二刀流みだれうちのような無双っぷりです。

「ソシャゲの本質は札束での殴り合いであり、時間によりお金を買うことはできてもお金で時間を買うことはできない」
と正論を説くふでこさんに対し、
「リセマラは理屈じゃねぇんだよ…!!」
と、言霊に怨念じみた想いを込めるリセマラ中毒くんのやり取りは、非常に時代性を感じて趣深いです。


次に、純粋な視点から人間界の様々な事象に翻弄され物思わずにはいられない女神さん。

レシートをその場で捨てる罪悪感や、目を離した時にだけ点が入るサッカー観戦の悔しさ。
すぐに本気を出さないヒーローの意図や、食べ放題に行って普段より高いお金を払って苦しい想いをしていることに感じる疑問。
「わかる〜」と言いたくなる絶妙な日常シーンのオンパレードです。


そして、悪魔。

「気の利かない店員にやたらイライラしちゃう呪い」
「生食用魚介類の寄生虫の数と姿形を広告を打って周知徹底させる」
「シーズン2から物凄くつまらなくなる海外ドラマを薦める」
など、地味ながら恐ろしい方法で人間を堕落・失意させていく様は、正に悪魔の所業。


最後に、たまご。

カワイイ外見ですが、性格は最悪で危険思想の持ち主。人の心が折れる時に喜びを感じるタイプです(もしMTGプレイヤーだったら確実に青使いでしょう)。
そして、頻繁に割れたり中身が漏れたりします。雑な出逢いを果たしたよしおくんとの、心が冷えてザラつくやり取りは見ものです。言葉の棘が剣山レベル。


心のかさぶたを引っぺがすネタの数々を堪能して下さい。

単行本では、様々な方面から持って来たキワドいネタのオンパレードな没ネタ集も収録。それを担当編集さんと作者の面白いコメント付きで読むことができます。担当さんの心労はごもっともな所。最終的にL●NEをブロックされたというのはなかなかですが、そんな末に爆誕した剥き出しのナイフと地雷の混合物のような危うい魅力のこの作品。それがいい。時に、薬よりも毒が人を救うこともあるのですから。

 

(文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)

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