「平成の鬼平」中坊公平を弁護士廃業に追い込んだ闇とは?『銀行渉外担当 竹中治夫』 法曹利権、バブルの闇、そして政治家の暗殺

角野 信彦2017年02月26日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
銀行渉外担当 竹中治夫 ~『金融腐蝕列島』より~(6) (KCデラックス 週刊現代)
作者:こしの りょう
出版社:講談社
発売日:2017-02-23
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

『銀行渉外担当 竹中治夫』6巻では、「人権派弁護士」とよばれた中坊公平をモデルに高尾幸吉(通称タコ)が登場する。中坊公平は1973年の「森永ヒ素ミルク中毒事件」で被害者の恒久的救済を実現したり、「豊田商事事件」で従業員給与の所得税を税務署から取り返して、豪腕かつクリエイティブな法律の使い手として評価を受けていた。

『銀行渉外担当 竹中治夫』6巻 ©こしのりょう/講談社

 1996年に住専の不良債権処理のための組織、住宅金融債権管理機構の代表、1999年に不良債権全般の処理を担う整理回収機構(RCC)の代表となり、バブルの崩壊で発生したと言われる約200兆円の不良債権の回収の旗振り役となる。当時の世間からは、ヤクザや遵法精神のない不動産業者から容赦なく債権を回収するリーダーとみなされ、「平成の鬼平」などと呼ばれた。

ところがである。あとから振り返ってみると中坊公平は『羅生門』のように人によって様々な評価がくだされる人物であった。

朝日住建の債権回収に関わる詐欺疑惑

当時、朝日住建が取得した、泉北ニュータウンのホテル開発用地への融資が不良債権化していた。当該物件の第一抵当権者の明治生命と横浜銀行に、RCCと朝日住建が泉北ホテル物件から回収見込みの43億円という金額を隠し、「33億円で三井建設に売却する」という虚偽の説明をした。売却に際し、支払う必要がなかった特別土地保有税の約6億円も、「支払う必要がある」として、本来、第一抵当権者が回収できる金額よりも大幅に過小な額で抵当権を抹消させた事件。

1990年にバブルが崩壊して、住専の不良債権が大きな問題となると、末野興産、富士住建とともに、「ナニワの借金王3羽ガラス」と呼ばれたのが朝日住建である。こうした住専の大口融資先の回収は非常に難易度が高く、朝日住建の不良債権処理はRCCの中でも中坊公平の直轄案件とされていた。

『銀行渉外担当 竹中治夫』6巻 ©こしのりょう/講談社

その際の内部資料が朝日住建から流出し、今西憲之『内部告発』に掲載されているので引用する。

内部告発―権力者に弓を引いた三人の男たち
作者:今西 憲之
出版社:鹿砦社
発売日:2003-02
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

中坊公平 朝日住建 銀号渉外担当 竹中治夫
三井建設が43億で泉北ホテル用地を購入するとした「土地買付申入れ書」。日付は平成9年12月25日。

中坊公平 朝日住建 銀号渉外担当 竹中治夫
第一抵当権者である横浜銀行に泉北ホテル用地を33億で売却したというRCCと朝日住建からの「ご通知書」。日付は平成10年3月30日。住管の代表である中坊公平の署名と捺印もある。

資料に明らかなように、43億で買付けされる予定の物件を33億と虚偽の通知書を第一抵当権者に提出している。この詐欺行為を朝日住建の子会社社長に内部告発され、子会社社長が東京地検特捜部に告発状を提出、受理されることとなった。中坊が起訴される可能性はかなり高いと言われていたが、中坊の弁護士廃業と引き換えに起訴猶予とされた。

巨大弁護士利権の創出

「RCCとは弁護士の利権である」

ある弁護士は増田にこう話した。

「中坊は弁護士業界の中でも評価されているいるが、人権派だとか庶民の味方だからではない。RCCを設立して弁護士が社長に就任することで、弁護士の仕事が飛躍的に増えた。RCCは税金で作った国策会社ですから、仕事をすれば確実に報酬も得られる。危ないことがあっても、いわば国が守ってくれます。弁護士業界に新しい大口の稼ぎ先を提供してくれたから、みんな評価している。中坊のことをマスコミがほめすぎた」

河村の国会質問で、弁護士に一年間に支払われたのが、37億円。今までゼロだったところに現れた巨大な利権。

 

今西憲之『内部告発』

2001年の河村たかし衆議院議員(現名古屋市長)が国会質問で明らかにしたのが上記の内容で、RCCには顧問弁護士が63人いて、その平均支払額は2,100万だった。一方で中坊は法科大学院制の設立を支援し、司法試験合格者3,000人体制を推進、裁判員制度などの司法制度改革にも積極的だった。一種の利権集団ともいえる弁護士業界に、アメとムチを与えながら改革を進めようとしたマキャベリストが中坊公平だったのかもしれない。

 

法曹利権と国政、そして暗殺

中坊公平をRCCの会長に推した人物として、弁護士・衆議院議員でもあった錦織淳がいる。中坊公平とは共著を2冊も出している関係の深い人物である。

裁かれるのは誰か
作者:中坊 公平
出版社:東洋経済新報社
発売日:1997-12
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 錦織淳の1996年の献金リストは非常に興味深い。RCC元社長で、弁護士の鬼追明夫は150万の寄付をしているが、後にRCCの債務者から月10万円の顧問料をもらっていたことで懲戒処分を受けている。また、弁護士の庭山正一郎(ミスター住専と言われた日本住宅金融の庭山慶一郎社長が父親)から10万の寄付を受けている。もちろん中坊公平もリストにあり、50万の寄付をしている。庭山慶一郎はRCCが算出した損害54億のうち、わずか1億2千万を支払うことで中坊公平率いるRCCと和解した。

また、中坊公平への告訴状が提出されたわずか2日後、民主党の石井紘基衆議院議員が山口組系の右翼団体代表に柳刃包丁で刺殺される事件があった。石井は中坊公平の告発に賛同していた議員のひとりで、事件当日、石井の鞄には国会質問のために国会へ提出する書類が入っていたが、事件現場の鞄からは書類がなくなっており、いまだに発見されていない。当時はその書類を「整理回収機構の不正」関連と報じた報道機関もあった。

 

お楽しみはこれからだ!

RCCという1,000人近くの弁護士を擁する巨大組織と、バブルの崩壊で瀕死の巨大都市銀行との闘いに、政治、マスコミ、闇の勢力が絡み、法曹利権のゆくえ、中坊公平をモデルにした高尾幸吉の強烈なキャラが相まって、リアルタイムでこの事件をくわしく追っかけていなかった自分にはワクワクドキドキの展開た。

それにしても、ノワールが人を惹きつけるのは何故なんだろう。組織の正義が社会の正義とぶつかり、そこで起こる葛藤というのはこの作品の最大の魅力のひとつ。そういう意味で『銀号渉外担当 竹中治夫』は6巻でさらに深く、面白くなっている。まだ読んでない方、早めに追いついておいた方がいい。

『銀行渉外担当 竹中治夫』6巻 ©こしのりょう/講談社
 
銀行渉外担当 竹中治夫 ~『金融腐蝕列島』より~(1) (KCデラックス 週刊現代)
作者:こしの りょう
出版社:講談社
発売日:2015-11-20
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事