エルメスが20年前からやっていた最強のコンテンツマーケティング。『エルメスの道』 読めば絶対、ファンになる。

宮﨑 雄2017年04月03日 印刷向け表示
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 コンテンツマーケティング。それは企業や個人が、その企業や個人ならではのコンテンツをお客さん候補に提供して、「いいね」と思ってもらいながらじわじわとファンになってもらうというマーケティング手法。

 最近はその手段として、オウンドメディアと呼ばれる企業メディアを用いる企業が増えてきています。たとえば僕はBAKE MAGAZINEというメディアを愛読しているのですが、これはお菓子会社のBAKEが運営しているオウンドメディアです。

 BAKE MAGAZINEには自社製品の話以外にも、他社のお菓子のことやケーキを可愛く撮影する方法など、誰が読んでも面白い情報も掲載されています。いち企業が運営しているメディアですので、もちろんBAKE自身のコンテンツが多めではありますが、それでも信用できる情報を届けようという気持ちが伝わってきて、とても好きです。

 そしてこのメディアを「面白いな~」と定期的に読んでいる僕は、不思議なことに、今日会う人に何か手土産を持っていきたいなと思った時に、BAKEのチーズタルトを選んでしまいます。読者は意識せずともファンになってしまうのです。これがコンテンツマーケティングの威力です。

 これらは一般的にはSNSの普及とともに、2014年ごろから日本でも流行り始めた手法だと言われています。オウンドメディアという言葉をよく聞くようになったのもそのころだったと思います。

 しかし今からさかのぼること20年前。Windows98すら発売していない1997年。すでに、超高品質なコンテンツマーケティングをしかけていた老舗企業があったことを、ご存知でしょうか。それが高級服飾ブランドのエルメスです。

 そして、インターネットが一般ユーザーに普及するはるか以前、「ほぼ日」すらない頃に提供されていたコンテンツこそが、マンガ『エルメスの道』なのです。

エルメスの道 (中公文庫―コミック版)
作者:竹宮 惠子
出版社:中央公論新社
発売日:2000-01
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竹宮恵子が描いた、誰でも読めるエルメスの社史

 『エルメスの道』、それはエルメス創業160周年記念の社史です。1997年に刊行された社史ですが、いまもAmazonで買えます。600円くらいです。

 最初から商業本として作られたとはいえ、いち企業の社史が刊行20年後も手に入るって、すごくありませんか。しかも、1997年に作られた社史が20年後にも重版されているという事実。僕が手に入れたのは2015年に刷られた第6刷でした。マンガで社史を作る企業は他にも結構ありますが、エルメスは一線を画しています。

 ですが、それもそのはず。『エルメスの道』を描いたのは、あの竹宮恵子さんです。『風と木の詩』『地球へ…』で知られ、現在は京都精華大学学長をお務めの、あの方です。社史である以前に、マンガとしての質が非常に高いのです。

 あとがきによると、当時エルメスの社長を務めていたジャン・ルイ・デュマ・エルメス氏が「馬に乗れる人であること。馬が描ける人であること」という条件で中央公論社に問い合わせ、竹宮恵子さんに白羽の矢がたったとのこと。ちなみに当時すでに人気漫画家としての地位を確立していた竹宮恵子さんですが、この作品が評価されたことをきっかけに、京都精華大学から教員に誘われたそうです。

 

エンタメとして高い完成度を誇る、老舗企業の歴史

 『エルメスの道』は社史として制作されているので、SFだったり、耽美な愛憎劇が描かれているということはないのですが、エンタメとしても十分に楽しめる作品です。

 たとえば、元は馬具店だったエルメスが、馬→自動車という移動手段の変革に伴って鞄作りにシフトしたという逸話はもちろん、エルメスの社員が世界で初めてショーウインドウを発明したときのこと、シャネルとの意外な関係、そして、エルメスのアイコンとも言える、あのスカーフが誕生した時のエピソードなどなど。目まぐるしく展開されるのは、まさに神話のような話ばかり。

 正直あまりファッションに明るくない読者である僕ですら、つい引き込まれてしまうので、ファッション好きの方にはたまらないと思います。決して、よくある一方的に歴史を伝えるだけの自己満足的な社史ではなく、全体を通して高いレベルの共感を生む物語として成立しています。

 

5万円以上するスカーフが「安い」。作品のもつ恐るべき魔力

 このマンガを読むと確実にエルメスのファンになってしまい、アイテムが欲しくなります。 コンテンツマーケティングの見事な成功例と言えるでしょう。

 『エルメスの道』で、スカーフに隠された素敵な秘密を知ってしまった読後、僕は気付いたらエルメスのECサイトにアクセスして新作のデザインを物色していました。5万円以上のスカーフを「安いなあ、どれにしようかなあ」と思いながら見ていたのです。

 その時はなんとか踏みとどまりました。ですが手土産でBAKEのチーズタルトを選んでしまうように、いつか本当に良いもので身を包みたくなった時、僕はエルメスを選んでしまうと思います。『エルメスの道』はきっと、そんな読者を20年前から量産し続けているはずです。

エルメスの道 (中公文庫―コミック版)
作者:竹宮 惠子
出版社:中央公論新社
発売日:2000-01
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エルメス (新潮新書)
作者:戸矢 理衣奈
出版社:新潮社
発売日:2004-01
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老舗の流儀 虎屋とエルメス
作者:黒川 光博
出版社:新潮社
発売日:2016-10-18
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出版社:中央公論新社
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