響子さんはなぜ三鷹ではなく五代を選んだのか?『めぞん一刻』

苅田 明史2016年11月17日 印刷向け表示
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『めぞん一刻』は、僕が最も好きなマンガのひとつだ。
ご存じのとおり、「一刻館」というボロアパートを舞台に、未亡人の管理人・音無響子を巡って五代くんと三鷹の2人が争うラブコメディである。

めぞん一刻 (1) (小学館文庫)
作者:高橋 留美子
出版社:小学館
発売日:1996-12
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なぜこの作品がそんなにも好きなのか。


僕は、ラブコメはあまりたくさん読む方ではない。
高橋留美子作品も実はそんなに読んでない。
『めぞん一刻』以外の作品はちょっと対象年齢が違う、と思ってしまう。


でも、『めぞん一刻』だけは何度も読み返した。
何度目でも笑えるし、何度目でも感動できる。
『アオイホノオ』を読んで、1980年代の連載当時のことをイメージしながら読んでみたが、これがなかなかいい。
まぁ、そんなことをしなくても、毎回新鮮な気持ちで作品に向き合える。


=======以降、ネタバレ含みます=======


僕がこの作品においてもっとも素敵で、不思議だなぁと思っているのが、「最終的に響子さんが三鷹ではなく五代くんを選んだ」というところだ。


三鷹は登場するたびにキラッと白い歯が光るイケメンで、普段はテニスクラブでコーチをしておりスポーツ万能。
高身長・高収入・高学歴のいわゆる「三高」というやつで、五代くんが勝てる要素は(おそらくは将来にも)まるでない。


五代くんの性格は素晴らしいと思うだが、三鷹だって一途だし、優しい。
ナルシストで、犬が大の苦手というところはあるが、男として致命的な欠陥ではないはず。

 

『めぞん一刻 (1)』(高橋 留美子、小学館)




一方、五代くんは浪人した挙句、合格したのは三流大学。
就職で失敗し、キャバクラの呼び込みを経て、保育士になったものの、給料は安いし将来安泰とは言えそうにない。
流されやすい性格で、面倒なことにすぐに巻き込まれてしまうトラブルテイカー。
基本スペックは何もかも平凡かそれより下、という人物である。


 

『めぞん一刻 (1)』(高橋 留美子、小学館)




断言しよう。

僕が響子さんなら、絶対に三鷹だ。
一人目の旦那に先立たれて、「次こそは幸せになりたい」「親を安心させてやりたい」と思っているなら、それを確実に叶えてくれるのは三鷹しかない。


そう思って、何度も読み返した。


だが僕には、五代くんを選ぶ響子さんの気持ちがまるで理解できない。
当然ながら、読み返しても結論は変わらない。


五代くんのほうが長生きしそうだから?(最終巻の響子さんの名セリフに「私より長生きして・・・」というのがある)
――それなら五代くん以外にもいくらでもいるだろう。


三鷹は浮気しそうだから?(三鷹はモテすぎるから誤解されやすい)
――五代くんだってプラトニックな関係の可愛い彼女がいたし、女子高生から言い寄られてヘラヘラしていた。


三鷹の顔やよりも五代くんのほうがタイプだった?
――響子さんは見た目で選ぶタイプの女性ではないと描写されている。



貧乏が好きなのか? 五代くんが死んだ夫に似ていたのか?
ウーム。
仮説を立てて何度も読み返したが、わからない。


でも、最後に選ばれたのは五代くんなのだ。
しかも、その結果には納得している僕がいる。理由はわからないけど。


最近は「それこそが、この作品が傑作たるゆえんなのだ」と思うようになった。
現実だって、なにもスペックで選んでいるわけじゃない。
知り合って、色んな思い出を共有して、そこで愛が育まれるのだ。


ほとんどの作品には「理由」がある。
だけど、本当のボーイミーツガールには理由はいらない。

 

実は高橋留美子は現代の女性の結婚観を予言していたのでは。

蛇足だが、女性が求める結婚条件に「三高」という表現が誕生したのは、1980年代末のバブル景気全盛期だそうだ。
その後、

三高(高身長・高収入・高学歴)

三平(平均的年収・平凡な外見・平穏な性格)

3C(Comfortable:充分な給料、Communicative:価値観やライフスタイルが一緒、Cooperative:家事をすすんでやってくれる)

三低(低姿勢・低依存・低リスク・低燃費)

三強(生活・不景気・身体に強い)

という順番に、時代に沿って求められる条件が変わっていく。


五代くんは、ひょっとしたら最新トレンド「三強」なんじゃないか。
何度も電柱にめり込んでも大丈夫だし、不景気ならキャバレーの客引きだってやる。

『めぞん一刻』の連載が開始されたのは、「三高」の誕生前夜。
だが、早くも30年後のトレンドを作品で表現してしまっている。

偶然でしょうが、そんなところにも高橋留美子の天才ぶりを感じさせられたりするわけです。

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