打ち切り作品がクラウドファンディングで復活?「ある権力からの勧告」で連載終了した『クリームソーダシティ』 そうまでして作者が描きたかった結末とは一体?

今村 亮2017年06月23日 印刷向け表示
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かつて伝説の未完作品があった

マジか。日本には年間8万人もの失踪者がいるらしい。
https://legalus.jp/others/general/ed-1624

実は失踪者はこの世の果ての楽園クリームソーダシティにいる・・・そんな世界を不条理に描いた怪作が『クリームソーダシティ』だ。「ビッグコミックスピリッツ」で2013年9月から連載が始まり、14年5月12日発売号で突然の連載終了を遂げた。

あのとき謎の連載終了について作者の長尾謙一郎さんが語ったコメントがSNSを駆けめぐったことを、みなさんはご存知だろうか?

『クリームソーダシティ』打ち切り直前のあらすじはこうだ。


(画像は長尾謙一郎「クリームソーダシティ」続編制作プロジェクトより)

主人公は元ミュージシャンの皇とTAKO介。小室ファミリーから干されて芸能界を引退した。二人は渋谷駅前で政治家を銃殺した瞬間、気づいたらクリームソーダシティに立っていた。女と海と太陽にめぐまれた魔法の楽園に二人は少しずつ慣れる。しかしTAKO介の脳裏に皇への疑念が浮かんだ瞬間、二人は現実に陥落してしまう。現実世界で二人はヤンキーにぼこられ、便器の水道トラブルを解決し、政治犯として勾留され、家賃未払いでアパートを追い出され、代々木公園のホームレスとなり、皇は109の屋上から飛び降りる。そのときTAKO介はクリームソーダシティの存在を思い出す。ここで連載は終了する。

とにかくすさまじい作品だった。

読者は想像した。『クリームソーダシティ』はなぜ打ち切られたのだろう?もしかして官邸の陰謀?共謀罪?小学館の自主規制?それとも小室ファミリーを馬鹿にしすぎたから?あるいは単なる不人気による連載終了をネタにしただけ・・・?

そもそも当時のスピリッツは攻めていた。原発事故への批判的テーマを扱った『美味しんぼ』も連載休止(事実上の打ち切り)となったし、『闇金ウシジマ君』では与沢翼を模したシリーズが展開していたし、時事と真っ向から斬り結ぶ姿勢で話題に事欠かなかった。漫画雑誌のギリギリに挑むライブ感を毎週楽しみにしていたことを筆者もよく覚えている。そんな最中だったからこそ『クリームソーダシティ』打ち切りの謎は都市伝説のように語り継がれた。
 

そしてクラウドファンディングへ

突然の発表は一年後のことだった。長尾謙一郎はクラウドファンディングで制作費を集め、描きたい続編を描くのだという。


当然のように読者は呼応し寄付は次々と集まった。目標金額を達成するたびに一話また一話と作品が描き進められた。制作過程は作者によってクラウドファンディングサイトに投稿され、読者の応援コメントが寄せられた。それは読者と作家の秘密の共犯作業だった。

そしてついに目標金額の196%となる3,928,001円が集まり、『クリームソーダシティ完全版』の出版が決定する。

読者は想像した。いったい『クリームソーダシティ』はどんな結末を求めていたのだろう。クラウドファンディングで制作費を集めてまで。しかも版元を小学館から太田出版に切り替えてまで・・・。そして発売日が訪れた。筆者はむさぼるようにamazonの箱をこじあけた。
 

クリームソーダシティ 完全版
作者:長尾 謙一郎
出版社:太田出版
発売日:2017-06-13
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一体どんな結末が?

『クリームソーダシティ』の結末を託されたのは、皇を喪いホストとなったTAKO介と国家の頂点に上り詰めた小瀬首相だった。

ホストと総理。真逆の二人には奇妙な共通点がある。それが物語をピークへと持ち上げる。

「あなたも選ばれし光の人になるのです!!」官邸を操る謎の集団に調教され、小瀬首相は戦争へと進む。

「あなたもヒーローになれるわよ・・・」皇への再会を夢想するTAKO介はクリームソーダシティの美女に導かれ、歌舞伎町の雑踏で手に入れた拳銃を握りしめる。その銃口が追うのは小瀬首相だ。

二人の共通点は依存心と殺意だ。自分の人生を自分で生きている実感を持てず、他者に依存して二人はずぶずぶと堕ちていく。出会うはずがなかったホストと総理が、夢とも現実ともつかない世界で接近していく。

「人間は常に主か奴隷かの二者一択を迫られている」皇はこう言った。そうか。ならば二人は奴隷だ。

小瀬首相はとにかく醜く描かれる。しかし注意しておきたいのだけれど、『クリームソーダシティ完全版』のメッセージは安易な政権批判でもなかった。皇はこう言い残している。

反権力とは単なる幼稚な精神のあらわれです。
反権力とはたいがい親子関係から来る個人的な問題のなすりつけです。

『クリームソーダシティ』の物語には戦争の香りが漂っている。ただし戦争は悪意ある権力によって断行されるものとしては描かれない。だから戦争は反権力では止められない。戦争を望むのは意志なき奴隷の依存心なのだ。ホストと首相の依存心が戦争を招く。なんてリアルなんだ。なんて怖ろしいんだ。

ここから先はあなたが作品でたしかめてほしい。
 

まとめ

以上のように、筆者はもっともらしく『クリームソーダシティ完全版』についてマジレスしてみた。しかしわからない。長尾謙一郎の作品は読者の理解を許していない。神聖なことが醜く愚かに描かれ、愚かなことが仰々しく丹念に描かれる。象徴は辻褄をなさず、台詞は誤字だらけだ。作品の本音のようなものが巧妙に畳み込まれており、いくら追い求めてもするすると読者を離れていく。

果たして筆者は今『クリームソーダシティ』を語れているのだろうか。なにひとつ腑に落ちない。もやもやしたこの読後感は長尾謙一郎作品の切れ味だ。

そういえば作中にはマルクスが登場してこう言う。

「なんと、かの『資本論』、アレ!!ぜ~~~んぶデタラメ!!!ウソ八百っ!!!もっともらしく小難しく書いたらみ~~んな信じた!!」

筆者も同じように『クリームソーダシティ』に釣られているのかもしれない。それでもいい。 この怖ろしい作品を手にとってみてほしい。どうやら堀江さんも読んだらしい。



前作『ギャラクシー銀座』もすさまじい作品なのでおすすめです。

===
ひきこもり男が母親に銃口を向けるまで。家族の恐ろしさを描く問題作『ギャラクシー銀座』 http://honz.jp/articles/-/42651

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