ファーストエピソードから、つらすぎて目を背けてしまう。児童虐待のリアルを描いた『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』

工藤 啓2017年07月21日 印刷向け表示
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ちいさいひと 青葉児童相談所物語 1 (少年サンデーコミックス)
作者:夾竹桃 ジン
出版社:小学館
発売日:2011-11-18
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 ちいさいひと、幼い命を弄ぶ大人の愚行が止まらない。平成27年度の虐待対応件数は、児童相談所で103,286件、市区町村で93,458件と過去最高。児童相談所の件数に関しては、児童虐待防止法が施行される前の平成11年度と比べて8.9倍と、とんでもなく右肩あがりだ。

 

児童虐待相談の対応件数及び虐待による死亡事例数の推移

もちろん、これは“対応することができた”件数であって、いまもどこか密閉された空間で子どもたちが殴られている、放置されている、そして蹂躙されている。虐待によって幼い命が奪われることも43件44名(心中以外)。

明るい光もなく、適切な食事もなく、排せつ処理はされず、目を空ければ鬼の形相で暴力が飛んでくる。何日も親が帰宅しない。それでも子どもたちはどこかで親を信じながら、裏切られ続ける。

【基礎知識】児童虐待は4つに類型化されている。

身体的虐待:殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
性的虐待:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
ネグレクト:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
心理的虐待:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など

『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』は、エピソード①ですら、つらすぎて読めない。私は吐き気に襲われ、涙が止まらなかった。決してグロテスクな描写があるわけではない。ただ、そこに長男(6)、次男(4)、三男四男(1)の双子を重ねてしまい、身体が読み進めるのを拒絶したのだ。

社会から隠ぺいされる児童虐待の現場に踏み込むひとたちがいる。それが児童相談所の職員であり、本書主人公の相川健太(22歳)ら、児童福祉士たちだ。健太はサバイバーでもある。いわゆる、虐待や暴力から生き延び大人になったひとのことだ。そのため、日常生活に問題はなくとも、ときおり、被虐待経験がフラッシュバックし、身体は硬直し、身動きが取れなくなることもある。虐待の影響は根深く残る、絶対に許してはいけない行為なのだ。

本書を読んでもらいたい理由は大きく三つある。ひとつは、児童虐待の現実を知ってほしい。殴る蹴る、虫けらのように扱われる、性的虐待を受ける、大人によって蝕まれる子どもたちがいること、そして子どもたちを蝕む大人がいること。その顔は常に隠されており、小さな変化に気が付かなければわからない。しかし、そんな子どものシグナル、大人の微妙なしぐさなどに気づける人間がもっともっと必要だからだ。

ふたつ目の理由は、児童相談所の仕組みや構造、そして法律に基づいてできること、限界を知っていただきたい。もし、いま明らかな児童虐待シーンに遭遇したらどうするだろうか。止めるか、スルーするか。夜、子どもの異常な泣き声が近所から聞こえてきたらどうするだろうか。

児童相談所は、児童虐待防止法第9条に基づき、家庭への立ち入り調査を行うことができる。警察との連携もしている。虐待などの疑いがあれば、保護者の同意なくとも一時保護で、子どもの身体、命を守ることもできるのだ。子どもを守る最前線で戦う彼らは、児童虐待などすることのない良識あるひとびとにとって、被虐待児を託することのできる頼もしい機関なのだ。

最後の理由は、自分が虐待する立場にならないようにするためだ。「虐待なんかするわけがない」とお考えかもしれない。そしてそれはたいていの場合、間違っていない。しかし、本書に出てくる、子どもの人生をめちゃくちゃにする大人たちは、自らの行為を虐待だとは認識していない。客観的に見れば明らかであっても、当事者にはそう映っていない。

私は、四人の子どもたちに虐待行為をしているだろうか。まったくしていないといいきれるだろうか。もしかしたら、ちょっとだけ手を上げてしまうこと、ご飯を取り下げてしまうこと、無視をすること。していないだろうか。そしてそれらを「しつけ」と認識してないだろうか。では、どこまでが「しつけ」で、どこからは虐待なのだろうか。

本書は、読み進めるのに勇気がいる。しかし、ここに目をつむってしまう大人が作る社会こそが、児童虐待の温床を創る要因にもなっていることを理解しなければならない。

もし、もし児童虐待をしてしまったら。児童虐待の疑いのある現場に遭遇してしまったら。明らかに虐待をしている人間を見たらどうしたらいいだろうか。ぜひ、110番、119番と同じレベルで覚えてほしい3桁の番号がある。それが児童相談所全国ダイアル「189(いちはやく)」だ。ここに電話してほしい。子どもたちの命を救おう!

 

児童相談所全国共通ダイヤル189

 

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