女性上位のインモラルサスペンス『監禁嬢』かわいい女子高生に襲われたら嬉しいですか?

マンガサロン『トリガー』2017年01月19日 印刷向け表示
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監禁嬢(1) (アクションコミックス)
作者:河野 那歩也
出版社:双葉社
発売日:2016-11-28
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「それが男と女じゃん
女がレイプされたら「かわいそう」だけど
男がレイプされても「まぁ良かったじゃん」ってなるもんね
先生はあの女に…
"男の女に対する負い目"を突かれてるんだよ」

藤森麻希のこの言葉に『監禁嬢』のエッセンスは凝縮されています。

「男と女」という関係性において、普段は暗部に抑圧されて存在するどろどろに煮詰まったもの。それが、この物語ではたっぷりと掬い取られ、光のあたる場所に掲げられてまざまざと見せ付けられます。その鮮烈なグロテスクさは、しかし目が離せないグロテスクさです。それは、普段であれば社会や道徳といったものが覆い隠している人間の本質を剥き出しにするものだからです。

 

監禁・陵辱から始まる物語

本作の主人公は高校教師・岩野裕行。妻と子供がいて、学校でも同僚や生徒からも人望の厚い人気者です。しかし、そんな彼の日常は突如破壊されることになります。

気が付くと見知らぬ部屋で全裸で全身を拘束されている状態に。自分を知っている風の、しかし記憶にはない謎の女・カコに脅され、陵辱されて行きます。冒頭から一触即発で非常にスリリングです。

とにかく、このカコが恐しいのです。

突然瞳孔が開いた表情は、夢に出てきそう。どんどん裕行や周囲の人物たちの日常に侵食し、えげつなく食い破っていきます。鍵やスタンガンを凶器として犯行に及ぶ時には、謎の疾走感すらあります。一巻最後の行為の衝撃も凄いです(続きが読みたくなること必至なので、二巻までまとめて購入することをお薦めします)。

様々な異常性を見せるカコは、果たしてどんな過去によって、どんな動機によって裕行にここまでのことをするのか。裕行は一体、何をしたのか。一つ核となる謎が定まっているので、焦点がぼやけず物語は牽引力を持って進んでいきます。

又、裕行を陵辱していくのはカコだけではありません。裕行の教え子である麻希も"男の女に対する負い目"を突きながら裕行を籠絡していこうとします。麻希のカコに負けず劣らずのサイコパス的な言動も、一つ大きな作品の魅力です。表向きは仲良くしている友人の梓を「安定のブサイク」「クリーチャー」などと心の中で呼ぶ麻希のゲスさが良い味を出しています。

二巻の帯にもなっている「麻希は先生の命の恩人だよ? ズボン脱げ」のシーンも非常に強烈です。

この物語においては、とにかく主人公の裕行が女性たちによって徹底的に屈辱的に良いようにされていきます。その手の嗜好を持った人にはある意味で堪らないことでしょう。筆者も純粋に趣味で描いている可能性も大いにありますが、こういった話が今描かれることの意味を少し考えます。

 

現代の男女と『監禁嬢』の描くもの

昨年世界中で話題を呼んだアメリカ大統領選では、ヒラリー候補が勝てば初の女性アメリカ大統領誕生というところでした。日本でも、現在は野党第一党の党首が女性です。韓国では朴槿恵大統領が、台湾では蔡英文主席が、イギリスでもサッチャー以来となる二人目の女性首相であるテリーザ・メイ首相が誕生したのもつい最近のことです。世界的に女性の社会進出がかつてなく進んできた時代となっています。

そんあ現代においては本来の男性性や女性性を無視して本人の自由意志で生きたいように生きることも肯定されつつあります。ただ生物学的に、あるいは人類史的に見れば男性と女性にはそれぞれの役割があり、それを相互に理解し合って補い合う形で共存していくのが種としては一つの理想です。

良し悪しや肯定否定ではなく、元々の形から変化すればその分の歪みはどこかに生じます。韓国ではインターネットを中心に男性と女性の対立が激化し、社会問題化するなどの動きも生じています。

そんな時代背景の中で、『監禁嬢』が描く男性がとことんまで虐げられ続ける様子は一際存在感を放ちます。社会的には強者になりつつあるもののまだ弱い立場にあるとされる女性によって、世間一般から見れば上等な人生を歩んでいる優秀な男性がその尊厳を容赦なく踏み躙られていく。そこに黒い快感が生じないといったら、嘘になるのではないでしょうか。

まだどこかに「男は女より強く、立場が上」という意識が、普段は顕現せずとも男性にはあるのではないか。
あるいは、そんな傲慢な男性に対して溜まった鬱憤をどこかでぶちまけたいという欲望が女性にはあるのではないか。

カコの行っていることは当然犯罪なのですが、しかし女性が男性を攻撃するということに関してのみ言えば、そこにはある種の正当性とまでは言わないにしろ、必然的なものがありはしないのか、とふと思わずにはいられませんでした。男女を対立項で考えるべきではない……しかし、そうして押し込めている所にも人の本質はあり、そしてそれは個々の体験や考えから何かを引き摺り出してくるものかもしれません。

もし、『家畜人ヤプー』のように近い将来ますますテクノロジーが発達し、男女それぞれの役割をもたらす根拠となった生物学的な特徴を超越する日が来た時、世界や人々の価値観はどう変わっていくでしょうか。

そう、「役割」というものもまた、本作を読み解くための一つのキーワードになっています。

男としての役割。女としての役割。教師としての役割。夫としての役割。父としての役割。

物語が進むにつれ、裕行の周囲の様々な役割を持つ人物たちが持つそれぞれの常軌を逸した部分も描かれていき、暗黒が浸潤してきます。

役割というのは概ね自発的なものではなく、外部的な要請に基づいて生じるものです。しかし、それは「(~である以上)~であらねばならない」という見えない鎖となって強固に人を縛ります(そういう意味で、冒頭のカコによる生身の裕行の拘束は象徴的な行為にも思えます)。

その抑圧が反動となって別の側面を剥き出しにする人もいれば、人によっては鎖に縛られているからこそ生きられる、という人もいます。二巻後半を読むと、裕行ももしかしたらそういった類の人間なのではないか、と思わせる節もありました。傍からは順風満帆に見える裕行の人生も、決してそうではなかったのかもしれません。

随所に不道徳な愉悦が詰まった作品ですが、それが良い。

サスペンスとしては一話一話の引きが強く、非常に続きが気になる展開になっています。果てしない悪意に晒された裕行は今後どうなってしまうのか。

ダークなお話やホラーが好きな人、女子高生に襲われたいという人にもお薦めです。

 

 文章:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿


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