『晴れたら空に骨まいて』人を弔うのは、こんなにも愛しく楽しいことなんだ!

東 えりか2016年12月06日 印刷向け表示
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晴れたら空に骨まいて
作者:川内 有緒
出版社:ポプラ社
発売日:2016-11-05
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 ある日、実家の母の家で夕食を食べていると、母の友人が、熱い串カツをハフハフしながら、こう言った。
「もうすぐネパールへ行くんだ。旦那の骨を撒きに!

度肝を抜かれた著者が事情を聞くと、8年前に亡くなった旦那さんの遺骨をクッキーの缶に保存し、少しずつ出張や旅行に持っていき、何年もかけて世界の川や海、例えばセーヌ川や万里の長城などに撒いているのだという。

だって、土の中に入れちゃったらかわいそうじゃない?あれだけ旅が好きな人だったんだもん

このコロコロとよく笑う女性との出会いが、本書を書くきっかけになった。「死」とは、「生」という長いすごろくのゴールなのだ。ではそのすごろくを辿りながら、その人が死んだ後の自由な見送り方を取材してみよう。死んだ人の意思を忖度して……、などと建前でなく、送る人が送りたいように死者を弔う。ああ、なんて清々しいんだ。

ここには5人の死者が登場する。当然ながら彼らの意思はわからない。だが、著者が丁寧に繊細に、パートナーや関係者に取材したことで、元気に生きている時の姿が見えるようだ。

先に紹介したネパールに散骨されたのは、映像制作や編集を生業にしていた男性だ。世界各地に散骨したのは妻のフリーのファッション・デザイナー。最近では60代なんて若者のうちだが、それでも途轍もなくパワフルな方だ。出会いと結婚、お互いへの思い、そして末期の肝硬変でも仕事を続けた夫が内モンゴルで倒れて生死の境をさまよい、どうにか生還したのち日本で亡くなったその経緯が語られる。

遺骨の大部分は実家のお墓に納めたが、一部をクッキー缶に移し、仕事道具の洋裁用の金属の重りで粉末状に砕き、それをいくつものフィルムケースに分ける。フィルムケースは便利だ。どこに携行しても不思議に思われないし、密封性もあり、しかも軽い。彼女はどこに行くにも一つ持っていき、ここぞと思ったところで風向きを確認してからパッと撒く。それは一瞬の出来事で、周りに人がいても気づくことはない。

そういえば現代には様々な散骨がある、という本を先日読んだ。鵜飼秀徳『無葬社会―彷徨う遺体 変わる仏教』(この本に関しては別の機会に記述する)。最近、弔うことの自由度が少しは増えているようなのだ。

本書には、こんな人生と弔いが描かれる。

音大を出てピアニストをしていた女性が建築関係者と結婚し、ロタ島に暮らしたのち亡くなり、愛した海に散骨された。ウミガメの保護に力を尽くしていたため、GPSを付けられたKumikoと名のウミガメが日本近郊まで泳いできた話。

建築パースを書く仕事の父親が、建物の絵を描きに出た長いヨーロッパ旅行の途中、チェコで客死。家族が体験した、現地での思わず大笑いしてしまうような葬儀の話。

日本のアルパインスタイル登山の生みの親、原真の登山哲学や、フランス人妻と実子や養子が彼の骨をマカルーに連れて行く話。

そして装丁家、矢萩多門が若い頃に過ごしたインドで出会った、家族のような友人の物語。

涙ぐんだのち、グフっと吹き出してしまうあっけらかんとしたテイストは、著者の川内有緒の持つ天性の描写力による力が大きいと思う。

近しい人が死ねば、悲しいのは当たり前。思いきり悲しめばいい。だが、死んで思い出は終わりではない。記憶に残っているうちは、その人は心の中で生き続けている。本書には散骨が多く取り上げられているが、それは故人のユニークさによるものだろう。

今年、私は父を亡くし普通の葬儀を行ったが、日にちの巡りと火葬場の混雑のため、数日、自宅に安置した。それが幸いし、葬儀場に父の大切にしていたもの、写真、遺品などをきちんと陳列させて会葬者に見てもらい、故人を偲んでいただいた。この作業は遺族の心も安定させた。

葬儀とは慌ただしいものだ。だが、その後には長い長い時間が横たわっている。本書はその長い時間を有意義に過ごした人たちだ。私ならどこに骨を撒いてもらいたいかなあ。候補地を考えておこう。

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 バングラデシュで偶然耳にした放浪の吟遊詩人バウルの歌声を聴くために、その人を捜し歌の謎を解いていく旅行記。第33回新田次郎賞受賞作。禅にも通じる生きるための歌。

パリの国連で夢を食う。
作者:川内有緒
出版社:イースト・プレス
発売日:2014-09-07
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 国連で日本人が働くって、どんな感じなの?意外とユルいので驚く。私のレビューはこちら。

 

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