細胞レベルから健康になる 『テロメア・エフェクト 健康長寿のための最強プログラム』

澤畑 塁2017年03月02日 印刷向け表示
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細胞から若返る!  テロメア・エフェクト―健康長寿のための最強プログラム
作者:エリザベス・ブラックバーン 翻訳:森内 薫
出版社:NHK出版
発売日:2017-02-22
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「同じ年齢なのにどうしてこうも違うのか」と思うことが少なくない。たとえば同じ60歳でも、Aさんは背筋がピンとしていて、肌には張りがあり、病気などどこ吹く風。それに対してBさんは、腰が曲がっていて、肌にはシミやたるみが目立ち、多くの慢性的な疾患に悩まされている。では、AさんとBさんはどうしてそれほど違っているのだろう。

ふたりの違いに大きく関係しているのが、「細胞の老化」だ。わたしたちの体を構成する細胞は、分裂を繰り返し、日々新しいものに置き換わっている。だが、そうした細胞の分裂にも限界がある。そして、細胞が分裂・再生できなくなると、当の細胞は老化してしまい、体の組織も老化を始める。先の例のように、Bさんが早くから老けこみ、早くから多くの疾患に苦しんでいるのは、その細胞がすでに老化しているからだ、とそういうわけである。

しかしそれならば、細胞の老化に「早い/遅い」があるのはどうしてなのだろう。そこで重要になるのが、本書の主人公ともいうべき「テロメア」である。テロメアとはどんなもので、細胞の老化とどう関係しているのか。また、テロメアとわたしたちの健康を維持するにはどうしたらよいのか。本書はそれらの点を一般読者に向けてわかりやすく説明していく。なお、著者のひとりのエリザベス・ブラックバーンは、テロメアに関する発見で2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

テロメアと細胞の老化

図の白い部分がテロメア

わたしたちの体の細胞には細胞核があり、細胞核の奥深くには染色体がある。そして、その染色体の末端にあるのがテロメアだ。具体的にいうと、それは非コードDNAの反復配列(ヒトの場合はTTAGGG)から成っており、その長さにはそれぞれ違いがある。

では、そのテロメアがどうして重要なのか。それは、テロメアの長短が細胞の老化スピードを決定するからである。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなる。そして、テロメアがあまりに短くなると、細胞は分裂をやめてしまうのだ。

著者らはテロメアの機能を「靴紐のキャップ」に喩えている。靴紐の両端についているプラスチックキャップは、靴紐がバラバラになるのを防いでいる。それと同じように、テロメアはいわば染色体の保護キャップをなしている。染色体はわたしたちの大事な遺伝情報を運んでいるが、その遺伝物質がとくに細胞分裂の際に壊れてしまうのをテロメアが防いでいるのである。そしてすでに触れたように、テロメアが極端に短くなると、テロメアは染色体をうまく守ることができなくなり、細胞分裂を停止させるサインが出される、というわけだ。

以上のようにして、テロメアは細胞の健康、ひいてはわたしたちの健康に深く関わっている。その事実がすでにして驚くべきものであるが、しかし、テロメアに関してはもうひとつ驚くべき事実がある。じつはわたしたちの生活のあり方次第で、テロメアが長くなることもあるというのである。

生活習慣の改善によってテロメアを伸長させる

テロメアが短くなると、細胞の老化が早くから始まり、わたしたちの健康寿命(健康なまま生活できる期間)もそれだけ短くなる。反対に、テロメアを長くすることができれば、細胞の老化を遅らせ、より長い健康寿命を実現することも可能である。そして実際、細胞のなかにはテロメアを伸長させる酵素が存在する。それが、ブラックバーンと教え子のキャロル・グライダーが発見した、テロメアの修復を行うテロメラーゼという酵素である。

そのように、テロメアは短くなることもあれば、テロメラーゼによって伸長されることもある。では、テロメラーゼを十分に活性化させ、テロメアの長さを維持するには、いったいどうしたらよいのか。

そこで著者らが提唱するのが、テロメラーゼの自然な産生を促すこと、とりわけそのために生活習慣を改善することである。じつは、わたしたちの日常生活のあり方によって、テロメアは短くもなれば長くもなる。その一例が、ストレスへの反応の仕方だ。人に過剰なストレスがかかると、その人のテロメアが短縮してしまうことが実験結果からわかっている。だがそれと同時に、これまた実験結果からわかっているように、「打たれ強い思考」を身につけるなどして、ストレスへうまく対処できるようになれば、テロメラーゼを増加させることもできるのである。

そしてほかにも、運動、睡眠、食事といった生活のあり方を整えることによって、同様の効果が得られることが判明している。だから、著者たちがいうように、テロメアと自らの健康を維持する術は「あなたの手の中にある」。著者らはこの点を強調して次のように語る。

人が生活の中でどんな出来事を経験するか、そしてその出来事にどう反応するかによって、テロメアの長さには変化が生じる可能性がある。いいかえれば、私たちは自分で自分の老い方を変えることができる。いちばん根源的な細胞のレベルでそれが可能なのだ...。

というのが、本書のおもな内容とメッセージである。ところで、その内容からして「実用書」として扱われることの多い本書であるが、わたし個人としては、むしろサイエンス好きの読者に本書をおすすめしたい。サイエンス好きの読者からすると、おそらく第II部以降(生活習慣の改善の話)は冗長に感じられる部分も少なくないだろう。しかし、そこでもたしかに重要なことが語られているし、また何より、第I部(テロメアと細胞老化の話)が非常におもしろく、勉強になる。個人的には、最初の90ページだけでも本書を読む価値は十分にあると思う。

健康なままより長く生きるためにはどうしたらよいのか。その点をしっかり考えるための科学的な知識とヒントが本書には詰まっている。多くの人にとって学ぶところの大きい1冊であろう。

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