『ヒットの崩壊』「PPAP」はヒットなのか?

版元の編集者の皆様2016年12月03日 印刷向け表示
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ヒットの崩壊 (講談社現代新書)
作者:柴 那典
出版社:講談社
発売日:2016-11-16
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ピコ太郎、RADWIMPS、宇多田、星野源…

「最近のヒット曲って何?」
そう聞かれて、すぐに答えを思い浮かべることのできる人は、どれだけいるだろうか? 
よくわからない、ピンとこないという人が多いのではないだろうか。

こういう書き出しで『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)ははじまります。心当たりのある「ヒット」曲、ありますか?

AKB48、三代目 J Soul Brothers、嵐……あたりが筆頭でしょうか。実際、オリコン年間シングルランキングを見てみると、ここ5年間のトップはすべてAKB48です。さらに5年分のトップ5(全25曲)のうち、なんとAKB48が23曲を占めています。やはりAKB48=ヒットなのでしょうか?

いやいや今年はピコ太郎「PPAP」でしょう。RADWIMPS「前前前世」でしょう。宇多田ヒカルも復活したでしょう。星野源「恋」もみんな踊っているでしょう。……そんな声も聞こえてきそうです。

ピコ太郎(Getty Images)

「PPAP」はヒットなのか

たとえばピコ太郎。世界中でPPAPの派生動画がどれだけアップロードされ、広がっていったのかをグラフで可視化したサイト「Songrium Summary - PPAP」によれば、これまで10万もの動画が公開され、合計再生回数は13億回以上になっているようです。

この2ヵ月間、毎日1000〜2000もの派生動画が公開されていることを見れば、世界的ヒットと言って差し支えないでしょう。

しかし、この大ヒットは「ヒットの崩壊」後のことなのです。

YouTubeでミュージックビデオを公開し、ジャスティン・ビーバーがTwitterで紹介し、Billboard HOT 100に日本人として26年ぶりにチャートインし、Spotifyのバイラルチャートでは(偽物が)全米1位を記録しました。

これまでの音楽における「ヒット」と言えば、CDの売り上げ枚数を指していました。でも、AKB48が独占するオリコンランキングからは流行を知ることはできません。

いまやヒットの定義は揺らぎ、ヒットの生まれ方も場所も多様になり、ひとつの指標で時代を感じることがむずかしくなりました。「ヒットとは何なのだろう」と考えるタイミングがやってきているのかもしれません。

YouTubeで人気、Twitterでバズっている、Spotifyのプレイリストがきっかけとなり世界で聴かれる、フェスで入場規制になる……実際、いろんなところで、いろんなヒット(のようなもの)が生まれているのです。

(Getty Images)

キーパーソンたちの葛藤、希望、危機感

ヒットなるものが変われば、ひとびとの考えもどこか変わってくるでしょう。

小室哲哉さんはいい曲を売れる曲にするには「刷り込みは必要」と言い、CD売り上げがピークに達してからは「次に行かなきゃいけない」と思っていた(けれど業界がCDをビジネスの中心にし続けていた)ことを明かしています。

いきものがかりの水野良樹さんは「環境がどんどん厳しくなっていくことを感じる10年間」と振り返りながら、「音楽という存在が社会に対して与える影響が弱くなった」ことに危機感を抱いています。

オリコンへの取材からは、「モノのランキング」のようで「人間のランキング」であることや、AKB48を巡る状況やデジタル配信のランキング化への対応、総合ランキング企業へと進化を遂げる同社の未来像が浮かび上がってきます。

これ以外にもビルボード・ジャパン、JOYSOUND、フジテレビ、注目のレーベルやマネジメント、プロデューサーなど計10名に取材を行い、興味関心が細分化し、流行が局地的に生まれる社会の変化に向き合うキーパーソンたちの考えや葛藤を本書では丁寧に描いています。

「不易流行が大切」と言いながら…

これから年末年始にかけて、生放送の大型音楽番組がたくさん放映されます。特にNHK紅白歌合戦には、宇多田ヒカルやRADWIMPSなど今年を象徴するアーティストやバンドが登場します。さらに12月21日には、SMAPのベストアルバムが発売され、おそらくCDというメディアにおける最後の大ヒットを見届けることになるでしょう。

SMAP(Getty Images)

いろんな意味で「ヒット」が出た2016年ももうすぐ終わるという中で、自分が好きなアーティスト、憧れのバンド、推しているアイドルがどういう環境の変化に向き合っているのかをぜひ知ってほしいと思います。なぜなら、ヒットが変われば、好きな人やモノを応援し楽しむことの意味や仕方までもが変容するからです。

本書では「歌は世につれ、というのは、ヒットは聞く人が作る、という意味なんだよ」という大瀧詠一の言葉が出てきます。『ヒットの崩壊』は「ヒットの作り手」であるわたしたちにとっても大きな意味を持っているのです。

ヒットが崩壊するということ。それは、モノから体験へ、マスからソーシャルへ、という重大な変化の波に飲まれた業界では、作り手も受け手もおおよそ当てはまることが多くあるでしょう。

本が売れないのは、本を売っているから。

ではどうすればいいの? 不易流行が大切、といえば一言で済みますが、激変するエンタメ業界では不易ばかりに意識を置きすぎて、必要な部分であっても変わろうとしない場面によく出くわします。「音楽(出版)不況だから…」を言い訳にしないために、本書を手にとっていただけたらと思います。

売れないモノ、消えたヒット、続かないブーム……作り手と受け手が一緒になり、エンタメの未来を明るくしていきましょう。

佐藤 慶一 編集者。1990年生まれ。新潟県佐渡市出身。greenz.jpライターやコンテンツマーケティング企業での編集を経て、「現代ビジネス」エディター。『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)がはじめての担当書籍。

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