心を震わす名言と出会える。フィクションは、虚構だけれど嘘じゃない。『テンプリズム』

宮﨑 雄2017年03月01日 印刷向け表示
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フィクションがもつ機能のひとつに「名言と出会える」ことがあると思う。

名言とは、世界や自分への認識を、普段づかいの言葉以上にクリアにしてくれる言葉だ。 
それは好きという気持ちを「好き」と言う以上に伝えたり、誰もが抱えるモヤモヤをスパッと一言で言い切るものだったりする。そのシンプルさで、人の心にスッと刺さるのだ。

だけどそんな名言と現実の生活で出会うのは難しい。
なぜなら、気づけないからだ。喋った言葉は言ったそばから消えてしまうし、名言の前に「名言を言います」と言ってくれる人はたぶんいない。

その点マンガは、最も名言と出会いやすいタイプのフィクションだ。
絶体絶命のピンチに際して、主人公が大見得を切れば。同じページの他のコマと比較して、そのセリフのコマが極端に大きければ。フキダシを強調するために、背景がシンプルになっていれば。それは名言である可能性が高い。

『テンプリズム』の名言にも、そんな演出のおかげで出会うことができた。
僕が『テンプリズム』を読んでいてよかったなあと思ったのは、最終巻のこのシーンで、この言葉と出会えた時だ。

 

曽田正人『テンプリズム』12巻より

”自分”が無くて、”捧げる”ものも持たなかったから、”力”が出た時はそれを持て余し、我を失う。

たとえ悪でも、あいつらは”捧げる”ものへ一直線だ。

オレは、おまえらのようになりたかったのか……

 

物語が収束する間際で、主人公ツナシは、自分が抱えていたモヤモヤを、自分の言葉で言語化する。そして、それが敵を憎みきれなかった理由だということも理解する。

フィクションは、虚構だけれど嘘じゃない。彼が抱えていた悩みを作った環境は虚構だけど、同種の悩みは現実の誰がもっていてもおかしくないものだ。
例えば僕には力というほどのものはないけれど、自分をどう振舞わせればよいのか悩むことは多々ある。”捧げる”という言葉が示しているのは、そこで迷いをもたない状態なのだろう。僕は振舞いに迷いがない人をまぶしく思う人間だったのだ。

そんな自分の見方を可視化してくれたツナシのこの言葉は、紛れもない名言だと思う。そして『テンプリズム』はファンタジーであるがゆえに、その言葉は説教くさくもなく、同じ思いをもつ仲間が心から発する叫びとして、読者の心を震わせてくれるのだ。

ちなみにそんな『テンプリズム』は現在、完結記念で1~5巻が無料で読めるそうです。すてきな言葉に出会いたい人にオススメです。
 

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作者:曽田 正人
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