「スーパーヒーロー」ってキモ怖い。アメコミの核心をぶっちゃけた『マーベルズ』の功績

北島 歩2017年02月09日 印刷向け表示
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マーベルズ (ShoPro Books)
作者:カート・ビュシーク 翻訳:秋友克也
出版社:小学館集英社プロダクション
発売日:2013-07-24
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  「スパイダーマン・ザ・ライド」に乗ったことはありますか?
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの。

私如きが今更ご紹介するまでもなく、7年連続"世界No.1ライド"受賞という、名実ともに世界イチのアトラクションです。個人的にもそこにまったく異論はございません。紛れもなく世界イチです。圧倒的です。

初めて乗った時の感情は忘れもしません。

搭乗までの道中、そこかしこに散りばめられた原作ファン垂涎の小ネタの数々。
TVに流れるニュース映像ではドクター・オクトパスをはじめとする、おなじみシ二スターシックスの悪党どもがニューヨークで大暴れ中。「やれやれ…すぐにスパイディがやってきて、今日も今日とてコテンパンだよ君たちは」お約束の光景を前に、気分はすっかり作品世界の住人です。

乗り終えた暁には年甲斐もなく「スパイディカッコ良いぜ!!」とか「やっぱマーベル最高ですわ!!」とか言ってしまうんだろうなあ…ふふ。

で、期待値MAXで迎えたファーストライド。
襲い来るヴィラン。颯爽と駆けつけるスパイディ。バトル、バトル、すんでのところで危機回避。一件落着。

プシュー…ガコン…。

…。

感想はたったひとつでした。

「本物のヴィランものっすごい怖い……こわいよぉ!!」

すみません、若干もうひとつありました。

「なんならスパイディも怖い……こわいよぉ…いやあ!!」

あ、最終的な感想はこれです。

「どこかよそでやってくれ!!!!」

今回ご紹介させていただく『マーベルズ』を読了後、あの時の感情が鮮烈に蘇るとともに、あんなにもわかりやすい勧善懲悪の物語がなぜ純粋なホラー体験に変換されてしまったのかが、やっと理解できた気がしました。

物語は報道カメラマンのフィル・シェルダンの視点を通じて、日常のささいな変遷のなかで突発的に巻き起こる、スーパーヒーローおよびヴィランたちとの邂逅を中心に綴られてゆきます。

報道カメラマンゆえ、彼の行く先々にはギャラクタスの襲来やグウェン・ステイシーの悲劇など、オールドアメコミファンなら諸手を挙げて喜ばざるを得ない、ヒーロー史を代表する様々な事件が待ち受けています。

特筆すべきはアレックス・ロスの手掛ける超写実的アートワーク。
スパイダーマンのコスチュームに刻まれた細かな皺の「着ている感」だったり
岩男ザ・シングのあまりにリアルな肌質だったり、シルバーサーファーの鏡面ボディに移りこむ風景の緻密さだったりが、とてつもない質量を伴って紙面から訴えかけてきます。

いつもの通勤路の曲がり角にも。
バスルームの窓の向こう側にも。
ある日の夕刊の一面にも。
ほら、ためしにいま空を見上げてごらん。
「スーパーヒーローってほんとにいるんだぞ」と。

想像を絶するスケールで展開される超人たちの争いを目の当たりにするたび、フィルは強く実感します。ただの人間に抗う術はほんの1ミリ程度も残されていないということ。我々の生死を司るハンドルは完全に彼等に掌握されているということを。ファンタスティック・フォーによって破壊されたビルの残骸に埋もれる人々を前に、うずくまってただ呆然と審判の下るその時を待ちながら。

作中、驚くべきことに異形のものたちが成す行いには善にも悪にもいっさいの効果音があてがわれておりません。超人にとっては「BOOM!」とか「CRASHH!」とか「SMAASH!」程度のワンアクションであったとしても、矮小な一般市民にとってのそれは、ひとつひとつ、1コマ1コマがイコール世界の終焉であり、五感の遠く及ばない、まさに人智を超えた行いなのです。

”蟻んこ目線で見上げる全知全能の神々の闘い”

「スパイダーマン・ザ・ライド」で感じた恐怖の原因はどうやらこの「底なしの無力感」のようです。

『シン・ゴジラ』ならまだギリ納得できます。あれは天災です。
しかし超人たちは、ものを言い、考え、ヒトを愛するがゆえ悩み、危険が近づけば迷わず助けに駆けつけます。我々の存在がいっさい影響しない異世界から。空中を経由して。原色のなんか変なコスチュームで。ゆえに生まれる「不条理さ」「タチの悪さ」「不気味さ」がこの作品における最大の収穫であると思います。

アメコミ世界の街頭で頻繁に描かれる、看板をもった汚いおじさま。
看板には「コスプレ〇〇野郎はこの街から出ていけ!」の殴り書き。

今ならとてもわかる気がします…。

「どこかよそでやってくれ!!!!」

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