カミングアウトできないレズビアンの少女。幸せな家庭に執念があるキャバクラ嬢。才能がないと自覚しているバレエ教室の先生。不幸でも美しく生きる女たち。『大阪ハムレット』 ナニワでは、おもしろきこともなき世もおもしろく。

佐伯 英毅2017年04月15日 印刷向け表示
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 漫画を読んで感動して流す涙は、号泣ではなく、じわーっと流れると思う。
大声をあげるのではなく、自分の中が揺さぶられて震えて、気付いたら涙が流れている。
そんな時「この漫画に出会えて良かったな」と思う。
僕は最近この漫画を読んで、涙をじんわり流した。

大阪ハムレット (1) (ACTION COMICS)
作者:森下 裕美
出版社:双葉社
発売日:2006-05-12
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 「生きるべきか 死ぬべきか それが問題だ」
シェイクスピアの戯曲『ハムレット』の有名な台詞。
『大阪ハムレット』の1巻では、先生が不良生徒・久保に「久保くんはハムレットやなあ」と言ったことから、不良の久保が『ハムレット』を読み出し、先生とこんな対話をするシーンがある。

「なんでハムレットは
生きるか死ぬかそれが問題や言うてんの?
なんで死ぬ事が男らしいと思てんの
なんでコイツ生きるのがみじめや言うてんの?」

「ハムレットが悩まなければ
お話にならないわけで
悲劇とはそういうモンなんですよ」

「なんで悲劇にならなアカンねん!」

「そやかて見てる人がおもろないでしょ」

「人の不幸がおもろいてなんて人間や!」

全5巻の『大阪ハムレット』は短編集だ。
いくつもの人生とそれにまつわる不幸が描かれている。

女装に目覚め始めた男子小学生。
いじめられっ子とはみ出し者の女子高生。
自分に才能がないと自覚しているバレエ教室の先生。
周囲にカミングアウトできないレズビアンの少女。
幸せな家庭に強烈な執念があるキャバクラ嬢。
義母の介護を任せられたフィリピーナの女性。

置かれている状況は様々だが、登場するキャラは誰も「見て分かる幸せ」を享受している人はいないのだ。

この作品は単純に不幸が描かれているから「おもろい」のではない。
自力で立ち上がったり、誰かに助けてもらったり、互いに支え合ったりして、少しずつ不幸から変わっていく様が描かれているから「おもろい」のだ。

そして森下裕美先生の描く、“女”の種類とリアリティは凄い。
5巻に登場する「高校の年上の先輩」は、そんなに登場シーンが多いわけじゃないのに、「ああこういう先輩が高校にいたら好きになっていたな…」と思ってしまった。
少し気が強くて、年の割に大人っぽい雰囲気を出していて、男好きというわけではないが、なぜか冴えない男子をかまってくれるという…この感じが最高なのである。

高校時代ではないが、僕もこんな大人っぽい先輩を好きになったことがある。
冴えない男子ほど、可愛い先輩を好きになって文化系っぽいデートがしたくなる現象はなんと言うのだろうか。
何度か二人で会った後、「付き合ったら楽しいと思うけど…」とフラれた。それを言うなら付き合ってほしいものである。合掌。

同じ体験をしたわけではないが、いつか同じ感情は味わったことがある。
自分の中の、懐かしくて柔らかい部分が刺激される感覚。
これが『大阪ハムレット』の底に流れている素晴らしさだ。
ぱっと絵で判断することなかれ。薄味のようで、じつは濃厚骨太。
大阪の町で繰り広げられる、生々しい情に溢れる悲喜劇がここに描かれている。

「何か作品を読んで泣きたい!」という人ではなく、
「泣くつもりとかはないけど、ちょっとおもしろそうだな」
と感じた人に、ぜひ読んで欲しい短編集。
きっとあなたも、じわじわ揺さぶられるはずだ。

大阪ハムレット (1) (ACTION COMICS)
作者:森下 裕美
出版社:双葉社
発売日:2006-05-12
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大阪ハムレット 2 (アクションコミックス)
作者:森下 裕美
出版社:双葉社
発売日:2007-01-12
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大阪ハムレット 3 (アクションコミックス)
作者:森下 裕美
出版社:双葉社
発売日:2009-03-12
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大阪ハムレット(4) (アクションコミックス)
作者:森下 裕美
出版社:双葉社
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大阪ハムレット(5) (アクションコミックス)
作者:森下 裕美
出版社:双葉社
発売日:2017-02-28
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