ゾンビ映画も生ぬるい。本当に怖いのは「恐怖」を共感してもらえないことだ
。『ゴールデンゴールド』 見知らぬ「恐怖」への招待状

宮﨑 雄2017年01月24日 印刷向け表示
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 『サイコパス』(文藝春秋)という本が売れているようです。最新の脳科学を駆使して、サイコパスと呼ばれる人たちの謎に迫るという触れ込みで、Amazonランキング130位(1/21(土)確認)を誇っています。発売から2カ月以上経過した書籍としては、好調な動きを見せていると言えるのではないでしょうか。 

サイコパス (文春新書)
作者:中野 信子
出版社:文藝春秋
発売日:2016-11-18
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  帯のコピーは”「あの人」の裏の顔”。サイコパスが裏の顔なのかどうかはさておき、この書籍を購入している人は知り合いの誰かの顔を思い浮かべていたのかもしれませんね。皆様、身近にどんだけサイコパスいるんですか、と驚きの念を禁じ得ません。  

 あるいは、その「あの人」はサイコパスではないかもしれませんが、購入された方にとって共感しがたい他人なのかもしれません。サイコパスは一般的には共感能力に著しくかけた人物、例えば『ドラゴンボール』の孫悟空のような人のことを指すのですが、逆の視点から見れば共感できない人物になります。  

 『サイコパス』を購入する方々はサイコパスを理解、共感しようと努力をしているのかもしれません。きっと多くの人にとって、”共感できない”はできれば解消したい感情なのでしょう。

 しかし、ご紹介する『ゴールデンゴールド』は、そんな人間の心の動きの反対車線を爆走する作品です。主人公と読者は、「共感できない」、「共感されない」という恐怖に襲われます。 

ゴールデンゴールド(1) (モーニング KC)
作者:堀尾 省太
出版社:講談社
発売日:2016-06-23
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  僕は大学で受けていた授業の影響でジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』を始めとするゾンビ映画が結構好きなのですが、あの手の作品の怖さは、ゾンビが僕らに共感してくれない点にあると思います。人型が腐っているという見た目も怖いのですが、本当に恐ろしいのは、こちらの事情なんか慮ることなく、本能のままに生きている人の肉を喰いに来るその姿勢です。  

 ですがゾンビ映画に救いがあるのは、周りの人間も一緒に怖がってくれるところです。最初にゾンビの恐怖と出会うのは主人公だったとしても、後から合流する人も一緒に恐怖してくれます。その人たちのなかで「ゾンビ怖い!」という共通認識が生まれ、団結し、対抗しようという意識が生まれます。これで、ちょっとゾンビが怖くなくなります。自分の感覚に共感してくれる人がたくさんいると、人は恐怖に強くなれます。

 しかし『ゴールデンゴールド』では描かれるのは「共感してもらえない」こと。主人公の女の子が住む島に、突如現れた異形のちっちゃいおっさん。その容姿は明らかに普通の人間ではないのですが、それを認識できるのは、もとは島の外の人間だった主人公と、観光客だけ。「おかしい!!」と騒ぎ立ててもむしろたしなめられて、黙殺されます。何年も一緒に過ごしてきたのに、島の人たちは(主人公が恋している男の子さえも)、彼女たちが認識している状況に一切共感してくれないのです。

 しばらく様子を見ていると、そのおっさんがいるところには何故かカネが集まってくると分かってきます。原因は分からないのですが、島の人たちはなんの疑問も抱きません。それに対して主人公たちが感じる不安も、ハッキリとは描写されず、外堀を埋めるようにさりげなく、ジワジワと描かれます。
 でも誰も、なんでこんな現象が起こっているのか説明してくれません。分からないというだけでも怖いのに、それを説明してもわかってもらえなくて、他人に共感してもらえないってのは最悪です。恐怖として、最悪の部類。

 マンガ読みの友人と『ゴールデンゴールド』の話題になったとき、「おっさんの顔が怖くて読めない」と言っていたのですが、おっさんの顔は序の口です。むしろかわいいくらいです。本当に怖いのは、人間が当たり前に持っている「共感したい」という気持ちを嘲笑う、”分かってもらえない”世界なのです。デスゲーム的な恐怖はもうお腹いっぱい…という方にこそおすすめの怪作です。

ゴールデンゴールド(2) (モーニング KC)
作者:堀尾 省太
出版社:講談社
発売日:2017-01-23
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ゴールデンゴールド(1) (モーニング KC)
作者:堀尾 省太
出版社:講談社
発売日:2016-06-23
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