タブーを犯すと人生も料理も美味しくなる『カラスと書き物机はなぜ似てる? 』

佐藤 茜2016年09月20日 印刷向け表示
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カラスと書き物机はなぜ似てる? (ジュールコミックス)
作者:小池田 マヤ
出版社:双葉社
発売日:2015-10-17
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 子持ち主婦が一人で外食。

「法律違反ではないけれど、ダメなんじゃない?」という世間一般の空気感と、「そんなことないよ」という意見を、さらっと描いているのが、本作。

ああ、この話で救われる人が、一体どれだけいるのだろうか!

東京・高円寺にあるお酒とサラダの店「呟木」に集う女性客の一人、新上さんは幼稚園児の母。食べることが大好きなのに、呟木に通っていることをママ友に責められる。母になったら、ひとりで外食せず、いつも子供と食事をしなくてはいけないのか―――物言わぬ世間の常識に苦しむ新上さん。はたして、新上さんの決断は――――!?(本文紹介より)


『女と猫は呼ばない時にやってくる』『老いた鷲でも若い鳥より優れている』『鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす』に続く「女と猫シリーズ」第4弾。

モラルの皮を被ったくだらない因習と、それからはみ出す人に対する容赦ない排斥がものすごく自然に描かれており、一瞬背筋がぞっとします。本作では特に、ママ友の世界が恐ろしい。

夜、一人で外食に行っていることを「不倫してるんじゃないの?」とママ友から責められるとか!

『カラスと書き物机はなぜ似てる? 』小池田マヤ (著)双葉社 P73

この「あの人だけずるい」という感覚が私はどうしても理解できないのですが、絶対にこういうこという人いるんですよね。俺が我慢してるからお前も我慢しろとかどんだけマゾなんだよ!亀甲縛りは一人でやれ!と言いたくなるところ、本作では周りのサポートも、本人からの反論もきちんと描かれており、実に平和的に解決しているので安心です。血の雨が降るのはファンタジーだけ!現実ではこの話をお手本として上手くかわせるようになりたいですね。 

『カラスと書き物机はなぜ似てる? 』小池田マヤ (著)双葉社 P83

『カラスと書き物机はなぜ似てる? 』小池田マヤ (著)双葉社 P85

それから、真似できる料理も多数収録されており、読むとお腹が減るのもこの作品のすばらしいところ。新上さんが家庭で作るホットプレートでつくるリコッタチーズ入りパンケーキはもちろん、シリーズのキャラクター達が常連として通うお店「呟木」のメニューもあいかわらず美味しそうです。オレンジ味のそら豆とか、試して見たくなること請け合い。そら豆、作り方はとっても簡単なのでぜひ作中でご確認ください〜。

『カラスと書き物机はなぜ似てる? 』小池田マヤ (著)双葉社 P87

『カラスと書き物机はなぜ似てる? 』小池田マヤ (著)双葉社 P14

美味しい食事で思い出しましたが、そういえば、フランス料理も、トラディショナル・キュイジーヌから“ヌーヴェル・キュイジーヌ La Nouvelle Cuisine”(新しい料理の意味)を生み出し、1970年から一時代を築きました。そして、スペインのサン・セバスチャン地方がそれを取り入れた上で、フランス料理界では個々の店で門外不出とされていたレシピや新しい技法をお互いに教えあうことで街のレストランのレベルの底上げを行い、1990年には「美食の街」として町おこしに成功。今やミシュランの星11を誇る美食天国、星付きレストランの密集度の高さは、京都に次いで世界第2位を誇っています。やはり因習にとらわれるずに、新しい事をドンドン取り入れたほうが幸せになれるのでしょう。主婦だって、子供を預けられるなら外食したっていいじゃない。もちろん、子供が元気であることは第一条件だけれども。


さて、本作は、新上さんのお話に加えて、前作『鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす』でアラフォーバツイチの編集者・九(いちじく)さんの、年下部下(体重オーバー)との恋愛模様のその後のお話も収録されており、全編通して非常に大人のお話です。しかもそれが、スーパーなセレブリティの大人ではなく、一般的な大人の、というのがこのシリーズの特徴の一つであり、他作品と一線を画すところ。

思えば「こちとら日常じゃなく、まだ見ぬ世界のことを知りたいんだよ!」とばかり、気がつけばまだ見ぬ新大陸を求める冒険家のように「等身大」ではなく、常に「背伸びした」物語を求めていました。

小学生のときには、中学生の主人公が制服姿で悪と戦う物語に(美少女戦士セーラームーン※最初は中学2年生の設定)、中学生ではスワッピング家庭(誤解のある言い方)の男の子と女の子のラブストーリー(ママーレード・ボーイ)、高校に入ると大学サークルでオタク活動に勤しむ人々(げんしけん)など、常に主人公は年上の物語ばかり。

進研ゼミの勧誘マンガのごとく人生タスクをマンガで先取り学習してから実践におよんでいたおかげでしょうか、失恋でさえも「ああ、これマンガで読んだやつだ!」というレベルにまで達しました。

(それがいいか悪いかはさておき)ありがとう、マンガ。これからもよろしく…と人生をマンガで学ぶ気まんまんだったのですが、30歳になって困ったのが、30歳以上の女性を主軸に描いたラブストーリー以外のマンガがことのほか少ないということです。特に主婦ものは、嫁姑ものなどのかなり極端な話が多い。子育てマンガはあるにはあるけれど、対育児が主で、育てる人にフォーカスが当たっているかというと疑問です。うーん、困った。と思っていたところ出会ったのが本シリーズ。そもそも、昔は女性の30代以降って子育てオンリーが主流だったので、あんまり物語にできなかったんでしょう。今は今で、選択肢が多すぎて共感を得られるような内容を描くのは、とても筆力がいることです。

そんな中でこのシリーズは、アラサーどころか、『老いた鷲でも若い鳥より優れている』に至っては、アラフィフの女性のパート先と成人して家に寄り付かない息子との悲喜こもごもまでもが描かれており、もうしばらくは、人生の師に困らずに済みそうです。ありがとうございます。

先の見えない人生を、星明かりのようにふんわり照らしてくれる作品。

オススメです。
 

女と猫は呼ばない時にやってくる (ジュールコミックス)
作者:小池田 マヤ
出版社:双葉社
発売日:2012-05-17
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老いた鷲でも若い鳥より優れている (ジュールコミックス)
作者:小池田 マヤ
出版社:双葉社
発売日:2013-04-17
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鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす (ジュールコミックス)
作者:小池田 マヤ
出版社:双葉社
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