トランプ勝利後の未来を、藤子・F・不二雄のマンガで解釈してみた。 世界を救うのは『イヤなイヤなイヤな奴』かもしれない。

今村 亮2016年11月15日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

第45代アメリカ大統領選挙が決着。

マジか。

筆者もまたみなさんと同じように、まさかトランプ氏が勝利するとは思っていなかった一人です。「ネタでしょ」「泡沫候補でしょw」というメディアやSNSの空気にまんまと呑まれていた自分の価値観の狭さを実感する今日この頃です。

おかげで気分はなんとなくブルーです。なぜだろう?不思議なもので、普段は国際政治なんてちっとも意識していない筆者も、この問題に限ってはなんとなくブルーになったり、語りたくなったり、評論したくなったりします。これこそがトランプ氏の引力なのでしょうか。
 

トランプ氏は「イヤな奴」だ!

報道を通して見るトランプ氏は、わかりやすいイヤな奴です。ゆえに筆者のような素人でさえブルーになることが可能なのでしょう。たとえばこういう様子。 

なんて自己中心的!なんてイヤな奴! 

なんて暴論!なんてイヤな奴!

そういえば「バック・トゥー・ザ・フューチャー2」の悪役トランプ氏がモデルだという裏話も話題になりました。映画が風刺的に描いた未来が現実に接近しているようです。


このイヤな奴が大統領に就任することを憂えて、アメリカでは全国的なデモが広がっていると報じられています。これからの世界史は、いったいどんな方向へ転がるのでしょうか?

こんなときは藤子・F・不二雄を読み直すしかありません。
 

異色短編『イヤなイヤなイヤな奴』

今回ご紹介したい『イヤなイヤなイヤな奴』は、1973年にビッグコミックに掲載された読切です。

(画像は藤子・F・不二雄『イヤなイヤなイヤな奴』)

この作品はSFです。時代は宇宙世紀。舞台は宇宙船レビアタン号。主役は、遠い星から地球へと資源を運ぶ6名の男性たち。(ちなみにレビアタンとはリヴァイアサンを意味するヘブライ語なのだそうです。)

地球へと近づく宇宙船。ようやく航路が終着を迎えようとしたところで、運輸員たちの雰囲気に違和感が漂い始めます。たとえばこんな風に。
 


(画像は藤子・F・不二雄『イヤなイヤなイヤな奴』)


雰囲気は次第に悪化します。こんな風に。
 


(画像は藤子・F・不二雄『イヤなイヤなイヤな奴』)


なるほど。宇宙船は密室です。長い宇宙生活で、船員のストレスは限界に近づいているのでしょう。些細な事が揉め事につながり、どんどん加速していきます。

中でもヒノとキヤマの対立が深刻化してきて、事態は一触即発です。
 


(画像は藤子・F・不二雄『イヤなイヤなイヤな奴』)


そんなとき、ミズモリが船内で暴挙をはたらきます。なんと原子炉の制御室に閉じこもってしまうのです。 
 

(画像は藤子・F・不二雄『イヤなイヤなイヤな奴』)

 

ネタバレを含む藤子・不二雄のメッセージ

ネタバレで恐縮なのですが、、、


ミズモリの暴挙は実は計画された芝居だったことが最後に判明します。

宇宙船内のストレスは、この時代における重大な社会問題です。資源を安全に輸送するためには、宇宙船の安全管理が至上命題であり、すると船内のストレス管理がビジネスとして成立することになります。

実はミズモリの役割は、自らが「共通の敵」を演じ、乗組員同士を結束させる「にくまれ屋」だったのです。
 


(画像は藤子・F・不二雄『イヤなイヤなイヤな奴』)


この短編を読み直して、筆者ははっとしました。藤子・F・不二雄先生にがつーんとやられた気分です。

どうせトランプ氏が当選したという結果は変わりません。ならばニュースを見ながらリベラルなため息をつく憂鬱な自分に酔うよりも、少しでも希望的な発想を見出すことはできないのでしょうか?現実的かつ建設的な姿勢はありえないのではないでしょうか。そもそも私たちは国際政治なんか見向きもしない素人なのですから。

※ちなみに作品は異色短編集『箱舟はいっぱい』に収録されております。ぜひご覧ください。 

箱舟はいっぱい (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
作者:藤子・F・不二雄
出版社:小学館
発売日:1995-07
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 

 トランプ氏は「にくまれ屋」かもしれないという希望

たとえば。トランプは「にくまれ屋」なのだと希望することはできないでしょうか。

藤子・F・不二雄が1973年に想像した宇宙船のように、2016年現在の世界は分断し、限界化しつつあります。国家間の格差は深刻化し、貧困の格差は救いようもなく定着し、民族や宗教の分断がわかりあえない地点へ向かいつつあります。

そんな時代におけるトランプ当選です。

もしも・・。もしもですよ。トランプは世界をひとつにつなぎ直すべく、あえて自らを「イヤなイヤなイヤな奴」に思われるよう偽悪化し、共通の敵を前にした人々の奮起を促すための、「にくまれ屋」になろうとしているのではないか・・・。実は分断をこえてつながる未来を夢想しているのではないか・・・。本当は毎晩、不安で眠れないのではないか・・・。

そう想像する練習をしてみないか?

藤子・F・不二雄先生の漫画で、トランプ当選後の現実をそう解釈することもできます。

作中レビアタン号でヒノやキジマが結束したように、私たちは今こそ未来をどうつくりたいか語り合う空気にあります。その空気を提供したのは確かにトランプ氏です。

結局、現実を少しでも前進しうるのは私達の想像力だけなのです。だから漫画があるのです。だから漫画を読むのです。だからマンガHONZがあるのです。
 

分断時代の平和文学としての漫画作品群

ちなみに。『イヤなイヤなイヤな奴』は簡易な短編ですが、アメコミ史の奇跡と位置づけられるアラン・ムーアの大作『ウォッチメン』(1987年)もまた、「にくまれ屋」をテーマにした物語です。なので筋書きはほぼ同じです。新井英樹『ワールド・イズ・マイン』もそうですね。いずれも今こそ読まれるべき平和文学だと筆者は思います。

WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)
作者:アラン・ムーア 翻訳:石川 裕人
出版社:小学館集英社プロダクション
発売日:2009-02-28
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 
下記は『ウォッチメン』のあらすじ。

“金曜の夜、ニューヨークで一人の男が死んだ―”
1985年、核戦争の危機が目前に迫る東西冷戦下のアメリカで、かつてのヒーローたちが次々と消されていた。これはヒーロー抹殺計画のはじまりなのか?スーパーヒーローが実在する、もうひとつのアメリカ現代史を背景に、真の正義とは、世界の平和とは、人間が存在する意味とは何かを描いた不朽の名作。アメリカン・コミックスがたどり着いた頂点がここにある。全ページ再カラーリングに加え、48ページにわたる豪華資料を収録した完全改訂版。SF文学の最高峰ヒューゴー賞をコミックとして唯一受賞し、タイム誌の長編小説ベスト100にも選ばれた、グラフィック・ノベルの最高傑作。

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら

人気記事