ひとは情報を味わい、情報にこころを動かされる。教養としての手土産学『おもたせしました。』

角野 信彦2017年04月08日 印刷向け表示
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おもたせしました。 1 (BUNCH COMICS)
作者:うめ
出版社:新潮社
発売日:2017-04-08
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 ぼくがはじめて「グルメマンガ」といわれるようなジャンルを読んだのは1983年です。中学一年のとき、クラスでスピリッツやモーニング、少年ジャンプ、サンデー、マガジンを買ってくる友達が決まっていて、みんなで回し読みしていたのです。そんな時期に連載がスタートしたのが『美味しんぼ』でした。

『美味しんぼ』を読んで、ぼくはビールにコーンスターチが入っていることや、しゃぶしゃぶは牛肉の一番まずい食べ方だということ、フランス料理店に入って鴨にわさび醤油をつけてもいいこと、生牡蠣にワインをあわせる人は味覚オンチなことなど、たくさんのグルメ情報を得ました。インターネットのない時代には、グルメの情報など、中学生がどこかで見つけることはほとんどなかったため、グルメという分野においては、僕にとって『美味しんぼ』は聖書のような存在でした。ぼくの年代(1971年生まれ)にはそういう人もたくさんいると思います。

前置きがながくなりましたが、細分化が著しいグルメマンガのジャンルのなかで、久々の王道感のある作品が、この『おもたせしました。』です。細分化されたグルメマンガで一番不満なのは、『美味しんぼ』における京極さんがいないことです。長良川の鮎を食べてもいっこうにココロを動かされないのに、四万十川の鮎を食べたとたん嗚咽をもらす、あのキャラクターがいないのです。料理に感動する人間の歴史が描かれないのです。

その点、『おもたせしました。』は、『美味しんぼ』における北大路魯山人や池波正太郎の役割を果たすため、夏目漱石、坂口安吾、寺田寅彦、古川ロッパなどの食い道楽のエッセイや小説が紹介されます。だれがどういう理由でその「おもたせ」に感動しているか、その歴史が理解できるように情報がもりこまれています。『堕落論』の坂口安吾が、だれとどんなふうに「おでん」を食べていたか、どんなふうに小説に書いているか、興味ありませんか?そういう作品が、登場するキャラクターにシンクロして、食べる人が感動している、酒が飲みたくなる理由がすごく納得できるんです。

 

うめ 小沢高広 妹尾朝子『おもたせしました。』1巻

きっと永井荷風や吉田健一や植草甚一など、だれか出てくるなあと第一話を読んだあと思ったのですが、今回単行本を読んでみて、やはり出たかと少しうれしくなりました。くいもののエッセイを読みながらお酒を飲むっていうのはすごくいいもんなんですけど、『おもたせしました。』もそんな作品です。

うめ 小沢高広 妹尾朝子『おもたせしました。』1巻

今日は天気も良くないし、この作品を読みながら浅草「大多福」さんのおでんをつまみ、いっぱいやってみるのもいいかと思います。

おもたせしました。 1 (BUNCH COMICS)
作者:うめ
出版社:新潮社
発売日:2017-04-08
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鍋料理の話
作者:北大路 魯山人
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 第一話でおでんの話がでてくるのは、これ。あわせてどうぞ。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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