息子のために走り、命を落とした『マラソンマン』が託した夢、オリンピックという希望

工藤 啓2016年08月17日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

 

マラソンマン(1) (週刊少年マガジンコミックス)
作者:井上正治
出版社:講談社
発売日:1993-09-17
  • Amazon Kindle

 

平凡な生活、平凡な食卓、平凡な笑顔。貧しいながらも幸せな家族が離散するのは、その貧しさに耐えられなかった妻と、昼夜問わず働き続けた高木勝馬との価値観と時間のすれ違いだった。突如訪れた父子だけの生活。酒とギャンブルに溺れた父親のもと、8歳の息子高木一馬は小学校で「酒くせえっ」といじめを受けるが、一馬に手を上げさせたのは父親を「社会の”クズ“」呼ばわりされたことだった。

 

『マラソンマン』

 

『マラソンマン』


 

確かに、父親勝馬は荒んだ生活で息子の自慢とは言えなかったが、それでも子どもにとって親は特別な存在であり、愛する父親の見たくても見えない背中に、寂しい想いを抱いていた。

夜、ひとりでお弁当を食べていた一馬は、押し入れで若き日の父親の写真を見つける。そこには福岡国際マラソン大会で優勝した父親の写真と新聞記事であった。父親として唯一誇れるもの、それが「マラソン」であることを思い出した勝馬は、涙しながら眠る息子をその手に抱え、再起の道を選択する。

 

『マラソンマン』


 

『マラソンマン』

 

『マラソンマン』は、すべての父親に対して、わが子に誇れる父親として行動しているか。努力する姿を見せているか。勇気と希望をその背中で語っているかを自問自答させる漫画である。

そして、前を向いて生きていく父親の姿に、誇れる父親の息子として何ができるのかを考え、試行錯誤を繰り返しながら、父親を支えていく。親は子を育てるかもしれないが、子どももまた親を育て、ともに成長していく同志であることに改めて気づかされるのだ。


 

『マラソンマン』


 

『マラソンマン』


父親としてわが子のために自らを奮い立たせようとすることはたやすい。しかし、物事はすべて順調に行くとは限らない。年齢を重ねれば体力は落ちていく。ふしだらな生活はゼロベースに戻すだけでも強い自制心と弛まぬ努力が必要である。当初描いた目指すべき自分に到達する過程のなかで、さまざまな誘惑やトラブル、自らに「やらない」「できない」合理的な理由を探させることに、誰でも心当たりがあるのではないだろうか。


 

『マラソンマン』


 

『マラソンマン』


 

そんなアップダウンを繰り返しながらも、止まらずに歩を進めていった人間にだけゴールテープは準備されている。そこに到達した人間にだけ新たな道が開かれていくのだ。


 

『マラソンマン』



 

息子を想い、息子のために走ることを選択した勝馬がたどり着いたのはオリンピックが視野に入ったパリの世界選手権。ここで結果を残せば『マラソンマン』たちが目指す最高峰オリンピックで走る自分の姿を最愛の息子に見せることができる。
 

そして、父親は逝く。
 

ゴール目前に崩れるように倒れ込んだ父親の傍らで、少年は「父ちゃん、父ちゃん」と叫ぶ。「前みたいに立ち上がってよ・・・ねぇ・・・父ちゃん」困惑した一馬に勝馬はかすれる声で名前を呼び、憔悴した、しかし、愛する息子を愛でるような眼差しで帰らぬひととなる。


 

『マラソンマン』


 

『マラソンマン』


 

この『マラソンマン』は、父親を死へと誘ったマラソンを恨む息子一馬の物語へと引き継がれていく。父の死、友人の死、そして父親と同じく落ちていく一馬と、彼を支えぬく仲間たちとの物語へと。紆余曲折を経ながらも、目に焼き付いた父親の背中は、父子の夢であるオリンピックの舞台へと。

私は二年前、生まれて初めて大阪でフルマラソンを走った。42.195kmという距離は非常に長く、身体も悲鳴をあげた。しかし、3万人が走り、多くの観客が見守るなか、妻とともに来阪した当時3歳と1歳の息子にとって、「パパがすごかった」という記憶はいまも色褪せていない。
 

そして、常々言われるのだ。「パパ、今度はいつマラソン走るの?」。
 

いま、私が代表を務める認定NPO法人育て上げネットでは、東京マラソン2017チャリティの寄付先団体として、一般抽選とは別枠のチャリティランナーを募集している。

 

東京マラソン2017チャリティ

 

勝馬のようなオリンピックを目指すようなレベルではないが、仕事としても、またプライベートでも、四人の息子たちに「がんばってる、かっこいいパパ」と言ってもらえるようにまたフルマラソンにチャレンジする。

 

 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事