造られた人格は破綻する。自分を見失ったSNSインフルエンサーの末路『スイートホームシンドローム』

小禄 卓也2017年06月06日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「僕は昨日、2回ほどう○ちをしたよ。オフィスのトイレが詰まったので同僚のA君が30分かけて掃除をしていたけど、詰まる前に僕がう○ちをした時にトイレットペーパーを使いすぎちゃったみたい(*ノω・*)テヘ …あ、でも安心して!う○ちを一回流したあとにトイレットペーパーを使ったから、う○ちは溢れてないよ★」

どうも、「漫画のセレクトショップ」をコンセプトにした無料マンガアプリ『マンガトリガー』編集長のころくです。冒頭から汚い話をして申し訳ないが、上記は先日オフィスで本当に起こった出来事である。

例えばこれが、はあちゅ○さんやり○かちさんやカツセ○マサヒコさんのような、今をときめくSNSインフルエンサーの方々のTwitter投稿で流れてきたらあなたはどう思うだろうか?おそらく、「あ、ブランディング間違えてる」「風邪かな?」「サブ垢と間違えたかな?」と思うだろう。僕もそう思うし、そもそも彼ら彼女らは決してこんな愚かなミスは犯さない。

改めて、汚い話題に著名な方々の名前を出してしまったことはお詫びしよう。しかし、今回紹介したい町村チェスさんの作品集『スイートホームシンドローム』に収録されている「魔女の箱庭」という短編漫画を語る上で必要だったのだ。

誰もが羨む読モインフルエンサー・高城ゆり子の栄光と転落

 「魔女の箱庭」では、昨今のSNSで多くのフォロワー(ソーシャル力)を持った(ってしまった)女性(美魔女)の末路が描かれている。主人公は、波に乗っているベンチャー企業経営者の夫と娘と暮らすワーキングマザー。仕事の傍らでプリザーブド・フラワー(造花)教室の講師をやり、さらに読モとしても活躍。もちろんSNSでも人気者だ。

高城ゆり子。絵に描いたような読モである。

誰もが羨む生活を送っていた高城ゆり子。しかし、事業が立ち行かなくなった夫の失業をきっかけに、その上質な暮らしぶりが音を立てて崩れていく。

レビューとは関係ないが、私もベンチャー経営者の端くれ。心してかからなければ……。

ここからゆり子は、娘の保育園の送り迎えも高級外車から自転車へマイナーチェンジ。スマホの向こう側で待ってくれているフォロワーたちのためにも「華やかなゆり子」として振る舞わなければいけないプレッシャーを抱えながらも、食事も不摂生になりストレスで心も体もボロボロに。それでも、SNSの投稿は「華やかなゆり子」のまま。

もう、必死である。フォロワーからのRTやメンションが殺到することに快感を覚えてしまい、抜け出せない。

フォロワーからの羨望の眼差しが、いつしかストレスへと変わっていく……。

一度崩れたハリボテは、元に戻すどころか醜くなるばかりである。

お鼻が取れちゃった。

「他人の目」が気になる人が全く気にしない「自分の目」

この物語の結末は、漫画で読んでいただくとして(ハッピーエンドではない)、やはり「こうありたい自分」と「本当の自分」の実体がかけ離れている人は、どこかで歯車が噛み合わなくなってくるのだろう。高城ゆり子に限っては、ついぞその歯車が再び噛み合うことがなかった。プリザーブド・フラワー(造花)の講師とは上手く言ったものだ。

高城ゆり子にとっての「トクベツ」な生活は、しょせん偽物だったということだ

思わず「さすがにこんなやつおれへんやろ」とツッコみたくなるところだが、もしかしたら僕の知らないところでこうした人がいるのかもしれない。一度表舞台から消えた人間には、光は当たらないものだ。

今回取り上げた「魔女の箱庭」は、理想と現実の見境がつかなくなってしまい自我が崩壊した女性が主人公であったが、『スイートホームシンドローム』の他の2篇、表向きは穏やかなある家庭の裏側の闇の深さをばらの根深い性質になぞらえた「ばらの花」と、"つくられた仲良しグループ"と"本当に話したい相手"との間で揺れ動く女子高生の葛藤を描いた「希望の種」も大変興味深い内容だった。

『スイートホームシンドローム』を通して、「自分の軸がどこにあるのか」ということを問われているように感じる。他人の目を気にするあまり自分の軸を失ってしまいそうになっているが、その人生は誰のための人生なのか、と。

この漫画を読んで、最近人気の自撮り女子・りょかちさんの著書『インカメ越しのネット世界』で書かれていた言葉が思い出された。

本当は、この顔で、この名前で、リアル世界に生きている自分で愛されたい。リアル世界でつながっている多くの「あなた」に愛されたいのである。アイコンの私でも、ハンドルネームのあなたでもなく。

『インカメ越しのネット世界』より引用

インターネットでカッコつけることで、強く慣れたり楽しく生きられる世界は確かに存在する。ただ反対に、自分の弱さをオンライン上にアウトプットして弱い自分をインターネット上に拡張していくことで、私たちはもっと、しなやかに生きることが出来ると思うのである。

『インカメ越しのネット世界』より引用

隣の芝生は、どうしても青く見えてしまう。そこに憧れを持つのも悪いことではない。大事なことは、それを自覚した上で自分がどの方向に向かって行動するか。例え「ありたい姿」になりきれなかったとしても、その時は「弱さ」を見せてみたらいいのかもしれない。誰かがそっと、「いいね」の手を差し伸べてくれるはずだ。

改めて、そんなことを考えさせられる作品だった。 

(画像: ©町村チェス/宝島社)

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事