大人が始めた非合理で不都合な理不尽は、すべて子どもたちに降りかかる『五時間目の戦争』

工藤 啓2017年05月19日 印刷向け表示
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五時間目の戦争 (1) (カドカワコミックス・エース)
作者:優
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2014-10-03
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いつの時代も子どもたちに降りかかる非合理で不都合な理不尽は大人が始めたことだ。どんなに「おかしい」と思ったって、声をあげて叫んだって、結局は何も変えられない。そんな理不尽を経験して大人になった僕らは、いつしか子どもたちに理不尽を課すようになっている。そんな大人だけにはならないと胸に誓ったはずなのに。

中学三年生の双海朔(ふたみさく)が暮らす青島はど田舎の離島。五年前に大人が引き起こした正体不明の敵との戦争も、離島の中学生にまで手をかけるほどになった。既に自衛隊・民間人を合わせて75万人強の死者が出ている。子どもたちも戦力として駆り出される。毎週金曜日の五時間目に。

少し戸惑いながらも女性教師は生徒に伝える。

 

「みなさんは・・・『戦時下法令第四条』により、名誉なことに、戦場に出征することができるんです・・・」

 

子どもたちは戦う相手が誰か知らない。先生や親からも教えてもらってない。教室内に不安が充満する。意義を唱えようとする生徒に、ベテラン男性教師は遮るように話す。

 

「いいか、これはお国の命令や。君らが口出しをする権利はない」

 

そして最初の出征者の名前が告げられる。東京から疎開してきた篠川零名(しのかわれいな)。教室で誰よりもこの戦争を知っていると思われる彼女は悲痛なほどに怯える。それを見て、朔は自分が代わりに出征すると宣言する。しかし、運動能力抜群の双海と安居島都(あいしまみやこ)の二人は、なぜか出征する資格を持たないと宣告を受ける。

都は幼い三人の兄弟姉妹とともに暮らす。運動もできず、天然でちょっとドジっ娘。特技は料理。戦時中の限られた資金と物資を何とかやり繰りしながら、“美味しいもの”でみんなを支える。さまざまなシーンで出てくる都の料理、その背景にある悲しい運命、切ない想い、そして優しさが戦時下で荒廃する子どもたちの心と胃袋を優しく諭す。

本土戦場、戦闘服に身を包んだ零名の姿はあった。突然現れる敵の物体、爆破。翌週からクラスメートが順次出征する。かろうじて生きて帰ったものもいれば、戦死したものもいる。出征直前で自ら命を絶った子どもも・・・

敵の正体が明らかになっても、戦争が終わったとしても、生き残った人間に残るのは非合理で不都合な理不尽だけだ。それを始めたのは子どもたちではない。しかし、理不尽を被るのはいつだって子どもたちだ。

戦争を実体験として知らない世代にとって、戦争が子どもたち与える影響がどれほどのものなのかは現存資料、生存者の語り、想像力で補うしかない。しかし、大人が子どもたちに課す理不尽は戦争だけに留まらず、私たちの日常生活のここかしこにあふれている。
 

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