『いのりちゃんの残業日誌』に学ぶ、楽しくない仕事のゲーム化

マンガサロン『トリガー』2016年11月24日 印刷向け表示
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いのりちゃんの残業日誌 (角川コミックス・エース)
作者:宮場弥二郎
出版社:KADOKAWA
発売日:2016-11-04
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普通にやれば、憂鬱でやる気のしない仕事。
この世には自分がそれをやらなければいけない理由などない、あるとすればただ給料を貰うため・生活のためだけ、という辛く苦しい労働に溢れています。

ガッキーダンスで話題の『逃げるは恥だが役に立つ』で登場した「仕事の半分は仕方ないでできている」、残りの半分は「帰りたい」という名言も多くの共感を呼んでいます。

しかし、そんな辛い仕事であっても少しばかりゲーム性を取り入れることによって、それまでとは全く違った見え方・取り組み方が可能となります。

 

彼女の主戦場は、無人になったオフィス!

キマイラソリューションズ第三開発部第一課所属の海老内いのり。
彼女こそは、単なる残業を残業技(ザンミッション)に昇華させし残業技者(ザンミッショナー)!

様々な残業技(ザンミッション)に挑むいのりがドラスティックに、溢れる疾走感で描かれます。それはもう、見ていて気持ち良いほどの勢いです。

たとえば、第一話の電話応対TA(タイムアタック)。

【雷電の内線(ブリッツ・コール)】と呼ばれるそれにおいては、島間で内線をつなぎ応対を完遂させるタイムを計測し、2分32秒29という自己ベストを更新するために最大限の効率化を図る戦いが繰り広げられます。

いかに短時間で終わらせられるかという競技性を取り入れることによって、結果的に進んで行われる効率化。やっていることは同じだとしても、ただ意識と行動を少し変えるだけで、全く違う次元へとシフトすることができる。ゲーミフィケーションの精髄がここにはあります。

時には老練な守衛との仁義なきバトルも勃発。

言葉は交わさずとも、互いの磨き抜かれた技で語り合う好敵手。【約束された役職(オンリー・ゴー・アラウンド)】や「お先に失礼しダーツ」で鎬を削る様は、まるで一流のアスリート同士の闘争のような興奮が呼び起こされました。この、下らないことを極めて真摯に行うことによって生み出される面白さ、いわゆる「シリアスな笑い」が堪りません。

 

世界に要請したい、残業技を肯定する余裕

驚くべきことに、いのりの行っている残業技(ザンミッション)は、すべて三六協定で定められた制限の範囲内。従って、この遊んでいるように見える時間にも、しっかりと残業代が発生しているというのです! いのりの会社は三六協定を遵守させようとする上に、残業代も出るホワイト企業。そういう意味では恵まれていますね。

課長が地味に憎めない良いキャラです。

ただ、経営者視点、あるいは真面目に残業している人からすると、はっきり言っていのりの行為は給料泥棒だと感じるかもしれません。

しかしながら、そもそもとしてこの位の遊び心を許容することが社会としては望ましいのではないか、と私は考えます。当然、業務時間中にずっと遊んでいるのであれば即刻クビでしょう。が、恐らくこの物語の主人公であるいのりは、オフィスに人のいる間はずっと真面目に業務に取り組んでいるはずです。そこでは、残業技(ザンミッション)で磨かれた業務の効率化や、一歩引いた俯瞰した視点から見た業務全体への反省が多分に生かされていることでしょう。

すべてを仕事仕事タスクタスクで塗り固めると視野も閉塞化し、心身にも悪影響です。いのりのその行為が本人にとって大事なリフレッシュとなっており、普段の健常な業務遂行を支えているのであれば、それ位は許す。その程度のゆとりは会社にも欲しいものです。

他国に比べて極端に残業時間が多い割に労働生産性はワーストクラス、即ち無駄な残業がはびこる日本。円滑に仕事をすることで定時に帰ろうとしても、同調圧力だったり早く終わったならと余分な仕事を振られたりで叶わず、それならば効率的にやる意味がないとダラダラ労働時間を伸ばし、結果的に社会全体が損をしている現状があります。

一方で、無駄な残業を極力させないよう、定時退社を徹底させたことで逆に業績が跳ね上がった企業の話も沢山耳にします。すべての会社が有名な「未来工業」のようになるべきとまでは言いませんが、もう少し社会全体の意識が変わるべきだと痛感させられる事象が多いです。

ともあれ、現状あなたが無駄に感じる残業と向き合わねばならないとしたら、『いのりちゃんの残業日誌』を読み、残業を残業技(ザンミッション)と捉え直して、つまらない仕事を楽しめるよう向き合ってみてはいかがでしょうか。

コミックスでは幕間にて一人で居酒屋で管を巻くいのりの姿が、そして巻末には休日出勤時のいのりが描かれています。休日にオフィスで一人になったいのりはいつもよりも一層パワフルな姿を披露してくれますし、とりわけ見開きで描かれる豪放磊落な姿は爽快で、必見です。

 

文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿

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