グルメから文化まで”おもロシア”が詰まったエッセイ『おいしいロシア』

佐藤 茜2016年11月17日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
おいしいロシア (コミックエッセイの森)
作者:シベリカ子
出版社:イースト・プレス
発売日:2016-09-07
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 ロシアといえば「おそロシア」。浅慮で申し訳ありませんが、とかく恐ろしいイメージでした。長大で初心者には敷居の高いロシア文学、スターリンの大粛正、チェルノブイリの悲劇、etc…。そして国のトップがソ連国家保安委員会 (KGB)出身の眼光するどいプーチン氏。秘密警察が国のトップになる国なんて小説の中だけじゃないのかと思いきや、どっこいこれが現実…!また、2013年にロシアのボリショイ・バレエ団の芸術監督セルゲイ・フィーリン氏が顔に硫酸をかけられる事件がおきるなど、1970年代のマンガかよと思うような事件を見て、ますます戦くばかりでした。

そんな、メディアに踊らせられたアホなレッテルを持っていた私の目を覚ましてくれたのが本作・『おいしいロシア』。作者はロシア人の旦那様をもつ、シベリカ子先生。

ロシアの家庭料理は、素朴でやさしい。日本から、ロシア人の夫と一緒にやって来たロシアの地。1年間の生活を満喫しようと、「食」から知っていくことに。近くて遠い隣国での、おいしくて楽しいコミックエッセイ。日本でも再現できる、ロシア料理レシピ付き。(書籍紹介より抜粋)

もうまず、絵がかわいすぎる。

テーブルの上のロシア料理はすべて作中に出てきます。『おいしいロシア』シベリカ子 (著) イースト・プレス 表紙より

女性がリカ子先生、シロクマっぽく描かれてるのが旦那様なのですが、このままサンリオのキャラクターにいてもちっともおかしくない!明日からNHK教育(Eテレ)で10分アニメとかでもいい…!!シンプルな線は、とかくシャープになりがちなのに暖かみが出ています。すごい。簡単に描いているようで絶対真似のできないプロの技です。書店で目にした時点で「あれ?ロシアといえば楳図かずおのホラーマンガテイストで書かれてるはずなのに…どう考えてもCREAとかのオシャレカルチャー雑誌で連載されてる空気を感じる…KGBの陰謀か…?」と恐る恐る手に取ったのですが、更に中身も、んもう、絵そのままの雰囲気!
 

お鍋が寝てる…。かわいすぎるだろ…。『おいしいロシア』シベリカ子 (著) イースト・プレス

おいしいロシア、のタイトルどおり、全然知らなかったロシア料理が沢山紹介されているのですが、まぁなんとおいしそうで豊かなこと!ボルシチの赤はトマトじゃなくビーツの色、ロシアでは黒パンがメジャー、食後は必ずお茶を飲むけどジャムを紅茶に入れる「ロシアンティー」は殆どしない、などなど枚挙に暇がありません。
 

旦那さんのカタカナまじりの喋り方がかわいい。ションボがかわいい。黒パンも食べたい。どこで売っているのかしらん。『おいしいロシア』シベリカ子 (著) イースト・プレス

もちろん、食文化以外の文化もカバー。セントラルヒーティングのおかげで室内だと冬でも半袖で過ごせる、クリスマスよりお正月が好きでクリスマスツリーではなくお正月ツリー(ヨールカ)を飾る、夏といばダーチャ!(郊外建てた一軒家で別荘とも訳されるが、お金持ち以外も持ってるので日本より身近)など、明日から人に話したくなるような現地ネタもカバーされており、読めば読むほどロシアへの好感度が上がっていきます。いい国だなぁ。

この他ミカンも食べるそうです。日本と意外な共通点ですね。『おいしいロシア』シベリカ子 (著) イースト・プレス

現地に住まないと絶対にわからない春のお告げ。『おいしいロシア』シベリカ子 (著) イースト・プレス

ちなみにリカ子先生が聞き取れなかったロシア語の部分がペンの試し書きみたいな形で書かれてたのですが、ロシア語の筆記体がこんな感じなんですよね。「ロシア語 筆記体」で検索すると画像が出てきます。判別できねぇよ!と絶望すること請け合いなのでぜひ一度ご確認を!

この、語学の先生が喋っているところです。冗談かと思うんですが、本当です。『おいしいロシア』シベリカ子 (著) イースト・プレス

さて、12月15日には、プーチン大統領が日本に来日して首相の故郷・山口県で安倍総理と会談予定。おそロシア、と一歩ひく前に、「ああ、プーチンさんもこんな顔してるのに食後はお茶と甘いものが必須なのだ…」と思うと少し親近感が湧くかもしれません。

見知らぬ隣国・ロシアへ愛をこめて。
ああ、私もスメタナいれたボルシチ食べたい。

オススメです。

 

亡命ロシア料理
作者:ピョートル ワイリ 翻訳:沼野 充義
出版社:未知谷
発売日:2014-11
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 「おもロシア」といえばこの本も欠かせません。「ソ連から亡命してアメリカにやってきたロシア人の文芸批評家が、アメリカの不味いジャンクフードを罵倒しながら、故郷の味を懐かしみ、本物のロシア料理の作り方を伝授すると同時に、ロシアとアメリカの両者を視野に入れた文明批評を行った本である(訳者あとがき)」。目次だけでもヤバさが伝わります。「お茶はウォッカじゃない、たくさんは飲めない」「肉なしスープでオオカミは満腹、羊は無事」「本物の偽ウサギ」「スメタナを勧めたな!」。さすが「誰も出版しないなら、我々が出そう!」の未知谷が出版した本です。

「いい料理とは、不定形の自然力に対する体系の闘いである。おたまを持って鍋の前に立つとき、自分が世界の無秩序と闘う兵士の一人だという考えに熱くなれ。料理はある意味では最前線なのだ……」

森でヤマドリタケを見つけたことのある人なら誰でも、魂があることを絶対に信じて疑わないだろう。ヤマドリタケはずんぐりして善良な魂をもっているし、アンズタケはコケティッシュでせっかちな魂を、アミガサタケはしわくちゃの魂を、カラハツタケはスラヴはの魂をもっている(たぶん、古きよきロシアを愛する農村派作家のウラジーミル・ソロウーヒンは、前世でカラハツタケだったのだろう)。魂なしで生えているのはマッシュルームだけである。なぜなら、マッシュルームは畝で栽培されているのだから。

真面目な顔でおもくそ冗談。1ページで何回笑わせればすむのでしょうか。

 

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)
作者:米原 万里
出版社:新潮社
発売日:1997-12-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 日本でロシアと言えば、私の中では外務省のラスプーチンと言われた佐藤優か、第一級のロシア語通訳かつ卓越したエッセイストでもある米原万里。

読売文学賞受賞 を受賞した本作は、もはや説明の必要もないほど読み継がれていますし、書評も沢山あるのでぜひご検索ください。こちらも真面目な通訳論ではあるのですが、失敗談や、国際現場の混乱、下ネタがちょいちょい挟まれ、難解な通訳業をとっても軽やかに紹介する手腕にはもう諸手を上げて降参です。

米原氏は既にお亡くなりになっていますが、2ちゃんねるの「面白い小話」のスレッドで必ず出てくる「6倍になる人体の器官」の小話は米原氏の別著書のエピソードが元ネタ、というのを今更知り、名作を生み出した作家は死後も生き続けていることを実感しました。

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら

人気記事