ゆとり教育によってダメになった学校は体罰で良くなるのか?教育関係者に話題の漫画はこれだ! 週刊少年ジャンプの新連載『U19』は教育改革の今だからこそ展開が楽しみです。

今村 亮2017年02月17日 印刷向け表示
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ゆとり教育以後の教育改革の新連載

みなさんは、週刊少年ジャンプで新連載ラッシュが始まっていることをご存知ですか?

『ナルト』『BLEACH』など看板作品の完結が相次ぎ、『HUNTERXHUNTER』『ワールドトリガー』など期待作の不安定な休載が続く中、週刊少年ジャンプは決死の新連載ラッシュをスタートしました。なんと6週連続の新連載。その中で筆者が注目しているのは、2月27日特大号(2/13発売)から連載開始した『U19』(アンダーナインティーン)です。
 

『U19』ってどんな漫画?

 『U19』の物語は女子高生の悲鳴からはじまります。

頭髪検査に引っかかった女子高校生が、薄笑いを浮かべたジャージ姿の体育教師によってバリカンで丸坊主にされています。

2036年・・・
子供たちは大人に支配されていた

主人公が通うのは茨城県日立市遠山高校。時代は2036年だというのに、変わり映えのしないジャージ・セーラー服・三角定規・スマホ・ホイッスル・バリカン・・・。なんというか、まあ、伝統を重んじる学校なのでしょう。

2036年は「脱ゆとり」が徹底的に進んだ局地のような時代です。特徴は4点に整理できます。

1.体罰で支配
権威的で威圧的な教員が横暴の限りを尽くし、生徒が媚を売るのが学校の日常です。「今や教師には体罰が認められてるんだ」とのことです。

2.大人査定で選別
20歳になったら「大人査定」が課されA~D等のランク付けがなされます。センター試験や就活の代わりに機能しているようです。先生いわく、「キミたちの学校での評価はそのままキミたちの将来に直結します!テストの点数、生活態度、健康状態等が判定対象となり、20歳になる際それぞれの『大人ランク』に選別されます」とのことです。

3.落ちこぼれにも家と仕事を保障
この時代は、全ての国民に住居と仕事が保障されるようです。過度な格差や貧困へきちんと対策されている点は重要です。相当な予算が投じられていることは間違いありません。若者に配慮したぶあつい社会保障は2017年現在では考えられません。

先生はこう言います。「多少の体罰を容認することで落ちこぼれをださず、日本の子供の学力は全盛期の勢いを取り戻した!!さらに大人ランクによって優劣はあれど、全ての国民にその後の人生…仕事と家が保障された」

4.政策は政治主導
こうした流れをつくったのは大人党という新しい政党なのだそうです。大人党への権限集中は強烈です。たとえば高校の集会に大人党の局長があらわれるシーンが描かれますが、学校現場に政党が直接的に権限を発揮するなんていうことは2017年現在では絶対に起こりえません。戦後、日本の学校教育システムには政治からの分離・中立化というコンセプトが強く組み込まれることになり、巧妙に意思決定権限が分散されているからです。

しかし時代の厳しさと改革への期待が大人党へ権限を集中させたのでしょう。システム的には戦前に逆戻りという状況です。学徒出陣、富国強兵、なんでもありです。そんな教育をなぜ選択してしまったのか、主人公の父は背景をこう語ります。

「ゆとり教育で子供の学力は軒並み低下。そのあとは格差教育の時代だ。裕福な家庭の子だけが塾や大学に通えて、父さん達一般家庭の子は学ぶ意欲があれど機会がなかった。大学出てないってだけで就職は門前払い。仕事がなくてなぁ・・暗い未来しか想像できなかったよ。」

ゆとり教育って、本当に恐ろしいんですね。

 

「ゆとり教育」は本当に学力低下を引き起こしたのか?

『U19』にも描かれるように、「ゆとり教育」が学力低下の戦犯だとする言説は見事に世間に定着しました。

しかしそもそも、それは統計的に正しいのでしょうか?データを確認してみましょう。

ここではPISA調査を取り上げます。OECDが3年ごとに加盟国70カ国の15歳児童(中学3年生)を対象に行っている学力調査です。


出典「社会実情データ図録」http://www2.ttcn.ne.jp/~HONKAWA/3940.html


2006年、PISA調査における日本の国際順位が低下し、学力低下と「ゆとり教育」の責任が一気に注目されました。時代は一気に「脱ゆとり」へとなだれ込みます。

しかしよく考えてみると、06年調査を受けたのは1994年に小学校に入学した世代です。つまり「ゆとり世代」ではありません。「ゆとり教育」が小学校・中学校で始まったのは2002年度からですので、学力低下の問題は「ゆとり教育」以前からすでに始まっていたと見るべきでしょう。

また「脱ゆとり」が成功したかというと、断言はできません。「脱ゆとり」が中学校で全面実施されたのは2012年度からなので15年調査が主な評価対象になりますが、この結果を見る限り学力向上に大きく寄与したとは言えません。

学力をめぐる議論には時間がかかります。また多面的な検証が必要です。ですが因果関係と相関関係がしばしば混同されます。しかもときに恣意的で感情的な操作も加えられます。受け取る側のリテラシーが試されるテーマであることを強調したいところです。(参考:「ゲームで子どもの学力は下がるのか?」 http://honz.jp/articles/-/43230

『U19』に教育NPO職員が期待すること

以上のように、第一話が始まったばかりの『U19』では「脱ゆとり」がもたらした体罰だらけの地獄のような学校が強烈に描かれました。

教育NPOに勤務する筆者は、この漫画は追い風だと感じます。この調子で「脱ゆとり」を偽悪的にガンガン描きまくってもらいたい。

なぜなら2017年の今は教育改革まっただ中の時代だからです。2020年に大学入試が変わります。それから2022年には学習指導要領改定が完了します。この2つが両立するのは40年に一度のタイミングです。

いま教育に必要なのは「ゆとりor詰め込み」の二元論を脱出することです。たしかに「ゆとり教育」には機能不全も多々ありましたが、その実践にはキラリと光るヒントが眠っています。黒歴史として仮想敵扱いしてしまうのではなく、きちんと検証し知見を掘り起こす必要があります。

ですので「ゆとり教育」の再評価が『U19』をきっかけに始まることを筆者は期待します。居酒屋や学校や食卓やネットで話題になる程度のことでいいのです。重要なのは日常の空気です。RADWIMPSの言うとおり、週刊少年ジャンプには日常の空気を変える力があります。

現実の2036年が「脱ゆとり」のディストピアと化してしまうのか、それとも教育のジレンマを克服した新しい時代を迎えられているのか。今まさに我々週刊少年ジャンプ読者は試されています。

以上、NPOカタリバ今村亮がお送りしました。
https://www.katariba.or.jp/ 

 

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