『呉越春秋 呉越興亡の歴史物語』

出口 治明2016年08月11日 印刷向け表示
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呉越春秋: 呉越興亡の歴史物語 (東洋文庫 873)
作者:趙 曄
出版社:平凡社
発売日:2016-07-11
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「呉越同舟」という諺が人口に膾炙しているように、春秋戦国時代の呉と越は宿命のライバルであった。両国は30年以上に亘って激しい戦いを繰り広げ、遂に越王勾践が呉王夫差を敗死させる。本書はこの2国の興亡を描いた歴史文学(東漢=後漢の時代に成立)の本邦初の全訳である。

ところで、2500年も前の呉越の戦いが、何故かくも人々の心を揺さぶるのか。それは、夫差の賢臣、伍子胥や勾践の参謀、范蠡など登場人物の個性が尖っていて強烈な印象を与えるからである。加えて「臥薪嘗胆」「日暮れて途遠し」「狡兎死して走狗烹らる」など有名な格言の宝庫であることも大きな魅力となっている。

本書は10巻から成っているが上巻5巻が呉の歴史、下巻5巻が越の歴史である。呉の歴史は、歴代の君主であった太伯、寿夢、王僚、闔閭、夫差にそれぞれ1巻ずつが充てられているが、中心を成すのは楚の人、伍子胥の物語である。

楚の平王に父と兄を殺された伍子胥は呉に亡命する。途中、老漁夫や女性に助けられるが、2人は伍子胥を助けたことが世間に泄れるのを恐れ水中に身を投げる。当時の人々の烈々たる気性の何という激しさだろう。闔閭に仕えることになった伍子胥は、呉軍を率い楚を討って都に入り、平王の墓を掘り屍に300回鞭うつ。この復讐劇の凄まじさには言葉も出ない。伍子胥は老漁夫や女性の身内に再会する。

時が流れ闔閭が没し夫差が立つ。伍子胥は越を警戒するよう夫差を何度も何度も諫めるが夫差は聞く耳をもたず、伍子胥は遂に逆鱗に触れて死を賜る。夫差は伍子胥の頭を高楼に晒し、軀を江水に投じた。夫差は北上して会盟を司り覇権を握る。しかし、それも束の間、伍子胥の予言通り、越王勾践に攻められて夫差は自殺し呉は滅びる。

下巻は1巻が越王、無余に充てられているが、残り4巻は全て勾践の伝記となっている。夫差との戦いに敗れた勾践は呉の臣(どれい)となって夫差に仕える(7巻)。夫差の目を欺き帰国した勾践は復讐を誓う。勾践は夫差に献上を重ねて封土を増やしてもらう(8巻)。勾践は家臣の范蠡や文種と謀り、美女(西施)を夫差に献上するなど陰謀を練る(9巻)。

用意万端を整えた勾践は遂に呉を伐つ。伍子胥の頭は一旦は風雨を起こし越軍を引き返させるが、国都が落ち呉は滅ぶ。范蠡は「越王とは患難をともにすることはできるが、楽しみをともにすることはできない」と言って去るが文種は留まる。范蠡の予言通り、文種は死を賜る。伍子胥が海上から文種の墓(山腹)を穿って文種を運び去った。勾践が最後の覇者となり、孔子が訪ねてくるが何も答えずに立ち去る(10巻)。

本書には、当時の多くの歌(民間伝承)が収められており、「史記」とはまた違った趣があって、読んでいてとても面白い。訳注者は1920年生まれだが、文体は平易で読みやすく注も配慮が行き届いており、学問に対する真摯な姿勢に本当に頭が下がる。呉の賢臣伍子胥と、越王勾践の史上に名高い圧倒的な復讐譚を、この機会にぜひ一読して欲しい。 

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。 
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