買ってよかったオムニバス『ぼくの夜に星の出る』

亀井 真美2017年01月27日 印刷向け表示
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 一月も終盤。大学四年生の私は、先日、卒業論文、期末テストも終え、長く短い最後の春休みに足を踏み入れました。学校へ行くのも三月の卒業式の一回限り。最後だと分かると、あれだけ面倒くさかった通学がとても贅沢で愛しい時間だったことに気付かされます。そして何より悲しいのは、自分よりも遥に知識量が多い先生の話を決まった日時に聞けなくなること。先生と生徒を唯一繋いでいた『授業』がなくなってしまうというのは、こんなにも大きな損失だとは、終わってみないと気付かないものですね。私がこれほどまでに春休みの訪れを悲しんでいるのは、好きな先生がいたからです。それは、一時の感情かもしれません。けれども、一時でも先生のする授業が好きで、余談が好きで、声が好きで、得意分野の話をする時の嬉しそうな先生の顔が好きでした。

これから書こうとしている磯谷友紀先生の『ぼくの夜に星の出る』も先生と生徒の話を含んだオムニバスです。

 

ぼくの夜に星の出る (マーガレットコミックス)
作者:磯谷 友紀
出版社:集英社
発売日:2016-04-25
  • Amazon
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  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 

出欠をとるとき、自分が「はい」と返事をする時だけ満足そうに微笑んだり

現国の時間、自分だけ異常に長い朗読をさせられたり

高校生の山中史人は、担任の七海先生が自分に気があるのではないかと思い始めます。

一対一の進路指導の日、山中史人は机に置いてあった七海先生の手帳の中身を見てしまいます。そこには、生徒の氏名と生徒の声を点数化したものや音域などが細かく記されており、七海先生が声オタ(声優オタク)であることが発覚します。そして山中史人の声がとびぬけて好きであることも分かり、気分をよくした山中は、七海先生の声オタという弱みを利用し、先生の家に遊びに行くようになります。

自分よりも年上で偉い立場にいる先生を、好き勝手扱えることに快感をおぼえる山中。

自分の言葉、声にいちいち頬を赤らめる七海先生を見ているうちに、先生のことを本当に好きになっていってしまいます。

 

 

 

この後も山中くんと七海先生の物語は続きますが、あらすじはここまでにしておきます。

 

教員採用試験という関門を突破した先生が、危険を冒してまで生徒のことを想ってしまうというのはなんだか萌えます。さらに今まで真面目に生きてきた人であればあるほど良いですね。

私が好きだった先生は、醸し出す雰囲気もビジュアルも少し七海先生に似ているところがあり、自分を山中くんに投影してこの作品を読んだら切なさとキュンキュンで胸が締め付けられました。

 

さて、“積読”をしてしまう傾向にある私は、巻数を揃える系のマンガにはあまり手を出さず、オムニバスばかり読んでいます。しかし、オムニバスというのは短いため、物足りなさがいつも付きまといます。限られたページ数で、一話一話に、そして登場人物に重みを与えるのが非常に難しいオムニバス。磯谷先生の『ぼくの夜に星の出る』は、その物足りなさを打ち砕いてくれます。読了後の気分を例えるなら、冬、満点の星空の元、冷えて澄みきった空気を肺いっぱいに吸い込んだときのキラキラした心地よさと似たものがありました。山中くんと七海先生のお話以外もすべて読んでいて楽しく、「買ってよかった」が口から自然とこぼれ出る素敵な作品です。

 

―あなたの声が、まなざしが、わたしの全てを変えてゆく……。

 ままならぬ想いに翻弄される五つの恋の物語―

 

磯谷友紀先生の『ぼくの夜に星の出る』。ぜひ、読んでください。

 

ぼくの夜に星の出る (マーガレットコミックス)
作者:磯谷 友紀
出版社:集英社
発売日:2016-04-25
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