この女子寮で暮らしたい2017第1位『寮長は料理上手』美人、美食、海、温泉。地上の楽園ここに極まれり!

マンガサロン『トリガー』2017年07月02日 印刷向け表示
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寮長は料理上手 1 (MFC キューンシリーズ)
作者:吉村佳
出版社:KADOKAWA
発売日:2017-06-26
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美味しいものを食べて温泉に入る。

分かりやすい幸せです。世の多くの人が5000兆円を欲するのと同じくらい当然に、欲望するであろうものです。

かつての私は、そんな幸福を毎日享受していました。

そう、聖地巡礼が高じて聖地就労した先の旅館。そこでは毎日美味しいまかないを食べ、一日の仕事が終わると露天風呂に浸かり、疲れを癒やす。そんな日々を過ごしていました。都会で失っていた人間本来の大切な何かが少しずつ取り戻されていくような感覚でした。仕事は大変で体はくたくたになっていても、心と魂が朗らかに、豊かに、元気になっていく……。

その時の感覚を思い出させてくれたのが、今回紹介する『寮長は料理上手』です。

こちらは『どろんきゅー』や『タヒチガール』の吉村佳先生の新作。タイトルからも察せられるようにグルメ要素の入った日常系作品で、4コママンガ部分と通常のストーリーマンガ部分とで交互に展開されていきます。

本作は他の学園モノ日常系と比べると「生活」の部分が、とりわけ「食」と「住」が、細やかに描かれているのが特徴的です。

舞台となるのは海辺の温泉街・衣浜。都会から単身やって来た高校一年生になりたての小花悠里(おばなゆうり)は、伍色館(ごしきかん)で寮生活を始めることに。

 



かつて旅館だったため学生寮でありながら部屋風呂が存在し、更には露天風呂もある大浴場も完備と、お風呂が好きな悠里にはたまらない場所でした。そこの寮長が、クラスメイトでもある姫市原麻耶(きしはらまや)。伍色館は麻耶の祖母が営んでいた旅館で、寮長である麻耶は寮生の食事作りも担当しています。

副寮長であり先輩風を吹かせる二年生の矢倉文香(やぐらふみか)、中等部二年生で極度の人見知りであるゲーマーの坂虎口(さかこぐち)、初等部二年生ながら大人びたボクっ娘である堀切実和子(ほりきりみわこ)、そしてカピバラのカピ子(別名:プリンセスローズ)らと、悠里は賑やかな共同生活をしていくことになります。

まず、本作は作画がとても魅力的です。
表紙も裏表紙も一繋ぎになった、カバー全体で一枚絵になっている本作の舞台・伍色館とそこに住む人々の描き方がまず雰囲気たっぷりなのですが、それを開いた所にある扉絵。

彩り豊かで、ところどころ可愛らしい細工も見える、とても美味しそうな重箱弁当(これは第一話で悠里と麻耶が絆を深める切っ掛けになったお弁当でもあります)。

このように、この作品の中には、通常の4コママンガにはありえないほど丁寧に写実的に描かれた食べ物の数々が登場します。

たとえば、おにぎりと漬物と麦茶。非常に質素なメニューではありますが、ただごとではないシズル感があります。夕暮れの縁側で涼やかな風に晒されながら、労働でくたびれた身体に放り込むその塩気あるお米の、冷えた麦茶の約束された美味さたるや。想像するだけでお腹が空きます。

日常系4コママンガの一コマとは思えないような密度の高い料理の作画で魅せてくれます。麻耶の丹念な調理シーン、そして実に美味しそうに食べる悠里たちの姿。料理を作る人と、それを美味しく食べる人。日常生活の一部としての「食」の描写の中で、どちらの喜びもたっぷりと表現されていて読んでいて幸せになれます。

そして、「住」にあたる部分。伍色館での悠里たちの暮らしぶりがまた心を和ませてくれます。

炊事、掃除、洗濯、買い出しなど、寮生活で必要な雑務にそれぞれの当番を決めて、回り出していく新生活。私は『魔女の宅急便』でキキがおソノさんのお店で住み込みで働き始め新生活を始めるシーンなども好きなのですが、この悠里の新しい生活にも同様の楽しさを覚えます。
人は人生の中で大きく環境が変わり、そこに適応して行く瞬間があり、その時には期待と不安が入り混じっています。誰にでもそんな経験があるからこそ、円滑に変化していく彼女たちの姿に安心を覚えるのかもしれません。

買い出しなどを通して地域の様々な人々との交流を行い、社会と繋がっていき、助け合って生きて行く。そんな彼女たちの様子に温かい気持ちになること間違いなし。この潮の香り漂う温泉街を歩いてみたい、と思わせてくれる街全体のアットホームな空気感も心地良いです。

ささやかな喜びも、一抹の寂しさも、優しく掬い取られて描かれる悠里たちの日常。「てっぺん」の海が見える景色の良いベンチで、私も麻耶の美味しい料理を食べてみたいものです。読んでいて心がやわらかで温かく豊かな気持ちになる本作、悠里の家族には何やら事情もありそうですが、今後も彼女たちの過ごす日々を微笑ましく眺めていたいです。

巻末のおまけ漫画には、「てっぺん」も出て来る短編が追加されていて嬉しくなりました。でこぽんや豆腐ドーナツなど食べたくなるものも満載ですので、空腹時の読書にはくれぐれもお気を付け下さい。

 

文章:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿

 

 

 

 

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