SNSでバズッても紙では売れない?ネットが生んだ新人マンガ家が描くWebマンガ戦国時代の生存戦略【トミムラコタ先生インタビュー】

小禄 卓也2016年12月07日 印刷向け表示
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「顔は小出しで行きたい」というトミムラコタさん

「我が家にタブーは一切ありません」

そう断言するのは、11月に発売された4コマエッセイマンガ『実録!父さん伝説』の作者、トミムラコタさん。今年の2月に「父さんのゲイビデオ出演告白」を描いたマンガ家だ。

実録! 父さん伝説
作者:トミムラコタ
出版社:イースト・プレス
発売日:2016-11-17
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じつは、彼女とは出会ってかれこれ5年ほどの付き合いになる友人だ。仕事でお世話になったり、ご飯に行ったり、わりと親しくさせてもらっている。ちなみに、本作に入っている「ある人の一押しで」というエピソードに登場するヒゲメガネサードウェイヴ男子っぽいキャラが、僕だったりする。やたらとガタイがいい。
マンガ家トミムラコタの生みの親である(『実録!父さん伝説』より)

 

 

 

 

 

 

そんな縁もあり、今回の書籍出版を記念してインタビューをさせていただくこととなった。

26歳にして結婚、出産、離婚、解雇、パニック障害など、当人自体がすでに波乱万丈な人生を歩んできた彼女がなぜ家族のエッセイマンガを描くのかーー。「トミムラ家に一切のタブーなし」とあっけらかんと言い切るその理由と、勃興するWebマンガ家たちの中での生存戦略について聞いてみた。

バズって1カ月で書籍化が決定

ーまずは初の単行本化おめでとうございます。2月に「お父さんの告白」というツイートがめちゃくちゃバズって、そこから書籍化は早かったですよね。

そうですね。2月5日にツイートしたものがその日にバズって、その翌週月曜日に出版社さんから連絡が来ていました。2月中に最初の打ち合わせをして、担当の方の企画にわたしが承認したのが3月中旬なので、1カ月くらいで書籍化が決まっちゃったんです。

その後は4月から6月までがネーム期間だったんですけど、結局すべてのネームのOKが出たのが7月末。11月にようやく出版できた感じですね。133枚のマンガを描き下ろすのは苦労しましたが、父にエピソードを聞きながら、その中でマンガにできそうなものを選んで描く、というのを繰り返していました。

ーあのゲイビデオに出演したお父さんですね。

はい。夜中父がリビングでお酒を飲んでいる時に「あの話もう一回聞かせて」といえば、大体なんでも教えてくれました。その時は「マンガにする」とは言わないんですけどね。トミムラ家の性質として、もともと過去のエピソードを何度も話すところがあるんです。だから、エピソードを聞き出すのも、そんなに苦労はなかったですね。

でも、結構話を聞いている時はおもしろいのに、4コマにするとおもしろくなくなっちゃうようなエピソードも多くて。例えば、父とウキウキしながら栗を30個買いに行ってレンジで温めたら爆発して栗があとかたもなく消えていたこととか、父の交番勤務時代に処理をしていた3台の自動車衝突事故の一台目が幼稚園、二台目が中学校、三台目が高校の同級生だった、というエピソードとか……。マンガにするとおもしろくなかったり嘘臭過ぎたりするものはいろいろありました。

ー「ゲイビデオ出演告白」も相当嘘くさいですけどね……。今回の『実録!父さん伝説』がはじめての紙の本となったわけですが、4コママンガを描いている時のこだわったポイントはありますか?

4コママンガなので、極力いらない情報を削る努力はかなりしました。父を養子にしようとしてたモージャーさんの話も、父はモージャーさんのことをもっと説明したかったんですけど、思い切って削っています。説明が多すぎるとテンポも悪くなるし、読み手にとっていらない情報が結構あるのでそこは思い切って削るようにしましたね。

あと、背景を入れるところと入れないところのバランスは意識しました。ボロアパートの描写は細かく入れたのと、水木しげるさん風のイラストで描き込みをしたりと。

ボロアパートは水木しげる先生へのオマージュだという

ー何かその理由はあるのですか?

清野とおるさんのマンガで、「昨今の売れてるエッセイマンガは背景スカスカのも多いし……」といった感じのことを書かれていたのを見て、逆にちゃんと描こうと思ったんです。

背景がスカスカなエッセイマンガも好きなんですけど、他のエッセイマンガと差別化する意味も込めて、今回のマンガでは背景を描き込んています。「Webから出てきた背景スカスカのマンガ家」とは違って背景も描くタイプなんだ、と思ってもらいたいですね。

ーたしかに、良い悪いではなく昨今の増え続けるWebマンガの中で差別化するのは大事ですね。ところで、『実録!父さん伝説』の絵はどことなく懐かしさがあったりするのは気のせいでしょうか?

わたし、90年代ギャグマンガが大好きなんですけど、紙の漫画が好き過ぎて偉大な先生がたの作品オマージュが入っているからかもしれません。例えば、雨のシーンで傘に雨が跳ね返るところは『めぞん一刻』、「20歳で結婚」のコマで人がボヤ〜ッとなっている姿は『ドラえもん』で、のび太がメガネを外した時にドラえもんに「見えない」というシーンのオマージュです。

他にも、ヨミタンさんの不穏なオーラの出し方は水木しげる先生の貸本漫画家時代のタッチ。さらには『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治先生や江口寿史先生の描くおじさんが好きで、今回父を描くにあたって参考にしました。ニヒルでごつい男が真面目にギャグをやってるあのギャップが大好きなんです。

ー漫画愛がすごいな。
 

「私生活のすべてをさらけ出す」ことへの抵抗は一切ない。

ーコタさんは「エッセイ」というフィールドでマンガを描いていますが、「私生活を晒す」という行為についてためらいや罪悪感はありますか?

いいえ、一切ありません。父は最初恐れていたみたいですが。

ーお父さんはまぁ、そうですよね。心中お察しします。

あ、でも父の場合は自分がどう思われるかというよりも、警察時代の同僚に見つかった時に沖縄県警がどう思われるか、という心配をしていました。「心配のポイントそこか!」みたいな。

でも、基本的にトミムラ家はみんな家族のことが大好きで、自分たちの過去の出来事も大好きなんですよ。出たがりだし話したがりだし、自分たちの話を聞いて笑ってほしいという思いが根底にあります。だから、ためらいも罪悪感もないですし、今回の出版もみんな素直に喜んでくれています。

お父さんにもお会いしたが、非常にジェントルマンであった ※お酒が入るとヒドい

ーお母さんはあまり出てきませんが、どういう方なのでしょう?

母は今回のマンガも無言で静かに熟読していました。読んだ後に「体験したことだし、思い出を読んでいるようでなんとも思わないなぁ」なんていうような人です。父のゲイビデオを許すような人ですし、黙っていても愛がヒシヒシと伝わってきますね。

だから、わたしもこのマンガが出版されることで、わたしのことも家族のこともたくさんの人に紹介できるように感じて嬉しいんです。自己顕示欲が暴走しています。

ーこれは素朴な疑問なんですけど、エッセイマンガっておもしろエピソードが命じゃないですか。それがなくなるかもしれないという危機感はありますか?

それはもちろんあります。ただ、中学生のころに個人ブログを運営していたんですけど、そこでブログを書くのが趣味だった時期があって。当時からブログのために何か行動するようになっていた節はありますよね……。

昔から「ネタを探すための人生」だったのかもしれないと思うと意外と大丈夫なんじゃないかなと思う自分もいます。今、「ふんわりジャンプ」でもLGBTをテーマにエッセイマンガを描かせていただいているのですが、こちらでも昔を掘り下げつつ現在進行形でネタを探しています。

そして、エッセイマンガを描きはじめてから性格にも変化があって、ちゃんと自己主張をするようになりました。嘘は描きたくないから、何かが起こった時に、その現象に対してわたしの頭の中の吹き出しを埋める作業をしている感じです。思ったことをそのまま言っちゃうので、お人好しじゃなくなったと言いますか。

最初の写真よりちょっとだけ顔が見えた……!

ー頭の中にいる「トミムラコタ」というキャラを完成させるために発言する感じでしょうか……。そういうことをやってると、大変じゃないですか?

それが、自然とそうしちゃってるんですよね。無理やりではなく。以前読んだ西原理恵子さんのインタビューに「女だからこそエッセイマンガを描き続けられた」というメッセージがあって。結婚や出産などを含めてステージが変わっていくので、その度に描くことも変わっていくのは女性ならではなのかなと思っています。

あとは、どんなネガティブな情報でも、描き方や演出次第でおもしろく昇華できると思うんですよ。「ブログ犬スタン」というわたしの好きな海外ドラマがあるんですけど、主役の犬が「どんな悲劇もBGMを加えれば喜劇になる」って言うんです。それをずっと心に持ってます。

ーうっかりステキな心構えだ。

「みうらじゅんのような熟女になりたい」トミムラコタ流仁義なきWebマンガ戦国時代の生き抜き方

わたしとしても、やっぱりエッセイマンガを描き続けていきたいんです。その上で目指すのは、紙で読んでもおもしろいエッセイマンガを描くこと。

もちろんすべてではありませんが、SNSでバズッたWebマンガって、紙で読んだ時に「あれ?」って思うことが多くて。わたしのマンガも読者をがっかりさせちゃうんじゃないだろうかって、どこか不安な部分があるんですよね。

ーたしかに、Webマンガって読む体験としては良くも悪くも軽いですもんね。お金を払ってるわけでもないし、たまたまタイムラインに流れてきたから読むという「ついで感」があるし。紙で買って「さぁマンガを読むぞ」となった時に、全然感覚が違ってたりする。

内容自体もそうなんですけど、絵自体にも感覚のズレが結構あると思っていて。Webで「あーこの人のイラスト好きだなぁ」と思っても、紙で見ると軽かったり薄かったり、やっぱり印象が違うんです。わたしの中では、その違和感の正体をデジタルとアナログの違いだと仮設を立てています。だからわたし自身はアナログで描くようにしています。

いくらWebから生まれたマンガだといっても、書店に出たら『ワンピース』や西原理恵子さんのマンガのとなりに置かれるかもしれない。だからこそ、紙でも楽しんでもらえる絵にしたいんです。なので、イラストは今も日々勉強中です。

ー最後に、コタさんの今後の抱負を教えて下さい。

バイセクシャルで、結婚も離婚も経験して、親がゲイビデオに出て、兄もマジシャンで……。自分がそういう星の下に生まれてきたんじゃないかって思うくらいハプニングが多いので、もしかしたらこれからも私生活の延長線上でいろんなことが起こるんじゃないかなと思っています。わたしは、そうやって起こったことをただマンガにすればいいのかなと。

ーその私生活を晒す覚悟と潔さはカッコいいですね。そしてすごく飄々としている……。

将来はみうらじゅんさんのような熟女になりたいと思っているので、粛々と歩みを進めていくだけですね!

ーこれからも応援しています。長い時間ありがとうございました!

実録! 父さん伝説
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