石川啄木は「ゲスの極み」なんですよね(千船翔子インタビュー vol.3)

マンガサロン『トリガー』2016年10月09日 印刷向け表示
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 文豪ギャグ漫画『文豪失格』著者・千船翔子さんへのインタビュー。第3弾では、千船さんを発掘した担当編集者を交えつつ、独特の作品が生まれるまでの様子に迫ります。

ネタの追求とキャラクター作りには徹底的にこだわる

―― 『文豪失格』では「天国出版の編集者と締め切りに追われる文豪」のエピソードなども描かれていますが、担当編集者の方とは、すごく気が合うとか。

千船翔子(以下、千船) 歴史オタク同士なので(笑)。

担当編集T(以下、T) 千船さんは歴史散策がお好きなんですけど、ブログで昔描かれていた旅行記とかも、すごくおもしろいんですよね。

千船 今後、旅行記も描いてみたいですね。一番描きたいかも。

T 最近はTwitterで、旅行中にリアルタイムで実況されているんですけど、このあいだ行かれていた台湾では、知らないおじさんについていったりとかして。

千船 いい人だったんですよ(笑)。今までの旅の中で一番いい人だった。私が一人でふらふら旅していたら、心配してくれて、見どころとかいろいろ教えてくれたんです。「これ、絶対最後にお金取られるパターンだ、いままでの旅はそうだった!」って、最後まで疑ってかかってたら、最後、「それじゃあ!」って去ってった。「疑っててすいません!」って思いました(笑)。

T 疑ってるのに、ついていっちゃうところがおもしろいですよね。

千船 危険ですよね(笑)。マカオでは詐欺師の家に行ったこともあります。マカオでふらふらしてたら、声をかけられて。絶対怪しいなって思ってたんですけど、なんとなく興味がわいたので、家にまでついていって。そうしたら3人くらいの人が「ようこそ」って迎えてくれて、ごはんを食べさせてくれた。そのまま和気あいあいとしていたら、別室に連れていかれて、「いっしょにビジネスをしないか?」って話を持ち掛けられて……。「さすがにこれ以上はダメだ」と思って、「そういうの興味ないんで」って断って、逃げ帰りました。あれはさすがにちょっと危なかったですね(笑)。

―― そういう、あとになって笑い話にできるような体験が、ギャグ漫画を描くときに生きていたりしますか?

千船 生きていると思います。そういう行動をするって、ある意味ギャグじゃないですか。おもしろそうだな、と思ったらついていく。そういうところが、無意識のうちにギャグとして昇華されてる、っていうのはあると思います。ネタほしさで危ない橋を渡る。仕事でもないのに(笑)。

―― 打ち合わせでは、そういう旅の話などをよくされているのですか?

T そうですね。漫画本編の話はあんまりしなくて。千船さんは、ギャグがおりてくるまで待つタイプなんですよ。ネームの描き方も結構変わってて、セリフの位置から全部埋めていく。小ネタとかも全部セリフで構成して、そのあと画を入れていく。セリフがきちっとギャグやストーリーにはまっていかないと、描きだせないっていうタイプなので。そうすると、私がお手伝いできることは、資料本を送るくらい。

千船 でも、人に話さないと、何も思いつかないんですよ。家の中で一人でぼーっとしてても、何にも思いつかない。

T 資料館に一緒に行ったりしますね。このあいだは、池袋の江戸川乱歩邸に行きました。そういうところに一緒に行って、ネタを見つけるお手伝いとかはさせてもらっています。

千船 たいてい一緒にどこか行きますよね。美術館とか文学館とか。それで、「おもしろかったね」ってご飯食べて、ついでに、ちょっとだけ仕事の話しよう、みたいな(笑)。

T このあいだ、駒場の日本近代文学館にある川端康成の展示室を見に行ったら、幼少期から晩年まで、みんな同じ顔してたんですよ(笑)。

千船 常に無表情なんですよ。それが『文豪失格』でも生きてるかも。

 

T 『文豪失格』の康成は、「真顔で変態っぽいことを言うおじさん」みたいなキャラクターですよね。千船さんは、そういうエッセンスをキャラクターとして立てるのが強烈にうまい。

千船 被っちゃいけないな、っていうのは意識してますね。文豪が10人いたら、それぞれ違う個性があって、違う考え方や違う性格をしているはずなので。漫画でも、全員が全員、違いがわかるようじゃないとダメだと思っていて。「この2人は似てる」、とかって思われちゃうと、キャラクターとしてあんまり立っていないことになるから、そこだけは気をつけて描いています。

T 志賀直哉のときなんかは、すごく悩んでいて。今まで太宰の考えを中心に描いてきたから、志賀のキャラクターがうまくつかめないって(笑)。だから作中でも、太宰との関係をおもしろく描けたのかな。そこから、「太宰が猛烈に嫉妬するリア充キャラ」としての志賀を千船さんの中で作って、うまい掛け合いができるようになった。

千船 そうですね。そうやってキャラが立っていたほうが、読者さんにもわかりやすいし。個性がなくてぼやけていたら、そのキャラクターがかわいそうだと思うんですよね。だから、ギャグ漫画の登場人物として描くんだったら、「この人にしかないところだよね」っていう部分からキャラ立ちさせないといけないな、って考えながら描いてます。

―― それでは、今後『文豪失格』の中で出してみたい文豪は?

T 坂口安吾と江戸川乱歩が2巻の『文豪失格‐文豪の恥ずかしい手紙編‐』から出てきます! ただ、ウェブでは読めないので、是非単行本を買って読んでいただければ。

千船 原作との相談にはなるんですけど、私が今すごく興味を持ってるのは、……啄木ですね。石川啄木。私、この人大好き(笑)。おもしろいんですよ。いまのイチ押しですね。Twitterに小ネタとかも載せてるんですけど、読者さんの反応もいいので、可能であれば出したい。あの人も、相当話を盛られてるじゃないですか。でも、金田一京助に借りた金で遊郭に行きまくったり、そこでのプレイの様子をローマ字で書いた日記が残ってたりと……世間のイメージとぜんぜん違うのに!って思っていて。

T 千船さん、「ゲス啄」って呼んでますよね(笑)。

千船 そうなんですよ、「ゲスの極み啄木」(笑)。ただまじめなキャラクターとして描くよりも、「この人ちょっとダメな感じだよね、だけどそこが魅力的だよね」って描きたい。「この人はただただ素晴らしい、偉大な方で……」みたいな描き方はしたくないし、反対に、「この人はこんな悪いことをした、悪い人だ」みたいな描き方でもなくて。「確かにすごい人だけれど、こんな恥ずかしいところもあったんだよ、だから私たちにとって親しみやすいよね」っていう部分に、私は文学性を感じるので、そういう部分を作品に昇華させていきたいですね。

(終わり)

※この記事は「ホンシェルジュ」

( http://honcierge.jp/interviews/94/interview_contents/175?debug=true )より転載いたしました。

 

 

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