大雑把女子と童貞男子の不毛な、いや、実りあるバトルに注目!『カレは女とシたことない。』

小林 みずほ2016年10月09日 印刷向け表示
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作品を構成する要素がパズルのようになっているとしたら、そのすべてが妙にかちっとはまるみたいな、気持ちの良い作品にたまに出会う。こんなこと言うのはおこがましいかもしれないけれど、それは作品や著者と「気が合う」みたいな感覚で、私にとって都陽子さんはそんな著者のひとりだ。好きすぎて毎回新刊を楽しみにしている。

今回紹介する『カレは女とシたことない。』は、32歳でお見合いをしたら相手が同級生の童貞だった、という話。タイトルも帯の「お見合い相手は32年間チェリー様。」も煽っている感じだけれど、それとは裏腹に、中身は誠実に人と向き合うコツが見えてくるハートフルな(?)作品だ。

32歳で焦って婚活を始めた亜希子がお見合いで出会ったのは、学生時代にイケメン御三家として扱われていた市原くん。一度会ったあと水族館に誘われて行くのだけれど、そのときの衝撃シーンがこちら。


(11ページ)

「まねっこ」……!!!!
次のページで亜希子も「えええかっわ…!!」と言っている通り、この嫌味のないナチュラルに天然でかわいい男子、たまにいるんだよ……! とのっけからくらくらします。そして大抵の女子が発する「かわいい」はすべてのほめ言葉の総称なので、ぐいぐい魅力的に感じるわけです。そのあとも食事に行き、やっぱいいなあ、この人と一緒にいたいなと思い始める亜希子ですが、ここで問題の告白が訪れます。


(16・17ページ)

ええええ〜〜〜〜〜!!!
でも亜希子からすれば、実は女がいるとか無職とかより、あははと笑ってしまえることだったよう。意外に男性側が気にしてるだけで、驚きはするけど気にしないという人は多いのではないかと思うけれど、ともかく市原くんは明るく笑ってくれた亜希子に救われて、ふたりの交際がスタートします。

8年間彼氏がいなかったがさつな亜希子と、優柔不断で童貞の市原くん。交際が始まったからといって、そこでめでたしとは当然ならない。そこで登場する市原くんの家族が、また曲者ぞろい。美人で料理上手な女性として兄といちゃいちゃする妹・聖(実は男)に驚いただけでは飽き足らず、実家で出会うお姉さんと母親が亜希子の一挙一動にずばずばと難癖をつけてくる……。


(30・61ページ)

こういうところのあるある感、この家族が出てくることで、市原くんがなぜ今みたいに気弱に育ったのかがわかるし、なぜ聖がお兄ちゃん子なのかも分かる。登場人物同士の性格の噛み合いがものすごいはまり方で、都陽子さんの作品の一番気持ちいいところだと思う。

ふたりは色々な問題を一つずつ超えていくのだけれど、一度大きな喧嘩が訪れます。そのときの亜希子の台詞が、「そんなんだから今まで童貞なんじゃん!」……! 自分が許容できるかどうかとは別に事実として「童貞」はあって、細かな言動のひとつひとつが結果にもつながっているというこのつらすぎる一言。すぐに亜希子にもブーメランが返ってくる。


(94ページ)

ただ単に彼がイケメンなのに童貞でした、という話ではなくて、それにはやっぱり理由があるし、自分とその人が一緒にいようとしていることにも理由がある。喧嘩でふたりが発する言葉が性格の違いもよく表していて読みながら「うわぁ…あるあるあるある……」となること必至。そのあとふたりはどうなるのか、8年彼氏がいない大雑把女子と優柔不断童貞男子の不毛な、いや、実りあるバトルに注目。こういう人ってこういう服着てるとか、そうそうこういう仕草する! とか、フィットする感覚が心地よくてどんどん好きになってしまうので、全編通してディティールを是非見てほしい。

個人的には、この漫画の本編のあとに収録されている番外編『まだ聖くんだった頃』が良すぎて即ノックアウトされた。漫画ではときどき、この一言が、このワンシーンが、この表情が忘れられないという瞬間に出会うけれど、居酒屋で鏡に向かう聖の表情の艶っぽさがものすごく綺麗。ばかみたいでも、非現実的でも、恋するっていいなあ! 聖が亜希子の弟を、恋というより「信頼」した瞬間の描き方がすごく自然なのに鮮やか。1巻完結で番外編も同時収録なので、最後までぜひ!

カレは女とシたことない。 (Feelコミックス)
作者:都 陽子
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こちらも1巻完結。おすすめ。

地下アイドル、職場の男にバレまして (フィールコミックス FCswing)
作者:都 陽子
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現在連載中の作品。続刊あり。

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