常識破りのクロカン野球に見る、成果を出すリーダーに必要なたった一つの条件『クロカン』

小禄 卓也2017年06月25日 印刷向け表示
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巨人に異常事態が発生している。

何の話か。プロ野球である。最近調子を取り戻しつつあるが、球団ワースト記録である13連敗を喫し、ベンチのムードも暗い。「ここまで来ると選手・監督の問題ではなく、現場責任者やGM、球団社長といった上層部の方針が悪い」と僕の周りの巨人ファンは言う。僕は阪神ファンなので巨人の不調はメシウマ以外のなにものでもないが、それでも、長年「伝統の一戦」と呼ばれ激戦を繰り広げてきたライバル球団には苦しみながらこの長いトンネルを乗り越えてもらいたいと思う。

こんにちは、マンガのセレクトショップ『マンガトリガー』編集長の小禄です。冒頭からプロ野球の話をしてしまい、子供の頃に描いていたおじさんに一歩近づいたような気がする。

今回、「優秀なリーダーに求められるは何か」という世界中で65536回は繰り返されている問いに対して多くの示唆をいただけるであろう漫画を紹介したい。それは、三田紀房さんの『クロカン』である。

三田さんと言えば、先日も「右肩上がりキャンペーン」が大いに盛り上がっていた『インベスターZ』や、「東大なんて簡単だ」の名言が印象的な『ドラゴン桜』などが有名だが、同氏の初期作品である『クロカン』もあまり知られていない名作だ。

「勝ちたけりゃ金払え」生徒に指導料を強要するトンデモ監督?!

『クロカン』は、黒木竜次(通称クロカン)監督が常識破りな戦術で弱小高校野球部とともに甲子園優勝を目指す漫画である。エースピッチャーをショートにコンバートさせたり、試合中に全員の守備位置を変えたり、奇想天外な戦術で並み居る強豪校に立ち向かうスタイルは「クロカン野球」と評され、凝り固まった高校球界に旋風を巻き起こす。

自分の指導力に自信がなければとてもこんなことは言えない

教えを請う部員たちに「試合に勝ちたかったら金を払え」と言い放つ主人公の姿は、作品を通じて常識に一石を投じ続ける三田紀房イズムが存分に注入されている。

この漫画の肝は、一人の監督が能力も性格もまったく違う複数のチームを甲子園へと導くところだ。王道スポーツ漫画のような「一人の主人公の成長の物語」とは大きく異なるこの点に、冒頭でも触れた「優秀なリーダーの条件」を考えるヒントが詰まっている。

同じチームでも、一人抜ければ全く違う戦術になる

クロカンは、作品の中で桐野高校、鷲ノ森高校と2つの高校で野球部の監督となっている。桐野では一代だけ、鷲ノ森では二代のキャプテンとともに甲子園を目指した。

怪物ピッチャー・坂本。豪腕過ぎて外野からレーザービームを投げる際には胸のボタンがはじけ飛ぶ

特に精力的に描かれている鷲ノ森編では、怪物ピッチャー・坂本ともともと平凡だった女房役(ピッチャー)のキャプテン・浅井がチームの柱となり引っ張っていった横綱相撲タイプの一代目に対し、坂本のような怪物不在の二代目は万能タイプのキャプテン・備前が頭をフル回転させて全員野球を行っていた。

一代目の武器は、言うまでもなく超高校級ピッチャー・坂本の豪腕だった。そこでクロカンはサードの浅井をキャッチャーへコンバートさせ、坂本の豪速球を正確に捕球するために牛の糞を詰めたボールを受けさせる「恐怖の特訓」を行った。もちろん最初は糞まみれになる浅井だが、完全捕球し糞に塗れる恐怖を克服できた頃には坂本のボールに対する恐怖心も払拭されている。目的のためには手段を選ばない努力(時には批判されながらも)を繰り返すことにより、甲子園を賑わす最強バッテリーは誕生する。

このあと浅井は糞まみれになる

坂本らが引退した二代目チームには、キャプテンの備前は野球センスが抜群だが、坂本のような圧倒的な力でねじ伏せらる投手がいなかった。

全国が度肝を抜いたオールディフェンス

そこで、打撃力を鍛え上げ、備前のセンスを軸に全員がどの守備位置でも守ることのできる「オールディフェンス」という奇策に打って出る。途中選手たちの造反などもあり精神的にも技術的にも不安定なチームであったが、キャプテン備前の執念が周りの選手に伝播し最終的には大いに甲子園を盛り上げたのである。

異なるチーム、異なる戦術の根底にある唯一のコンセプト

クロカンの監督手腕の凄さは、このように全く性質の異なるチームでも等しく結果を出すところにある。しかも、まったく違う戦術を用いてだ。一見当たり前のことのように感じるが、これがなかなか難しい。なぜなら、人は自分の成功体験にとらわれてしまうからだ。

「大一番こそバカになれ」は、クロカンの流儀だ

一世代で時代を築くことはできても、それはたまたま怪物級の選手がいたからかもしれないし、たまたま他のチームにスターがいなかったからかもしれない。その結果が「まぐれ」だったと言わせないためにも、二代目三代目と選手が変わる度に同等以上の成果を出し続けることこそが、優れたリーダーシップの賜物なのだろう。

クロカンは、チームの戦力と特徴を把握し、彼ら一人ひとりの持つ個性を最大化できる戦術を取ることを常に最優先してきた。その中で、クロカンが選手たちに伝えるメッセージは徹頭徹尾変わらない。それが、選手一人一人が「自ら考え、行動する」ことである。

クロカンは決して簡単に答えを言わない。「甲子園優勝」という目的を達成するために、自分たちには何があって、何が足りないのか。足りない部分を埋めるためにはどうすればよいのか……。考えても打開策を見出せず教えを請う部員には、「金を払え」と身銭を切らせる。選手にリスクを負わせることで、自分の行動に責任を持つことができ、コミットメントも高くなるためだ。

選手の自立を促し、個性を伸ばす。これがクロカン野球の真髄であり、世代が変わって戦術が変わっても変わらなかった唯一のコンセプトだ。鷲ノ森高校のキャプテン・浅井が甲子園の選手宣誓で、まさにそのメッセージを言語化している。

我々…選手一同は…何事も無償で与えられるものではなく自らが代償を払って知識と技術を身につけ 一人の自立した成人として社会で活躍するために…自分で選択し…自分で考え…自分で決断し…自分で行動し…決して諦めず最後まで自信と勇気を持って全力でプレーすることを誓います!

優秀なマネージャーは、優秀な教育者とも言い換えられる。そう考えると、今の巨人に必要なのは、凝り固まった「"巨人らしさ"という伝統を守る戦い方」ではなく、「選手一人一人の個性を活かした戦い方」への方針転換なのかもしれない。

三田さんの漫画が好きな方はご存知だと思うが、多くの三田作品には同じようなメッセージが込められているように思う。だからこそ、三田さんの作品はビジネスパーソンのファンが多いのかもしれない。『クロカン』が連載開始したのが1996年。この時代から漫画を通して変わらぬメッセージを発信し続ける三田紀房という漫画家には脱帽する。

ちなみにこの『クロカン』は、僕が運営するiOSマンガアプリ「マンガトリガー」で毎日1話無料で読むことができる(イッキ読みも可能)。あなたもぜひ、クロカン野球からマネジメントのエッセンスを学び取ってもらいたい。

(画像: ©三田紀房/コルク)

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