【ネタバレあり】祝完結!!と言っていいのか?賛否両論の結末?!『アイアムアヒーロー』

角野 信彦2017年05月05日 印刷向け表示
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アイアムアヒーロー 22 (ビッグコミックス)
作者:花沢 健吾
出版社:小学館
発売日:2017-03-30
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書評サイトの記事としてはかなりまれなケースですが、まずは『アイアムアヒーロー』22巻のAmazonレビューを読んでみてください。星ひとつがすごいことになっています。逆にこれだけすごいとものすごく読みたくなりませんか。かくいう私もこの「祭り」ぶりにいてもたってもいられなくなり、読んでみて、ここにこうしてレビューを書いています。

『アイアムアヒーロー』22巻 Amazonのレビューページより https://www.amazon.co.jp/product-reviews/B06XKMXYWX/ref=cm_cr_dp_see_all_summary

『アイアムアヒーロー』を最後まで読んでみて思い出したのは、『ドラゴンヘッド』、『AKIRA』などのカタストロフィもののマンガの終わり方です。本来、物語の基本形は単純だといわれますが、こうした物語世界全部を壊してしまう破局的なストーリーはうまく終わらせるのがものすごく難しくなることが多いようです。

物語はよく旅に例えられます。「日常か」から始まって「非日常」の体験をし、「新たな日常」へと帰ってくる。これが「旅」に内包された基本的な構造です。

(中略)

恋愛ものの企画は「恋におちる」という、ある種の「心の旅」(非日常)を描くものものですし、ホラー映画では殺人鬼のいるキャンプ場で死ぬほど怖い目に遭う(非日常)ことで、生き残った人物がトラウマを抱えて生きていく(新たな日常)というふうに逆説的な描き方をしたりもします。

(中略)

人間の営みは、総じて「日常(=常態)」「非日常(=変化)」「新たな日常(=更新)」の繰り返しによって成り立っています。そう考えてゆくと、どんなジャンルのどんなタイプのストーリーであっても本質的には同一の流れをくめる、ということになるわけです。

 

三宅隆太『スクリプトドクターの脚本教室 中級編』

 また、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんは『荒木飛呂彦の漫画術』のなかで「王道のストーリー」についてこんなふうに話しています。

・プラスとマイナスの法則

 

「起承転結」という基本を覚えたところで、ストーリー作りにおいて次に大切なことは、「プラスとマイナスの法則」です。まずゼロの線があるとして、そこを起点に主人公の気持ちや置かれている状況が上がっているか、下がっているかを考えてみます。前章で「キャラクターは必ず成長するように描くことが大事だ」と書きましたが、特に少年漫画は、常にプラス、プラス、プラス・・・・・とひたすらプラスを積み重ねて、どんどん上がっていく、これがヒットするための絶対条件です。

 

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』

こうした、ストーリー作りのある意味での「常識」を超えたところで完結するのが、カタストロフィマンガの特徴です。「新たな日常(=更新)」の土台となる「見慣れた日常」を完全に壊しつくすことが、ゾンビや巨大災害の物語の特徴なので、冒頭に挙げた『AKIRA』や『ドラゴンヘッド』だけでなく、さいとうたかお『サバイバル』なども、荒木飛呂彦のいうところの「プラスとマイナスの法則」に完全に反したかたちで物語を終わらせています。

ここからネタバレですが、『アイアムアヒーロー』も、ゾンビに破壊され尽くしてしまった日常を更新することなく結末を迎えます。破壊しつくされた東京で、猟銃を持ち、狩猟をしながらサバイバル生活しているところが描かれて「完」となります。

著者の花沢健吾は文春オンラインで、作品の終了に際したインタビューで、こう答えています。

自分をかなり反映したキャラだった分、連載を重ねるごとに僕自身も成長しないと、英雄に感情を乗せられなかったんです。でも最後まで僕にあんまり成長がなかったので、ラストになっても英雄にわかりやすいヒーロー像を背負わせることはできませんでしたね。1巻と最終巻の違いといえば、ハゲたことくらいかも

 

文春オンライン(http://bunshun.jp/articles/-/2225)

 こうして著者のコメントを読んでみると、結末において「成長した主人公」「更新された日常」という物語の鉄則を敢えて外してラストを描いたということがわかります。「虚構」というのは、最近話題の『サピエンス全史』でも、指摘されてますが、ホモ・サピエンスが生き残ってきた要因のひとつで、「虚構」を信じられない種というのは生き残れなかったといわれています。

冒頭で見たAmazonのレビューでの酷評ぶりを観ると、人間というのは進化の過程で獲得してきた「物語を楽しむ」という能力の奴隷なんだということがよくわかります。ちょっと物語の「型」を外してしまうと、Amazonのレビューが示すように酷評の嵐になります。人間は理性ではなく、本能でストーリーを楽しんでいるということなんでしょう。

皆さんもぜひこの『アイアムアヒーロー』の「歴史に残る結末」を読んで、いろいろ「物語」について考えてみてはいかがでしょうか。

スクリプトドクターの脚本教室・中級篇
作者:三宅 隆太
出版社:新書館
発売日:2016-06-25
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荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)
作者:荒木 飛呂彦
出版社:集英社
発売日:2015-04-17
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昔話の形態学 (叢書 記号学的実践)
作者:ウラジミール・Я. プロップ 翻訳:北岡 誠司
出版社:水声社
発売日:1987-08
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 物語の登場人物の機能、物語の構造そのものを約30に分類し、時代を超えて残ってきた物語の類型がそれほど多くないことが書かれている。川上量生『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』でも紹介されている。

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