「一歩間違えれば死」の選択を繰り返し続けることが、国民にとっての戦争なのかもしれない『あとかたの街』 終戦記念日の今日くらい、戦争について本気で考えてみたい

小禄 卓也2016年08月15日 印刷向け表示
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8月14日。終戦記念日の前日に、僕は東京・九段下にある昭和館に足を運んだ。戦中、戦後の国民の生活に関する資料などが展示されていて、4階には誰でも利用できる図書館があり、館内でさまざまな資料を読むことができる。

そこで出合ったのが、今回紹介する『あとかたの街』だ。地震や空襲に見舞われた昭和19年〜20年ごろの名古屋を生きる少女を描いたこの漫画は、作者のおざわゆきさんのお母さんの実体験にもとづいて描かれているという。2015年の日本漫画家協会賞大賞(コミック部門)には、おざわさんのお父さんの体験を元にした『凍りの掌(こおりのて) シベリア抑留記』とあわせて選ばれた作品だ。

あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス)
作者:おざわゆき
出版社:講談社
発売日:2014-06-13
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約70年前の思春期の女の子。ケンカもするし、普通に恋もする

物語の前半では戦争は直接的に描かれず、来るべき「有事」に備えた訓練を行っている場面が多く描かれている。しかし訓練をしている姿はどこか他人事だったりするし、わりとほのぼの物語が進んでいく。それもそのはず、主人公の木村あいちゃんは12歳で、周りの女の子たちも思春期真っ盛り。思春期は、戦争があろうがなかろうが関係なくやってくるのだ。

訓練中の周りの女子たちのキラキラが気になる年頃。「あの子いらん事言いだな〜」と言っているのがあいちゃん(『あとかたの街』より)

中には「女だけどもお国のために……兄とともに玉砕して軍神になりたい」なんて言う女の子がいたりして、その子にあいちゃんのお父さんを「非国民だ」となじられてケンカしたりする。話の内容はさておき、わりと日常感が漂っているし、まぁそんなものだろう。

さらにあいちゃんは年上の洋三に恋をする。 

ここだけ見ると、本当に普通の恋愛漫画のようにも感じる(『あとかたの街』より)

作品の中盤くらいまでは、来るべき空襲に備えた訓練が中心だったりするのでこうした日常を中心に描かれる。言論統制が厳しく、外国で人を殺し制圧することが(少なくとも公には)正義とされていた時代は異常としか思えないが、戦場に出兵しない普通の国民にとっては、ギリギリではあるが普通の日常を送っていた。 

彼女たちが送る生活は、どれだけ「普通」にしていても戦争のある世界の中でのできごとなのだ(『あとかたの街』より)

「生死を分ける選択」の繰り返しが、国民にとっての戦争か

物語の後半になって、彼女たちは本当の空襲に見舞われる。

戦争の中を生きるとはいえ、我が身に降り掛かってはじめて「戦争」が自分の中に入ってくる(『あとかたの街』より)

この漫画を通して気づいたのは、主人公の家族が空襲を受けてから落ち着くまで、常に「生死を分ける選択」をしていたこと。

例えばこのシーン。 

「トラックの運転手さんから同じ匂いがしていた」という知識が幸いして、みんなが重油だと気づく(『あとかたの街』より)

敵の飛行機が火の周りを良くするために重油を撒いてから焼夷弾を落とすことに気づき、油を必死で落とす。この後家に焼夷弾が落とされ燃えてしまうのだが、ここで重油を落とさなければ、人に火が移った可能性も否定できない。

やっと見つけた防空壕では、中にいる人も大きな選択を迫られる。
知り合いのおばさんがたまたま中にいた防空壕。おばさんは子どもだけでも入れようとするが……(『あとかたの街』より)

全員が生きるために必死だ。自分が生き延びるためには、苦しい決断をしなければいけないこともある。結局あいちゃん一家はこの防空壕にも入れず、街をさまようハメに。しかし、最終的に「防空壕に入ら(れ)なかった」という選択が生死を分けることになるとは、この時は知る由もない。

そして、一瞬の気の迷いが生死を分けることもある。

いるはずのない父親がよぎり、一瞬気を取られてしまう洋三。これが事態を悪化させる(『あとかたの街』より)

洋三は、いるはずのない父親を確認するために一瞬我を忘れる。走行している間に、アメリカ軍から容赦ない攻撃が降りかかる。

パニック状態に陥った時はみんなが向かう方向へ進んでしまうのが集団心理だが、そこへ進むことが必ずしも正解とは限らない。次のシーンではそんな一幕が見られる。

あいちゃんのお父さんの呼びかけに、誰も答えようとしない中、あいちゃんたちは耳を傾ける(『あとかたの街』より)

あいちゃんのお父さんが必死に「公園の方へ走れ!」と叫ぶも、他の人たちは「あっちは火の海だからダメだ」と言って聞く耳を持たない。あいちゃんたちは、お父さんの言外の意図を汲み取って公園の方へ向かう……。

このように、空襲が起きてからは、息つく暇もないほどに「生死の選択」を迫られる。果たして僕は絶えられるだろうか。そんなことをつい想像してしまうが、恐ろしすぎて2秒で考えるのをやめた。

落ち着いて考えたら、誰だって戦争はしたくないはず

戦争を経験されてきた方々が少しずつ数を減らし、直接声を聞く機会は減ってきているが、漫画だけでなく、ドラマや映画、ニュースなど……、戦争の悲惨さを伝える媒体は数えきれぬほどある。

いま日本では、安倍政権下で憲法改正に向けた動きが活発だ。中には、「戦争法案」として「戦争をするための改憲」と危機感を募らせる人たちもいる。しかし、改憲を推進している人たちだって、戦争の悲惨さを直接的・間接的に見聞きしているはずである。世界情勢も不安定な昨今、自国を守るためにできることを増やすことは悪いことではないと思うが、それはすなわち戦争をするということには繋がらないと思いたい。

右とか左とか、そうした立場からの意見なんてよく分からないし心底どうでもいいと思うのだが、いち国民として思うのは、戦争だけはしたくない、ということだ。月並みな意見だが、本当に戦争なんてしたくないししてほしくない。

政治家の皆様に於かれましては、二度と戦争という愚かな行為を選択しないでいただければと思う。『あとかたの街』を読んで少しでも戦争の痛みを知り、私たちが「生死の選択」を迫られる日常を送らないための最良の選択を願いたいものだ。

『あとかたの街』は、1巻はKindleだと無料でダウンロードできるのでオススメ。

あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス)
作者:おざわゆき
出版社:講談社
発売日:2014-06-13
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戦後の東京を描いた『あれよ星屑』もオススメ。

あれよ星屑 1巻<あれよ星屑> (ビームコミックス)
作者:山田 参助
出版社:KADOKAWA / エンターブレイン
発売日:2014-04-25
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