「深海」好きなあなたへ 『特別展「深海2017」公式図録』

足立 真穂2017年08月10日 印刷向け表示
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ダイオウイカ以来の深海ブームは、この夏もまだまだ熱く続行中だ。新たな南極の深海調査の結果が続々と出てきているのだ。あの震災時に三陸沖の海の下で何か起こったかも、だ。国立科学博物館での展示、NHKスペシャル「ディープ オーシャン」の放送……最新の深海情報をまとめた一冊を紹介しておこう。

深い海の中は、その特異な環境があるからこそ、見たことのないような形や色の生物がいる。もちろんずっと昔から彼らはいたわけだが、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が動かす地球深部探査船「ちきゅう」などの活躍により、それが実地で調べられ、映像記録となり、私たちが目にすることができるようになった。そう思うと幸せな時代に出くわしたものだ。

地球上に残された最後のフロンティアと呼ばれる「深海」とは何か。念のため確認しておこう。展示もそこから始まる。

写真1 国立科学博物館の展示もここから

深さで言えば、海洋生物学上、「深海」とは、太陽光が届かず光合成ができない、水深200メートル以深の海を指す。人間の素潜りでの記録は122メートルだというから、道具に頼らない限り人間が到達できない場所だと言ってもよさそうだ。そして、海で一番深いのは水深1万920メートル。平均水深はなんと3800メートルなので、海の容積の93パーセントは「深海」となる。

さらに、水深10メートルごとに水圧が1気圧ずつ上がるため、水深8200メートルでは魚のたんぱく質はうまく働かなくなるそうだ。魚の住めるのが水深8400メートルとなるのはそのためらしい。

写真2 カップ麺を潰すとこんなことになる

南極など状況はそれぞれ違うが、とりあえずこの辺りを基本情報としておくと、海にある現物に対して、解像度が高くなる。

そんな、みんな大好きな「深海」なのだが、このレビューで紹介するのはズバリ、公式図録にもなっている一冊だ。通信販売もしており、私自身がNHKスペシャルを観た後にこの図録を読み込んでから会場へ足を運んだところ、現物に目を向ける時間がしっかりと取れて有意義だった。内容が展示に忠実で、データも豊富なので、見終わった後に復習もできる。アクセス方法は人それぞれだがお勧めだ。

ちなみに、今回紹介することにした決め手は、本のカバーを外してひっくり返すと、暗闇で深海生物たちが光る「深海蓄光ポスター」になっていること。本を手にする喜びって、シンプルなところにあるものなのだ。

内容は国立科学博物館の展示と連動しており、第1章「深海とは」、第2章「深海と生物」、第3章「深海と巨大災害」、第4章「深海と資源」、第5章「深海と地球環境」、第6章「深海を調査する機器」と、そのタイトル通りに、折々にコラムを挟んでページは進む。

見た目だけで興味をひく生きものがぎっしり掲載されている2章は、展示でも人気で人だかりがしていた。深海の不思議な生物については、写真満載の書籍があまた出ているが、本書は研究者の協力のもと最新の知見を平易にまとめているという意味で、初心者にも貴重だ。

たとえばこんな変わり種も。『クレイジージャーニー』(TBS系)に出演した、沼津港深海水族館の石垣幸二館長が番組中に触れていたが、ギョロ目があまりにも特徴的でかわいいとさえ思える「デメニギス」。

普段は目線を上に向けているのだが、獲物を見つけるとグリッと正面に90度方向を転換するのだとか。「頭は透明の膜でできたドーム状で、内部は液体で満たされている」。そう、透明なので、目がくっきりと浮かんで見えるのだ。

写真3 「デメニギス」

ただし、標本になるとこうなる。

写真4 展示中のデメニギスの標本

もうひとつ、展示会場でひそやかな人気を誇っていた生物を紹介しておこう。深さ4000~7700メートル付近、過酷な環境にいる「ダイダラボッチ」だ。

写真5 ダイダラボッチの標本

その「ぼっち」感溢れる名前が印象的なのか、「だいだらぼっち」と、意味もなく唱える人がちらほらいた。なぜなのだろう。しかも、食糧の少ない深海で生きるために、一度取り入れた食べ物を体内で脂肪にかえて、大量に長く持たせることができるそうで、永遠にダイエットができない体質だ。決して真似はしたくない。

名前が面白いのも深海生物の特徴かもしれない。そして、深度が深まり、深海に潜行すればするほど名前がアバウトになる。深度が未知の度合ということなのだろう。未知のものの名前は曖昧なのだ。

写真6 オンデンザメの標本とダイオウイカのレプリカ

Nスペ『ディープ オーシャン』の解説やキャプチャー写真をさしはさみつつ、本の後半戦は、3章の「深海と巨大災害」へと内容が移る。この大地震に関する調査や海底火山の状態の確認こそが、深海調査の第一義だ。津波があの時にどのようなメカニズムで発生して数多くの命を奪っていったのか、あの日に深海底でなにが起こったのかが調査によって浮きぼりにされていく。

写真が出ているが、2011年の夏に行われた「しんかい6500」(有人潜水調査船)による潜航調査の結果には、だれもが言葉を失うだろう。三陸沖の日本海溝の陸棚斜面に、震災以前にはなかった幅、深さともに1メートルほどの亀裂が発見されたのだ。

実際に起こったことを把握し、モニタリングや減災につなげる。既に開示されている情報であっても、自ら触れることはなかなかないものだ。大震災を奇貨として行われている調査の詳細に、しみじみ読み入った。

最先端で、70メートルのやぐらを持つ地球深部探査船「ちきゅう」についても詳しく紹介したいが(展示会場には模型あり)、HPなどでどうぞ。内容が豊富過ぎてとても紹介できない。あとは、ご自分の目で確かめてほしい。

写真7 「ちきゅう」のやぐら

NHKスペシャルの第三集の放送も8月27日にあるとのこと、必見だ。

なお、国立科学博物館での展示開催は10月1日まで。詳細はHPにて。

沼津の深海博物館に行くのもよし。館長の石垣さんの本を読んでから行くと良いかも。少し前の本だけれど、沼津に深海水族館を作るまでの道のりを語るこの一冊が私は好きだ。  

国立科学博物館のひみつ
作者:成毛 眞
出版社:ブックマン社
発売日:2015-07-02
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代表の成毛眞の国立科学博物館の本も紹介しておく。第二弾も出ており、人気のような? 

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