物作りの“光と闇”。漫画によって人生を狂わせた人間がここにいる。対照的な2作品『あしたのジョーに憧れて』と『ど根性ガエルの娘』であなたのマンガ愛が試される。

松山 洋2017年06月26日 印刷向け表示
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 漫画の歴史もずいぶんと長くなってきて、最近は親子で漫画家をされている
作家さんも珍しくないですし、血縁関係になくとも師匠と弟子の関係性も
我々マンガ好きにとっては実に興味深い情報だったりします。

今回はそういった視点から2作品を紹介したいと思います。

まず、1作品目はこちら。

  

あしたのジョーに憧れて(1) (KCDX)
作者:川 三番地
出版社:講談社
発売日:2015-06-17
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『あしたのジョーに憧れて』全三巻(川三番地)


あの『4P田中くん』『風光る』『Dreams』『天のプラタナス』
川三番地センセイです。

実は私も知らなかったのですが、川三番地センセイは若いころに
あのちばてつや先生のところでアシスタントとして修業をされていたんですね。

一見すると“んん?作風ずいぶんと違うなあ、そりゃ気付かないわ”と思ってしまうかも
しれませんが。

この『あしたのジョーに憧れて』を読むと川三番地センセイがちばプロで修行して
受け継いだのは“作風”ではなくて“プロの技術とその精神”だったことがわかります。

作中は1970年代当時の話なのでちばプロで手がけた作品は
『おれは鉄兵』『のたり松太郎』

両作品の週刊連載と隔週連載を並行執筆する地獄のような日々の中での
(主人公である川三番地センセイの)苦悩と成長が実にリアルに描かれています。

なにより、ちばてつや先生の人柄やプロとしての姿勢・こだわり・技術が本当にすごい!

作中でも表現されていますが現在はデジタル作画が多いのでパッと終わる処理も
この当時は全てアナログ
で作画・執筆されています。

締切まで数時間しかない中で見開きの“森”のシーンをハサミで7つに切って
(先生とアシスタント)7人で同時に仕上げる
話は本当に圧巻です。

物作りにかける情熱とちばてつや先生の“光”をまぶしいくらいに感じる作品です。


2作品目はこちら。

 

ど根性ガエルの娘 1 (ヤングアニマルコミックス)
作者:大月悠祐子
出版社:白泉社
発売日:2017-02-17
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『ど根性ガエルの娘』続刊二巻(大月悠祐子)


作者名だけ見ると“んん?誰?”って思われるかもしれませんが。

あの『ど根性ガエル』吉沢やすみ先生の実の娘さんが大月センセイなのです。

こちらも時代は1970年代

アニメにもなった『ど根性ガエル』で大ヒットした吉沢やすみ先生のその後の失墜と
それに振り回された家族の姿
が赤裸々に描かれています。

もう、ね、これ読んで私は“本当の話?なのか?本当に?”と思ってしまいました。

大ヒットした『ど根性ガエル』のあとに13本の原稿を残して吉沢やすみ先生自身が失踪するという無茶苦茶な話です。

アシスタントにも編集部にも告げず、どころか、家族にすら何も告げずに失踪しています。

その後はギャンブルしながら数年間にわたる放浪生活を続けて結果再び家族のもとには戻ることにはなりますが、まあ、やはり簡単にはうまくいかない。

一度壊れてしまった人間を家族が支え続ける壮絶なお話です。

まさに漫画によって人生を狂わせた家族の“闇と狂気”の話です。

ただ暗くてひどい話だけではまとめずにちゃんと漫画として“光”も表現されているところが
大月センセイの力量なのだと思います。(ちゃんと面白いです)

 

同じ時代に漫画に情熱をかけた二人の漫画家の姿を描いたそれぞれの作品ですが。

まるで対照的です。

まさに“光と闇”

けどね、物作りってかならずこの二つの側面をもってるなあ、と私自身クリエイターの一人としてしみじみと考え共感することが出来ました。


“この漫画、いまめっちゃ面白いよ!きてるよ!”

って話ももちろん良いし大好きですが。

そんな漫画という仕事の内側というか裏側の一部を覗いてみたくなるのもきっと愛なのでしょう。

あなたの愛はどうですか?

ぜひ、目を背けずに。

この2作品を読んで自身の愛を確認してみてはいかがでしょう?

 

 

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