無知が生み出す排除された子どもたち『はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児』

工藤 啓2017年01月17日 印刷向け表示
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はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児
作者:沖田 ×華
出版社:ぶんか社
発売日:2015-12-15
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哲学者ソクラテスの言葉、「無知は罪なり、知は空虚なり、英知持つもの英雄なり」は有名ですが、無知こそが生み出す排除により社会からはじき出され、行き場を失いかける家族、子どもたち。障害児でないと療育手帳を受け取れず、かといって通常学級では苦しめられる。地域にも理解者がいない。嘘のような本当の、作り話のような現実が私たちの社会に現存することを教えてくれるのが『はざまの子ども 息子は知的ボーダーで発達障害児』だ。

 

 

 

子どもたちは「社会の子」として、私たちは社会の一員として保護者と同じくらい子どもたちのことを考え、みんなで健やかな成長に手を差し伸べていかなければならない。わざわざ教科書にも書いていないのは、「当たり前」のことだからであるが、その「当たり前」が「当たり前」でない現実がある。

主人公のヨシ君の成長と、それを取り巻く社会環境を観ながら「はざまのコドモ」の置かれた状況やその家族をユーモアとともに伝えていく本書において、最初に訪れる危機が家族問題。母親も父親も愛する子どものために奮闘するも、育てづらさの原因がわからず憔悴し、父親が無意識にわが子に手をかけてしまうシーンは、毎晩多忙を極めて家庭に帰ることのできない労働の在り方、まさに「働き方改革」によって何を変え、誰を支えるのかが一目瞭然だ。生活における余裕のなさは、家族や子どもたちをも悲劇へと巻き込んでいくリスクがある。母親は離婚してシングルマザーとなり、線維筋痛症を患ってしまう。

 

『はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児』より

子どもが保育園、小学校と社会を広げていくにあたり、社会の側に理解と寛容性があればいい。しかし、「はざまのコドモ」に与えられたのは「フツウ」に適応し得ない状況と、発達障害などの診断が降りない現実、そして学校からの排除だ。無知は罪であり、排除を生む。

 

 

『はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児』より

 

そして、残念ながらも“よくある”のがすべてを親の問題に帰結させる言葉だ。まさに無知でしかない。なぜ、無知がそのような言葉につながるのか。それは無知でないひとびとによる「はざまのコドモ」の見方、かかわり方は感情論でも精神論でもなく、科学と経験に裏付けられたものであるからだ。

 

 

『はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児』より

 

学校が悪い、教育委員会が悪い、医療制度が悪いといいたくなっても、学校というひと、教育委員会というひと、医療制度というひとはおらず、本書でも登場する知識と志あるひとたちによる助言や行動により、ヨシ君も母親も少しずつ心と生活を立て直していく。

また、友人にも助けられる。友人らはヨシ君のことを知ってか知らずか「そういうタイプの友達」として自然に接している。無知な教師がによるいじめがあってもヨシ君を支える。仲の良い、理解し合えた友人同士で「お前ばかだなー(笑)」というコミュニケーションは一般に存在するが、子どもたちの会話に無知な教師怒り狂ってイジメだ!差別だ!と言うシーンは、子どもたちの自然な仲を無知の正義感や保身によって引き裂いていく。怒りを通り越して、涙が出る。この先生の周りに「知」を伝えられるひとがいないのかと思わざるを得ない。

 

 

『はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児』より

 

無知の人間によって排除されたヨシ君と母親は、英知を持つ人間によって勇気づけられ、支えられ、またヨシ君と母親によって私たちは勇気づけられ、支えられているのだろう。「はざまのコドモ」と家族の方が心豊かに、ともに暮らしていくために私たちにできることはなにか。それは「知る」ことである。無知によってひとが分断され、ひとがはざまに落ちるのであれば、私たちは「知る」ことによって次の社会づくりに踏み出すことができるはずだ。

 

 

『はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児』より

 

明日できること、一年かかること、30年や100年かかることもあるかもしれない。それでも、私たちは積極的に「知る」を続けていきたい。「知る」をもって「行動」しよう。はざまのコドモたちが笑顔になれるように。

 

 

『はざまのコドモ 息子は知的ボーダーで発達障害児』より

 

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