悪いことだって分かっていても、それしかできない子どもたち。「神様がうそをつく」 神様がうそをつく せいいっぱいの嘘を

船越2016年09月27日 印刷向け表示
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正しいことを「言うだけ」ならば、多分そんなに難しいことじゃない。でも、正しいことを「行う」っていうのは、口にするよりはずっと難しいことです。

  

間違っている。悪いことだ。それが分かっていても、それしかできない時があるならば、どうすれば良いのでしょうか。

 

「神様がうそをつく」は、小学生の少年「なつる」と、同級生の少女「理生」を中心に描かれた物語です。

 

捨て猫を拾ったなつるは、家に連れて帰るも、母が猫アレルギーのため飼うことはできず。途方にくれている中、たまたま会った同級生の理生に、猫の世話を頼むことに。その中で、なつるは理生の秘密を打ち明けられます。

 

        

 幼い姉弟の、二人暮らし。明らかに、異質な環境。父親は漁師でたまにしか家に戻らず、母は昔に家を出て。

理生も自分のいる環境が異質なのことは理解しています。しかし、話せば児童相談所に連れて行かれて、家にいられなくなる。彼女は今の環境を守るため、家事や弟の世話を一人でし続けていました。

 

なつるは多少疑問に思うことはあっても、それ以上の追求はしませんでした。深く考えていなかったというのもあったし、その空間が居心地が良かったから。

新しいサッカーのコーチが好きになれず、夏合宿も口実をサボったなつるにとって、理生の家は、心地良い逃げ場所のような存在でした。

 

3日間の合宿に行っていることになっているなつるは、理生の家で3日間を過ごすことに。小学生同士とは言っても、思春期を迎えようとする男女。

甘酸っぱさが漂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに背中を向けているのが、いかにも思春期の男女らしい。心臓のドキドキさえ、聞こえてきそうなシチュエーション。実際に、互いの鼓動は聞こえてしまっているかもしれません。

 

そんな共同生活を通して、心を通わせていく。気持ちが、惹かれ合っていく。

 

名字で呼び合っていたのが、名前で呼び合うようになったその時に。

「ただの」同級生ではなくなっていたのでしょう。

  

けれど、世界は優しくなくて。

秘密を秘密のままには、してくれなくて。

 
それは理生が隠した、祖父の遺体。庭から出ていた遺体。父がいない時に祖父が死に、小学生の理生にはどうしたら良いか分からなくて。

 

人に助けを求めようにも、父がいないこの状況が、世間体的に明らかに異質なのは理解していて。助けを求めれば、もう今の暮らしができないことを理解してしまっていて。
彼女は、死んだ祖父の遺体を、一人で庭に埋めました。それが、正しくないことだと分かっていながら。
 
理生の秘密を知ってしまった次の日、なつるは理生に対する同級生の心無い一言にキレて、暴力を奮ってしまいます。
その際に母親に吐露した心情に、返す言葉を私たちは見つけられていない。
 
 
どうしたら良かったのだろうか。何度も、考えてしまいます。誰かに伝えると言うことは、正しいことでしょう。お葬式をして、しかるべき機関に保護される。それがきっと、正しい。
でも、理生は今の暮らしを守りたかった。父親を、世間から守りたかった。そういった想いがあるならば、理生が取れる行動はそれしかなかったでしょう。
間違っている。

 

 

それは多分、その通りでしょう。でも、じゃあどうすれば良かったのか。彼女の心情、彼女の立場になって考えた時に、どうすれば良かったか私には分からない。
正しくないと分かっていても、「じゃあどうすれば良かったのか?」という問いに、答えることはできない。
 
この後、なつると理生が取った行動も、多分世間的には正しくない。二人共それは分かっていたけど、そうしようと決めました。泣きたいくらいの、心細さを味わいながら。
地元を離れ、逃げ出した先。間違いながらも、心を通わす様子に、どうしようもなく胸が震えました。


 

 涙があふれる。間違いながらも、通わせた想い。
言葉にならない想いが、溢れてくるのが分かりました。流した涙の温度さえ、伝わってきそうなほどのシーンです。
 母親が迎えに来た時、母はなつるのことを攻めませんでした。なつるがたった一人で、理生を守っていたことを理解したから。間違い傷ついた少女を、支えていたことを知ったから。
母にそれを告げられた時、抱えてきたものが溢れ出す描写もグッときました。優しさと、愛しさが満ちてくる。
 「神様がうそをつく」というタイトルですが、その意味は最終話で分かります。神様がついた優しい嘘に、私たちは手を伸ばしながら生きていく。読み終わった後に、きっとこの意味が分かるはずです。

 

 この漫画の最後もまた、神様がついた嘘かもしれません。でも、たとえ嘘でも、私はこの嘘に手を伸ばして生きていきたい。
神様がうそをつく。 (アフタヌーンKC)
作者:尾崎 かおり
出版社:講談社
発売日:2013-09-20
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