働きたくない気持ち。仕事がない環境。あなたはこの状態に耐えられますか?『34歳無職さん』の日常から考える“働かない”選択。

工藤 啓2017年06月22日 印刷向け表示
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34歳無職さん 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
作者:いけだ たかし
出版社:メディアファクトリー
発売日:2012-02-23
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先日、内閣府から発表された2017年版「子ども・若者白書」では、採用ができないと嘆く企業の言葉と相反するように若年無業者数が増加した。日本経済新聞でのその状況を報じている。

日本経済新聞:ニート、4年ぶり増加 子ども・若者白書

2000年代前半に登場した「ニート」という言葉は、政府レベルでは「若年無業者」に置き換わっているが、当時、無業の若者は「働く気がない」「なまけている」「やる気がない」などとバッシングされた。

もちろん、「今日は仕事に行きたくない」と思ったり、「働かないで生きられたらいいのに」と考えることはあるだろうが、実際に働くことが難しい状況にあるひとの生活を追体験することは容易ではない。

以前、ひとつの示唆的な漫画として生活保護について詳細に記した漫画を紹介した。

命を守る最後の砦「生活保護」。支援現場の最前線にある『健康で文化的な最低限度の生活』とは。 - マンガHONZ

非常に多くの方に読んでいただいた一方、これはあくまでも生活保護という制度の在り方を提起した(そして素晴らしい)漫画であるが、仕事を失ったときの生活を推察するにはやや偏りがある。

そこで今回紹介したいのが『34歳無職さん』だ。一般企業で働いていた女性(本名不明)が34歳で無職となり、“仕事のない生活”が淡々と描かれている。

少し専門的に言うと、日本において政策対象年齢における若者は一般的に15歳から39歳のため、この女性は「若者」に該当する。そして、若年無業者は三つに類型化される。就職活動をしても見つからない「求職型」、働く意志はあるが求職行動を起こしていない「非求職型」、そして、働く意志を持たない「非希望型」だ。

この仕事を探していない若者が「ニート」という定義に包摂され、求職行動のないことが「やる気」や「働く意志」と結び付けられバッシングされた。

この無職さんは「非希望型」だ。彼女は一年間仕事をしないことを決めた。つまり、働く意思を持たないため「非希望型」の若年無業者に該当すると思われる。

彼女の日常は、朝起きる(たまに寝坊する)、朝食を取る。昼食と取る。夕食を取る。お風呂に入って寝る。それ以外は食材を中心とした買い物にでかけたり、炊事や洗濯をしている。ときおり、電化製品が壊れたりするが、隙間時間は考え事か読書をしていることが多い。これが毎日続く。

前出の白書では、若者と居場所、孤立の関係性についての調査などもあり、そこをあげたメディアも少なくなかった。

Y!ニュース:働いていないと孤立する社会(工藤啓)

彼女は社会的に孤独か。おそらく、孤独である。積極的に他者とのつながりを求めたりするようには見えない。むしろ、孤独を選択している風である。では、彼女は社会的孤立の状態にあるか。前職の友人に声をかけられれば外出することもあるため、完全に孤立しているとは言えないが、時折、自宅以外の社会的な居場所のなさを感じさせるという意味では、孤立気味であるとも言える。

淡々とした日常生活のなかで、彼女は将来のことについて考えることもある。梅雨の時期、冷蔵庫を開けると何もない。買い物に行っておくべきだったと後悔しつつ、鬱陶しい天候に身体は重く、気は塞ぐ。

畳の上にゴロ寝して「電池切れ 要交換」と想う。そして言う。

「まあ仕事してたら 雨だろーが 電池切れも何もないワケだけど」

「だらしないのって 気持ちよくは あるんだよなぁ」

「・・・仕事もしないでゴロゴロしている私がだらしないとか言えた義理じゃないけど・・・」

「・・・もっとこう本格的に 床と同化するくらいゴロゴロと・・・生きている意味も失うくらい」

「・・・ゴロゴロくらい気楽にしようや」

 

彼女は非常に自然体であるが、一方で、無職である自分、働いていない自分を主観的、客観的な視点から考えることもある。ちょっといいことがあれば嬉しいし、少し嫌なことがあれば凹む。

34歳で無職。節約した生活にして、精神的には健康度の高い生活をしているようにも見える。ただ、明日の予定も、来月の予定もない。そういった日常を生きている。ただ、強く居場所を求めたり、働かなければだめなんだ!と痛切に悩むこともない。

そんな彼女の生活を見て、どのような印象を持つだろうか。なかなか知り得ない淡々とした無職の生活を追体験し、いまの自分と重ね合わせて物事にふける。そんなやさしい漫画が『34歳無職さん』である。

 

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