暴力狂いの父に不幸を呼ぶ母。弟はホモ社長に拉致……。沖田家を襲う嘘みたいな実話がまるで奇跡体験アンビリバボー『蜃気楼家族』

小禄 卓也2017年08月22日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

僕は、父親の両親に会ったことがない。じいちゃんは父が小学生の頃に蒸発し、病気がちなばあちゃんは若くして亡くなったからだ。その後父は愛媛県の親戚の家に預けられて育ったため、僕は大学4年生まで父の田舎が愛媛県だと思っていた(ひいじいちゃんとじいちゃんは沖縄の宮古島出身で、父は満州生まれ福岡育ちらしい)。

2012年ごろ、沖縄に親戚を探しに行った時の記事(宮古毎日新聞より)

家族というのは大なり小なり事情を抱えているものだ。法律で結ばれているとはいえ、昨日まで他人だった人と共同生活を行うのはそう簡単にはいかない。大人になると、そんな当たり前のことが見えてくる。

お久しぶりです、「漫画のセレクトショップ」をコンセプトにした漫画アプリ『マンガトリガー』を運営している小禄です。冒頭から「おじいちゃんの蒸発」というカミングアウトをしてしまったが、今回はこんなカミングアウトがミジンコ級に感じられるかもしれない衝撃的な作品を紹介したい。それが、沖田×華さんの『蜃気楼家族』だ。

蜃気楼家族〈1〉
作者:沖田 ×華
出版社:幻冬舎
発売日:2010-07
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

『透明なゆりかご』で産婦人科に訪れる男女の知られざる物語を実体験に基づいて描かれている沖田さん。『蜃気楼家族』ではご自身の家族について赤裸々に、それはもう赤裸々に描く。その内容が壮絶過ぎて悪い方の奇跡体験アンビリバボーだ。

例えば中華料理屋を営む父。非常に暴力的で、自分にとって都合の悪い人間は誰であろうととにかく暴力を振るう。それが妻であろうと子であろうと関係ない。

路上で母をフルボッコする姿に戦慄を覚える

絵に描いたような亭主関白であり、お店が繁盛している時代には、家族の誰にも言わずマイホームを購入してきたりもするし、「離婚したい」という妻の要求に対して「離婚したいのはお前」だからと手切れ金のようなもの(300万円)を請求するし、とにかく暴力を振るいまくる。

母は、見ている限りそれほどおかしな様子は見受けられないのだが、やたらと不幸が降り掛かる体質のようだ。いつも集金に来ていた優しそうなおばちゃんに200万円ほど詐欺に遭うし、父からは暴力・罵声を浴びせられるし、一家を支えるために働き詰めで顔面がひどくただれ出すし……。別に取り立てて悪いことをしているわけでもないのに、かわいそうな出来事のオンパレードだ。そろそろ僕のエピソードがかすんできた…。

弟に至っては、好条件&住み込みで働くことになった会社が、単にホモ社長に気に入られただけでそのまま拉致られ軟禁されるという、一人救いのないダークファンタジーの世界に迷い込んだような事態になってしまっている。

社長と楽しい入浴タイム♪のはずもなく、ホモ社長のボディタッチは過激さを増してゆく……

こんな具合に、沖田家にはさまざまな災難が襲い掛かる。もちろん、沖田さんご本人にもだ。一つ一つ語るとツッコミが追いつかなくなってしまうので、興味がある方は、半分以上の物語を「1日1話無料」で読める『マンガトリガー』でぜひ一度お試しあれ。

我々の予想の斜め上をゆくエピソードの数々は、まるでマジシャンが繰り出すイリュージョンのように多彩だ。そう言えば、沖田さんの出身地・富山県魚津市は江戸時代以前より「蜃気楼」の名所として有名である。

願わくば、沖田家とそれを取り巻く人々のこの物語も蜃気楼のように幻想であってほしいと思うが、残念ながら実体験のようだ。

「家族というのは大なり小なり各々の事情を抱えている」とは言ったものの、この家族は大なり大なりの事情を抱え過ぎている。それでも沖田家を不幸だと言いきれないのは、あらゆる状況が俯瞰的に描かれているこの漫画の特性がそう思わせているのかもしれない。とはいえ、たまにでいいからハッピーなお話も見てみたいものだ。「幻冬舎plus」にて今も連載中の『蜃気楼家族』で、沖田家の(良い方の)奇跡体験に出会えることを期待したい。

(画像: (C)沖田×華/幻冬舎)

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事