押見修造、東村アキコ、押切蓮介、清野とおるがこぞって絶賛する才能の爆発『太郎は水になりたかった』 第2話「おっぱい」の衝撃。青春と人生のすべてがここにある。

マンガサロン『トリガー』2017年05月24日 印刷向け表示
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太郎は水になりたかった (torch comics)
作者:大橋裕之
出版社:リイド社
発売日:2015-11-11
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押見修造先生が、東村アキコ先生が、押切蓮介先生が、清野とおる先生が、名立たる作家が激賞する才能。

それが、大橋裕之先生です。

その大橋裕之先生の『太郎は水になりたかった』。
これもまた、凄いマンガです。

何よりもこの作品を雄弁に表しているのは、サブタイトルでしょう。


第1話「太郎とヤスシ」


これはまぁ、わかります。


第2話「おっ


「ああ、このマンガは信頼できる
2話目で、そう確信しました。

しかもこれ、ただの女の子のおっぱいのお話ではないのです。

中学生男子が「手をおっぱいを包み込むようなお椀型にして6時間そのままの形で保ち続けると、そこにおっぱいが具現化される」という話を信じてわざわざ授業中から挑戦するお話なのです。愚かで、愛すべき人間の物語なのです。

『太郎は水になりたかった』は、普段はクラスの下位カーストで鬱屈としながらも、無限の可能性に満ち溢れた少年たちの日常を描きます。あまりにも卑近でありふれた、しかしそれ故に貴さを感じさせる営みです。

太郎にはヤスシがいて、ヤスシには太郎がいる。ただそのことが、どれだけ彼らにとって大きな幸いであったことでしょう。

太郎やヤスシの中学生生活を見ていると、往事を思い起こされます。

どうしようもない男子同士のバカ騒ぎ。
当時意識していた女の子。
その子に対して上手く振る舞えなかった自分。
相容れないグループの存在。
相容れないと思っていた同級生と、思わぬ些細な切っ掛けで仲良くなったこと。
友情の奇妙なバランス。
一番仲の良い友人との仲違い。
親が恥ずかしいという感情。

私も中学時代には彼らと同じようにどこか埋められない虚無を抱いていました。傍から見ればリア充に見えていたかもしれません。ただ、それこそ「水になりたい」ではないですが、「雲散霧消してしまいたい」という想いが常に蔓延っていました。今思えば取るに足らないことでも、その時にはそれが世界の全てのように思えていたなぁ、と改めて思います。

『太郎は水になりたい』は、死体ごっこや妄想部の部活動、あるいはどう見てもロベルト本郷がいるサッカーの授業のような所で笑わせて来つつ、谷村さんや上条さん絡みで甘酸っぱい気分にさせながら、太郎やヤスシの後ろ暗い部分にかつての心の傷を呼び起こされます。様々な感情を喚起させてくれるのは良い作品である証左ですし、その雑多な感情の入り混じりは正しく青春の、そして人生の縮図です。

極端に記号化された独特の画風には、最初抵抗もあるかもしれません。しかし、時にその絵によって笑わせてきたり、逆に背筋を凍りつかせてくるような描写もあったりと、読めばこの絵でないとダメでこの絵であるからこそ本作が成立していると完璧に理解できます。

太郎やヤスシに共感するかもしれませんし、共感できないとしても、昔クラスにこんなヤツがいたなぁ、と感じ入るかもしれません。いずれにせよ、生きるのに難しさを感じる人、自分は何て不器用なんだろうと思い悩んで生きてきた人ほど、深く突き刺さる内容です。

いつもと少し違ったマンガを読みたい方に、そっとお薦めしたいです。

トーチWebでも一部読めますが、コミックス版は大幅に加筆修正がなされているのでぜひコミックスでも読んでみて下さい。

太郎は水になりたかった 2 (torch comics)
作者:大橋裕之
出版社:リイド社
発売日:2016-09-09
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 

文章:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿

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