もののけの異型の世界から人間が浮かび上がってくる『ゴールデンゴールド』 マンガ新聞超新刊大賞2016 大賞記念ホリエモンVS堀尾省太 対談レポート

角野 信彦2017年02月14日 印刷向け表示
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マンガ新聞超新刊大賞2016の発表イベントが、TSUTAYA三軒茶屋店にて開催されました。当日は、大賞の『ゴールデンゴールド』著者 堀尾省太先生、講談社モーニング編集部副編集長で担当編集者の田渕さん、堀江貴文、トキワ荘プロジェクトの菊池の4人で対談を行いました。

堀尾先生は『刻々』から「異型なるもの」のストーリーで、逆に人間のこころの動きをリアルに表現されてきました。じつは堀江貴文は『刻々』の大ファンで、堀尾先生の新作『ゴールデンゴールド』にもすごく期待しています。

話はバブル経済から、ホモ・サピエンスが生き残った理由まで『ゴールデンゴールド』にむすびつけて、その面白さについて堀尾先生、田渕さんと堀江貴文で語り尽くしました。堀江貴文もマンガHONZのメンバーたちも、ますます今後の『ゴールデンゴールド』が楽しみになりました。

ゴールデンゴールド(1) (モーニング KC)
作者:堀尾 省太
出版社:講談社
発売日:2016-06-23
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それでは本日より3回にてお届けします。 お楽しみください。

堀尾先生:H
田渕さん:T
堀江さん:HT
菊池さん:K

HT:マンガ新聞超新刊大賞、第一位おめでとうございます。

H:ありがとうございます

K:四季賞をとってから堀尾さんは『刻々』でデビューされるまでに12年経ってるんですが、担当の田渕さんとはどれくらいのおつきあいになるんですか。

※『刻々』は堀尾省太のデビュー作で、マンガ大賞2011にもノミネートされた。ときが止まった世界「止界」で繰り広げられる死闘を描く。
『刻々』第1巻 ©堀尾省太/講談社
刻刻(1) (モーニング KC)
作者:堀尾 省太
出版社:講談社
発売日:2009-08-21
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T:長くてですね、何年ぐらい付き合ってる?

H:20年近くです

T:アフタヌーン四季賞※のあとに、今はなくなってしまった『ミスターマガジン』※という雑誌がありまして、そこの賞に応募してくれて会ったんですけど、さあいよいよ掲載というときに雑誌がつぶれてしまって、路頭にまよってしまいまして。そこからの付き合いです。

※四季賞は受賞者のその後の活躍が目覚ましい、マンガの新人賞のなかでもっとも受賞者偏差値が高い賞のひとつ。春夏秋冬の年4回開催され、ページ数なども自由で特色のある作品が多く集まると言われている。
※『ミスターマガジン』はサラリーマン以上をターゲットとしたマンガ雑誌。第二第四水曜日発売。安彦良和『王道の狛』、弘兼憲史『加治隆介の議』、一色まこと『花田少年史』などが連載された。2000年1月休刊。

HT:ハハハ

T:もう彼は、『刻々』をネームの段階で見せてくれたんですが、知らなかったらちょっとどうかなと思うんですが、堀尾さんだったらこれを描いたら無茶苦茶面白いなという予感はしましたね

HT:『ミスターマガジン』に載る予定だったのはまた別の作品だったんですか?

T:そうなんですが、むかしから堀尾さんは「異形のもの」というか「もののけ」「妖怪」なんかを描かせるとすごく「リアリティ」がありましたし、たぶん「止界」※を思いついたのは、「止まっている世界」を本人が描きたくて描きたくてたまらないので、そこから発展していくんだろうなあと。

※「止界」というのは、『刻々』のなかで能力者が時間をストップさせた世界のことを言う。『刻々』のファンは、昔のままガラケーを使っていることを「止界」にいる、などと表現することもある。
 
堀尾省太『刻々』1巻 ©堀尾省太/講談社

さっき、堀江さんがおっしゃってた、「(岩明均さんの『ヒストリエ』※で)槍一本までも自分で描くのはムダ」というのもわかるんですけど、その世界を自分で描きたいという欲求から世界観が出来上がってくるということも作家さんの場合あるんですよ。そういう意味では堀尾さんは岩明さんタイプの作家なんですよね。

岩明さんも『刻々』を楽しみに読んでいただいていたという話なので、直接の師弟関係はないんですが、お互いに通じるものがあるんだなと思います。

※『寄生獣』の岩明均が描く歴史漫画。2003年の発表以来、わずか9巻の発売。2017年3月に10巻が発売される。紀元前4世紀のギリシアマケドニア王国アケメネス朝ペルシアを舞台に、古代オリエント世界を描いた作品。『ベルセルク』『HUNTERXHUNTER』とともに「3大先が待ちきれないマンガ」と言われている。
ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)
作者:岩明 均
出版社:講談社
発売日:2004-10-22
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HT:でも(四季賞とったのが)20年前ですよね。けっこう前ですよね。

H:そうですね

HT:僕が会社(オン・ザ・エッジ、後のライブドア)作ったのが1996年なので。その頃、田渕さんは『モーニング』にいらっしゃらなかったんですよね?

T:そうですね

HT:堀尾さんはその間(四季賞をとってからデビューするまでの12年間)なにをやられてたんですか?

H:その間はずっとアシスタントですね

HT:はぁ〜なるほどね。なるほど、なるほど。どんな作品に関わられてきたんですか?

H:高橋のぼる先生※能條純一先生※

※高橋のぼるの代表作は『土竜の唄』。累計発行部数は約700万部。
※能條純一の代表作は『哭きの竜』、小学館漫画賞受賞の『月下の棋士』など。竜の「あンた背中が煤けてるぜ」というセリフは竜ファンの麻雀打ちに大流行した。

 

HT:渋いですね(笑)

H:渋いですね(笑)。能條先生からはかなりパクらせてもらっています。よんでて読者にはわからないような形でですが。

HT:(アシスタントでは)麻雀マンガ※とかやられていたんですか?

※『哭きの竜』のこと
哭きの竜 1 (小学館文庫 のA 21)
作者:能條 純一
出版社:小学館
発売日:2016-08-18
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H:当時は能條先生はビリヤードのマンガ※を描かれていまして

※2001年からビッグコミックスピリッツで連載された『J.BOY』のこと
J.boy 1 (ビッグコミックス)
作者:能條 純一
出版社:小学館
発売日:2002-06-29
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T:スピリッツでしたね。

H:能條先生の、なんでもない風景を、いきなりドンとものすごい大ゴマでもってくるとか、歩いている人の足元だけを描くとか、そういうのは相当パクらせていただいてるんです。

T:あー、なるほど、そうですね、たしかに。

HT:構図みたいなものですね

H:本当に、なんでもない風景を、ものすごい緻密に描かれるんですね。能條さんというのは、そういうところから、臨場感というかリアリティというか、自分がそこにいて、その風景を実際に見ている錯覚に陥るところがあります。

HT:でも、そういうのってやっぱり重要なんですね。僕らは読んでるだけなので、そういうところを意識的に見るということはないんですが、確かに『刻々』って臨場感がすごかったです。

H:ありがとうございます。

K:絵って止まってるじゃないですか、マンガは通常「止まっている絵」で動きを表現する一方で、『刻々』のなかで動きが止まっている「止界」の場面を、止まっている絵で表現することが凄いです。ちゃんと止まっている絵になってる。

T:担当編集としては「とにかくアシスタントをいれてください」と口を酸っぱくしていいました。最初の頃は全部ひとりで描いていて、でも、堀尾さんは全部自分で描きたいんですよ。でもその体制だと、もう原稿が落ちるから「頼むからアシスタントを入れてください」と言いました。で、なんとか2,3人つかってくれたのかな。

HT:やっぱり絵のクオリティが気になっちゃう感じですか?

H:あの、岩明先生とは違うと思うんですけど、先程の「槍を自分で描かないと気が済まない」という気持ちは自分にもあります。アシスタントの人にお願いして、相手もプロなので、描いていただくと、100点、場合によっては100点以上のものを出してくれるんですね。今はそんなことはなくなりましたが、昔は上手いかどうかよりは「違う」と思っちゃう時がたまにありました。

K:もはや上手い下手ではなく、堀尾さんの頭のなかにあるものと一致してるかどうかということなんですね。

T:やっぱり漫画家さんって映画監督であると同時に俳優でもあるんで、凝ろうと思ったら、どこまででも凝れちゃうんですよね。で、例えば、映画監督だったらカネを集めてくる力があれば、すごいうまい俳優さんを使える。蜷川幸雄さんだったら厳しい指導で自分の思う通りに演出することができる、でも漫画家さんだったら自分で全部描いてしまえば早いわけです。それが、大方の漫画家を目指す人の心理なのではないかと思います。

HT:でも、映画監督でもタイプがあると思うんですよ。映画って、最近すごい興味深い話をきいて、あの、ハリウッド映画って「ディレクターズカット版」ってあるじゃないですか。

T:はい

HT:なんでだと思います?

T:映画会社が力を持っているからですよね

HT:そうですね。でも日本の映画って、監督が編集するんですよ。だから、基本的に日本の映画ってすべて「ディレクターズカット」なんですよ。

T:うんうん

HT:例えば『君の名は。』※のプロデューサーの川村元気さん※は、力を持っていて、監督といっしょに、バンバンカットするらしいんです。

※2017年2月5日現在、240億円の興行収入で歴代4位の大ヒット。ちなみに上にいるのは『アナ雪』『タイタニック』『千と千尋』。
※『君の名は。』『おおかみこどもの雨と雪』『モテキ』『バクマン。』など、数々のヒット映画のプロデューサー。自身の著作『この世から猫が消えたなら』も100万部を突破したヒットメーカー。

T:川村さんはバンバン切りますよね(笑)

HT:川村さんはそのために、現場に足を運ばないらしいんですよ。運んじゃうと、監督やスタッフが「10時間かかってやっと撮れました」というシーンを血も涙もなくカットできなくなるから。

K:おー、感情移入しないためにですか!

HT:そうそうそう。っていうのがあって、でも日本映画っていうのは伝統的に監督の編集権が強いっていうのがあって、プロデューサーはなかなか口出しできない。だから、川村元気さんが関わった作品が最近ヒットしてるのは、やっぱりそういうところがあると思ったし、新海誠さんがすごいなと思ったのは、川村さんに同調してすごくカットしてるところですね。『君の名は。』を観ると、これすごくカットしてるんだろうなと想像できるし、新開さん自身もそう言ってたし、今の映画は長すぎるというような発言もあったし。

で、この映画の話は前段なんですが(笑)、「マンガの場合はどうなんだろう」というのがぼくの聞きたかったことなんですよ(笑)

T:(笑)

HT:監督であり、役者であり、しかもプロデューサー的な要素もある。でも編集者というのはプロデューサー的な役割をするわけじゃないですか。そのへん『刻々』とか『ゴールデンゴールド』みたいな作品って、どういう役割分担をしているんですか?田渕さんは「これ、堀尾さん、このコマいらなくないっすか?」なんて言っちゃったりするんですか?

T:(笑)まあ、わたしは堀尾さんに限らず、「お前描かないからそんなこと言えんだよ」と、堀尾さんにも思われてると思うし(笑)、他の作家さんにも言われますけど、まさに川村さんと同じで、すこし「ガサツ」になろうかなと意識しています。

H:基本的に「この構図がダメだ」なんて言われたことはないんですけれども、これからどうしていこうかと、困ったというときに、かなり担当さんに頼ることになるんです。そこで出て来る案というのが、セリフにして絵にしてということが困難だなということはよくあります。

T:うんうんうん

HT:そうですか、ではバンバンカットされるというような感じではないんですね。

H:そうですね、カットされるというのはほぼないですね。

T:ないですかね、『刻々』のころはネームの段階でいろいろあったりしたんですが、いまはほとんどないかなぁ。やっぱり連載すると、いい意味で「商業主義的」になるので、変なこだわりが消えていって、よりエンターテイメントを素で描いていただけることが増えてきましたね。

HT:僕は週刊連載の仕組みって、定期的に連載する仕組みって、ある意味いいところがあると思っていて、毎週、次はどうなるんだろうという見せ場があるので、単行本を読んでいても飽きさせない仕掛けがあるんですよね。

T:最近、ネットフリックスやHuluでやってる海外ドラマをみると、週刊連載のような作りですよね。着地点が決まってなくて、今週の「ヒキ」をどうするかとか、わりと尺も自由に使えるので、週刊マンガ誌が全盛のときの作り方に近いなと思いました。

HT:あーなるほどね。だからついつい観ちゃいますよね。

T:そうですね、観ちゃいます。

HT:ただ僕は、ネットメディアの時代にはドラマというフォーマットがちょっとあってないかなという気がします。スマホで観るときに、マンガは自分のペースで空き時間に読めるんですが、ドラマはちょっとやっぱり1話が冗長ですよね。僕がそう感じるということは、若い子たちはもっとそう思っているんじゃないかと思うんですよ。だから、たとえば、ネットフリックスの『ブレイキング・バッド』※を面白いと言われて、海外出張のときに観ていたんですが10話くらいでギブアップしたんですよね。

※『ブレイキング・バッド』は癌に侵された田舎の科学教師が、家族に遺産を残すため、麻薬製造・販売に手を出し、運命を大きく狂わせていく物語。

T:私が編集者になりたてのころに、先輩から言われて理解したのは、週刊誌というのは起承転結を数回でやれば良いし、ヒキが大切。つまり映画の密度というより、今の海外ドラマの密度感なんですね。

多分『ブレイキング・バッド』というのは、映画にすると1/3くらいの尺で収まっちゃうと思うんですよ。ながら見ができるように作ってあるので、漫画家さんも、ネットフリックスを吹替版でつけっぱなしにして絵を描いている人が増えましたね。

堀尾くん、喋ってないけど大丈夫(笑)

HT:そうか、ながら見仕様なんですね。僕はじっと見入ってしまったので飽きちゃったんですね。

T:2台スマホをもって、1台で映像を流しながら、もう1台で違うことをやるくらいでちょうどいいかもしれません(笑)

HT:堀尾さんは、そういうの参考にされたりしますか?

H:してないですね(笑)

HT:田渕さんによると、妖怪とかおばけとか得意だということだったんですが、なにか特に読み込んだりしたようなものってあるんですか?

H:特に読み込んだりしていないんですが、ここにおいてある藤田和日郎先生の『うしおととら』※とかは思春期に触れてきたんですが。

※藤田和日郎の代表作。少年うしおと妖怪のとらが「白者の面」と戦う妖怪バトルマンガ。とにかく読め!

うしおととら 完全版 1 (少年サンデーコミックススペシャル)
作者:藤田 和日郎
出版社:小学館
発売日:2015-05-18
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K:他にどんな作品がお好きだったんですか?

H:わりと雑多に古めのものを好んで読んできましたね。手塚先生の短編だとか、水木先生の短編だとか、水島新司先生の『野球狂の詩』※でもない、『白球の詩』※というもっとマイナーな作品ですね。

HT&T&K:(笑)

H:『白球の詩』というのは弱小球団の1軍と2軍を行ったり来たりするような選手にフォーカスしたような作品ですね。(つづく)

※『野球狂の詩』は水島新司の代表作。50歳を超えた投手、岩田鉄五郎の野球と人生を描く。『白球の詩』は弱小球団ボッツがいかに勝つようになったかを、あまり野球的な観点からではなく描いた作品。当然のことながらドカベン・ドリームトーナメントには登場しない。
新装版 野球狂の詩 水原勇気編(1) (講談社漫画文庫)
作者:水島 新司
出版社:講談社
発売日:2009-02-06
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白球の詩 (1) (講談社漫画文庫)
作者:水島 新司
出版社:コミックス
発売日:2002-02
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 第2回 瀬戸内の無人島に建つ村上ファンドのホテルはホリエモンの隠れ家!?『ゴールデンゴールド』 マンガ新聞超新刊大賞2016 大賞記念ホリエモンVS堀尾省太 対談レポートはこちらです。

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