読書会の楽しみが十全に詰まった一冊──『プリズン・ブック・クラブ コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』

冬木 糸一2016年09月11日 印刷向け表示
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プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年
作者:アン ウォームズリー 翻訳:向井 和美
出版社:紀伊國屋書店
発売日:2016-08-30
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あなたは読書会に参加したことがあるだろうか?

読書会とは言ってみれば、本を読んで、集まって、語り合うというただそれだけの会のことだが、これがなかなか奥が深い。本はどうしたって読むのはひとりだが、3人いれば3通りの読み方があり、たとえ「この作品がおもしろい/つまらないのはなぜなのか?」ということであっても突き詰めて話し合うことで読みの違いが明確になる。友人同士であっても、登場人物の行動は善か悪か? 自分だったらどうしているのか? と普段と違う話題を語り合うのは楽しいものだ。

というわけで本書『プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』は、そんな無数の楽しみのある読書会を"男子刑務所で"一年間行ってきた著者のアン・ウォームズリーによる体験を綴った一冊になる。著者は囚人ではないが、月に一度開催されるこの刑務所読書会の創設者である友人に誘われたのだ。最初こそ、自身がかつて強盗被害に遭遇したトラウマもあり受刑者らにたいして拒絶反応を示す著者だが、友人の熱意ある説得に加え、自身が作家であることの好奇心も手伝って参加することを決意する。

孤独で、逃避できる場所が少ない刑務所だからこそ、人が本を求める気持ちは外よりも強いのかもしれない。最初はびくびくしていた著者も次第に、熱心/切実に本を読み、時に斬新な解釈を提案する荒くれ者たちと驚きを持って接していくうちに、自然に打ち解けていくことになる。

読書会は、小説かノンフィクションが課題図書として取り上げられ、自主的に集まった受刑者らがその本についてどう思うかを語り合っていくオーソドックスなスタイルで進行する。「それがどんな本なのか(小説ならばあらすじ)」が提示されたあと、受刑者らの議論と、その時著者の感じたことが加えられていくので、取り上げられている本を一切読んだことがなくとも安心だ。ネタバレも最低限なので、読み終えた時には読みたい本が増えていることだろう。

まるで一緒に参加しているような

非常にうまく議論の過程がすくい上げられていくので、まるで自分が読書会に参加しているような感覚になるのも本書のおもしろさである。たとえば、『ニグロたちの名簿』という本を取り上げた会で奴隷制度へと話題がうつれば、「白人としての集団的責任を感じた」という人もいれば、「白人というだけでほかのやつらの責任を負わされたらたまらねえぜ」という人も現れる。

イスラーム教の女性抑圧を糾弾し、オランダで国会議員としての活動も行っていたヒルシ・アリの回想録『もう、服従しない』を課題図書にした読書会では次のような議題が持ち上がる。

 話し合いの時間が残り十五分になったとき、どんな読書会でも意見が百出しそうな質問をフィービーが投げかけた。ヒルシ・アリがイスラーム教に背を向けることになったのは、少女時代に読んだ西洋の小説に影響を受けたからではないだろうか、と。

こうした具体的な疑問にたいして、「著者にとって西洋の小説が重要な役割を果たしたとわかる描写が2ヶ所ある」といってページを挙げその説を支持する参加者があらわれるかとおもえば、また別の参加者は「こんなことを言っている箇所もあるぞ!」とその説を支持するか、あるいは「違うんじゃないかな?」と新説を提起するために新たなページを指定する。

そうした議論を受け「同じ学校にいたほかの少女たちは、なぜ彼女のような行動に出なかったのだろう?」と新たな疑問につながって──と、多様な価値観が一同に介し話題が次々とつながっていく読書会ではよくある(これがまた楽しい)光景が、本書では生き生きと描かれていくのだ。

読書会にありがちな課題

刑務所読書会は立ち上げられて間もない会であることも手伝ってか、課題本を渡され、持ってはいくものの会には現れない者、読み終えずに手ぶらで参加する者、他人に構わずひとりで喋り続ける者、宗教や人種などのセンシティブな話題になった時のコントロール方法、いまいち盛り上がらない時はどうすべきか──などなど、読書会にはありがちな無数の課題に直面していく。

これについて著者やボランティアの人々は、受刑者のうちに特別な読書大使を数人任命することで、参加者へと読んでくるように促しをかけたり、参加者をそもそも絞ったりという案を無数に考えだしていく。読む本についても論点が多くなりそうな本の方が良いだろうか、など「読書会で取り上げる本を選ぶところ」まで含めて描かれていくので、本書を読むことで読書会が具体的にどのようなプロセスの積み重ねで成り立っているのかもよくわかるだろう。

刑務所でやっているからこその問題もあるけれど(荒っぽい男たちが集まっているので、議論が紛糾すると極端に空気が悪くなったりする)、収監され「自由を奪われたもの達」だからこその視点も生まれてくる。たとえば『ありふれた嵐』を題材にした会では、受刑者らが冤罪によって警察に追われる主人公に対して「まずは弁護士に相談すべきだったな」とか、「ムショにいたことのあるやつなら、殺人現場の凶器に触れちゃいけないことくらい誰でも知っている」といって先輩風吹かせながら刑務所あるあるネタを話していくのが独特でおもしろいところだ。

おわりに

「読書会」というと会がついているだけになんだか大げさなものに思えてしまうかもしれないが、たとえば友人ひとり、あるいは両親なんかと「この本について話さない」といってコーヒーでも飲みながら話をするのも立派な読書会なのだ。本書を読めば、たぶん誰しも読書会を主催/参加してみたくなるだろうが、これまで本格的には参加したことのない人であったとしても、まずはそれぐらいのところから気楽にはじめてみるのも良いかと思う。

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