特攻の拓(ぶったく)の印税が恐竜の化石に姿を変え、子供達にロマンを与え続けているのかもしれないということをこの夏みんなに知ってほしい 『DINO2 The Lost Creatures』

山田 義久2016年08月25日 印刷向け表示
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DINO2 The LostCreatures 1巻
作者:所 十三
出版社:Beaglee
発売日:2016-05-26
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 今、世間的には”さかなくん”は有名ですが、実は、”恐竜くん”もいるのを知っていますか?
最近ではbeポンキッキーズでガチャピンと共演されているそうなので、知る人ぞ知るという感じかと思います。経歴もさかなくんと似ているところがあって、子供の頃に恐竜に興味を持って以来、ずっと取りつかれたように探求を続け、今サイエンスコミュニケーターとして活躍されている方です。高校からカナダに留学し、大学を通じて最前線で研究をしていたり、アカデミックな経験がバックボーンにある点もさかなくんそっくりです。そして、話の面白さも同じく超一流なので、遅かれ早かれ必ず世に出てくる方と思われます。

知識ゼロからの恐竜入門
作者:恐竜くん
出版社:幻冬舎
発売日:2015-07-08
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  • 紀伊國屋書店
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私も、たまたまこの恐竜くんの存在を知り(※)、あまりの話の面白さにこの子供向けに書かれた著書(↑)を読んでみたのですが、この本もハチャメチャに面白かったのです。「子供向けながら、最新の研究成果も余すところなく盛り込んだ」とのうたい文句そのままに、確かに大人が読んでも知のフロンティアを見せてもらっているようなドキドキ感。そして、細かい恐竜の発見や命名に関わる人間ドラマもふんだんに盛り込まれていて、とりあえず誰かに語りたくなる知識に溢れているんですよね。。
例えば、、、

  • 鳥は恐竜の子孫っていうより、恐竜そのものであり恐竜の生き残り。
  • だから、化石や琥珀から恐竜のDNA見つけて培養するより、鳥のDNAをさかのぼっていくほうが恐竜を復活させられる可能性が高い。
  • 映画「のび太と恐竜」のピー助は実は恐竜じゃない(首長竜≠恐竜)。
  • 映画「ジュラシックパーク」には実はジュラ紀の恐竜はほとんどいない(ジュラシック="ジュラ紀の"という意味。白亜紀が多いので、正確にはクリテイシャスパーク?)。
  • 学会のルールにより、昔のブラキオサウルスはギラファティタンに改名され、今は別の恐竜がブラキオサウルスを名乗っている。だから今の図鑑と昔の図鑑とでルックスが全然違う。
  • その昔ライバル学者同士の血みどろ化石分捕り合戦によって、何気に研究が進んだ。

などなど。
と、この本のことを語りだすと止まらなくなりそうなのですが。。。まぁ、ほんとおススメです。

で!この恐竜くんの本のタイトルのところをよく見てほしいのですが、”本文画”のところに”所十三”とあります。
おそらく30代以上の方はピーン!と来ていると思うのですが、所十三さんはあの「不運と踊っちまった(注意:これ、正しくは「ハードラックダンスっちまった」と読みます)」等の名言で有名なヤンキー漫画の金字塔、”ぶったく”こと『特攻の拓』の作者の方です。

漫画家の方がいろんな本にイラスト提供するのは珍しくないので、最初は「このイラストはぶったくの作者の方が描いたんだな~」くらいで読み進めていました。

後半は実際の化石の写真がいくつか載っていて、何気なしに眺めていたら、、、、ぶったまげました!!!

(出所:『知識ゼロからの恐竜入門』128p)

わかりますか?ここです。

 

(出所:同上 赤は評者)

そうです。なんと、これらの化石はすべて所十三さんが個人で所有されているものなのです!!!
数えてみたら、この『恐竜入門』には22枚の化石写真があるのですが、なんとそのうち13枚は"所蔵:所十三"となっていました。その時思いました。あ、これガチやと笑。

そしてよくよく調べてみると、所さんは国内外で買い集めた約300点の化石等を所有されていて、夏休みに日本各地で開かれる小さな恐竜展に貸し出したりされているそうです。化石を買い集める時には、自分のためというよりも、誰かの喜ぶ顔が思い浮かぶとのこと。
子供を恐竜展に連れていったことがある方は、既に所さんのコレクションを目にしているかもしれませんね。

私も高校時代に『特攻の拓』を全巻購入しむさぼり読んでいたのですが、我々読者の印税が今、太古の恐竜の化石となって全国の子供達にロマンを与えていると思うと、、なかなかぐっとくるものがありますよね。

そして!ようやく今回紹介する『DINO2 The Lost Creatures』ですが、本作はまさにその所十三さんが恐竜に対する知識と愛情と想像を詰め込んだ恐竜漫画なのです。
この漫画がすごいのは、一見超絶非現実的な設定ながら、背後に堅固なサイエンスが潜んでいることです。話のベース自体は日本語(※なぜか関西弁多め)をしゃべる恐竜が演じる親子愛や友情などテーマにした人情劇です(笑いありなので新喜劇?)。しかし、作中の詳細な解説や所十三さんの恐竜に対する造詣からも想像がつくように、全編を通じて実際の研究成果や学説を尊重したうえで、緻密にストーリーが作られていることが私のような素人にもわかります。

第一巻一話目からいい話です。

(出所:vol1:掟 ティラノサウルスの巣でトリケラトプスが生まれる。なぜか関西弁べらべらなT-Rex)

これ、なぜか関西弁をあやつる母ティラノサウルスが、巣に紛れ込んだ天敵トリケラトプスの子供ウマソー(「うまそう」だから命名)を葛藤のなか育てていくという話なのですが、この話の名場面は腹痛で苦しむウマソーのために母ティラノサウルスがトリケラトプスの群れに入り、糞を咥えて自分の巣に戻るところです。母の愛が生まれた瞬間。

(出所:vol1:掟 腹痛で苦しむウマソーのために、トリケラトプスの糞を口に含んで持ち帰る)

これはトリケラトプスの糞を薬としてウマソーに与えるためなのですが、この行動にもサイエンス的な背景があって、実は臼歯胃石(植物食恐竜が消化を助けるために胃の中に持つ石。実際恐竜の胃石の化石も見つかっている)を持たない子トリケラトプスの消化機能を助けるため腸内細菌を取り入れる必要があった、と解説が添えられています。ただのベタベタの人情噺ではないのです。

この回の最後で、このトリケラトプスとティラノサウルスの親子は一旦別れを迎えます。この話はここで終わると見せかけて第二巻に再び登場し、またそれも感動的な展開をします。

(出所:vol1:掟 ウマソーをトリケラトプスの群れに戻すために啖呵を切るティラノサウルス。大阪では200mに一人くらいこういうおばちゃんいるw)
(出所:vol1:掟  トリケラトプスの群れに戻ったウマソーに対して、ボスが命の重さを諭す姿がめちゃシブい。笑ってしまいそうだけど、実はこれが伏線になっていることに一巻後気づく。ここでの女王とはもちろん母ティラノサウルスのこと)

この絶妙なさじ加減の人情噺とサイエンスの二層構造で様々な恐竜の世界が描かれていき、楽しみながら、恐竜に関する知見を深めることができます。映画ジュラシックパークで暴れまくっていたヴェロキラプトル(←この頭部の化石も所さんは所有されているという凄さ)も、最新の研究を踏まえた羽毛が生えたデザインに変えて描かれていて、「やっぱりちょっとかわいくなってるな」、、、とべたべたの人情噺のメインストリーム裏で、科学的なディテールまで見どころ満載なのです。
まぁ、それでも第三巻くらいになると若干暴走気味になって、こんなどこかで見たような場面(↓)も。。。笑

(出所:vol14:秩序 こういうセリフ、どこかで見たような。。。w)

若干ネタばれですが、実は『DINO2』を読んでから恐竜くんの『恐竜入門』を読み直すと、『恐竜入門』のイラストの大部分がこの『DINO2』からのものであることに気づきます。この2冊は内容的にもリンクしているので、この2冊を行ったり来たりして読むとおもしろいし、理解も深まるし、4倍くらい楽しくなるというカラクリがあります。是非2冊を読み比べてみてください。そして、恐竜に興味持ちそうな子供がいる方に断言します。買い与えなければならないのは恐竜図鑑ではありません。この『恐竜入門』と『DINO2』の2冊です!!!

恐竜が地球に生きたのは1億年間以上で、人間がその恐竜を研究し始めてからたかだか200年くらい。恐竜くんの名言を借りると、「1億ピースのパズルの全体像を100ピースのみで想像しているようなもの」というのが現在の恐竜研究の実情。だからこそ、そこに広がるフロンティアはまだまだ果てしないし、これからも毎年のように新しい知見が加えられ、少なくとも我々というか人類が滅びるまでの期間くらいでは研究が終わることはないでしょう。そんなフロンティアの入り口を覗く第一歩として本作はおススメ!夏の終わりにどうぞ!

※:私が恐竜くんを知ったのが、「バイリンガルニュース」というポッドキャストなのですが、この配信が震えるくらいおもしろいのです。恐竜くんはゲスト(6月16日の回)なのですが、ナビゲーターの2人がもともと恐竜に詳しい二人なので鋭く深い、マニアックな質問をしまくり、恐竜くんが全力で3時間答え、語り続けます。無料で配信されているので、恐竜に興味がある人はぜひ。

疾風伝説 特攻の拓(1) (ヤンマガKCスペシャル)
作者:所 十三
出版社:講談社
発売日:2011-08-05
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"ぶったく"こと特攻の拓。週刊少年マガジン全盛期を体験した世代には多大な影響を与えたカリスマ的ヤンキー漫画。私も天羽時貞の影響でギターを買い(まったく弾かず終わる)、ベースのチョッパー音が「バイン!ベシ!」だと長い間信じていた。さすがにリーゼントにはしなかったけどね。。。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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