ドロドロの銀行内不倫?、怪文書、片道切符の出向人事、銀行という組織の「権力」の使い方『銀行渉外担当 竹中治夫』

角野 信彦2017年08月23日 印刷向け表示
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銀行渉外担当 竹中治夫 ~『金融腐蝕列島』より~(8) (KCデラックス 週刊現代)
作者:こしの りょう
出版社:講談社
発売日:2017-08-23
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銀行員の給料は高い。東洋経済などの生涯年収ランキングなどでは、三井住友、三菱東京UFJ、みずほのすべてのグループが日本の企業のなかでベスト100に入っている。

従業員数も3グループとも連結で3万人を超える巨大な組織である。日本企業のなかでも相対的に高い給与で多くの優秀な人材を集め、集団として機能させ、組織の秩序を維持していくための仕組みが銀行にはたくさん張り巡らされている。

例えば、都銀の銀行員は同僚の入行年次と出身大学についてのマニアである。この情報と現在のポジション、本人の能力・実績の掛け算で同僚たちの将来の可能性を値踏みしつづけるのが銀行員の習性である。つまり春と秋の人事こそ銀行員にとっての最大のイベントでありエンターテイメントになる。

竹中治夫には悪いが、読み手にとってはこの銀行の人事が面白い。今回はそんな竹中治夫と銀行の人事の理不尽が思う存分楽しめるストーリーになっている。

銀行の面白い人事の慣習として、同支店内で結婚したら左遷人事とか、離婚したら出世コースから外れるというのがある。自分の家庭の秩序さえ守れない人材には銀行の仕事は任せられないということなのだろうか。

こしのりょう/高杉良『銀行渉外担当 竹中治夫』

それに取引先に出向して片道切符という銀行によくみられる人事がある。こういう同期でのサバイバル競争自体が、見ているだけの私たちにとってはリアルな生存競争というのは、大変なエンターテイメントだ。給料が下がり、社会的なステイタスも下がってしまう銀行員の方々には大変気の毒だが。

こしのりょう/高杉良『銀行渉外担当 竹中治夫』

それと不謹慎ながらもうひとつ面白いのが政界と同様で「怪文書」がとくに多いのが銀行・証券などの金融界である。『怪文書の研究』や『住友銀行秘史』などに詳しいが、住友銀行の磯田体制ではとくに多くの怪文書がマスコミや大蔵省、取引先にまで配られた。こうした「怪文書」はマスコミ・医学・教育・宗教などのオーナーの力が強い組織や許認可が絡んだ銀行・証券などがとくに多かった。

こしのりょう/高杉良『銀行渉外担当 竹中治夫』

竹中治夫は今回のストーリーでは怪文書によって、彼の人事異動が大変な危機にさらされることになる。大きな組織のなかで自分の意思ではどうにもならない運命に翻弄される個人の戦う姿というのは痛快である。

今日発売の『銀行渉外担当 竹中治夫』第8巻では、こうした銀行の秩序維持のためのルールが理不尽に竹中の人生をふりまわそうとする。カミュは「人生は理不尽なものなので、個人の人生に大きな意味はない。自分の人生を大きな物語に投げ込め」と語った。カミュがいう「大きな物語」とは共産主義だったが、現代の大企業に生きる会社員にとっては、会社こそ自身を投げ込むべき「大きな物語」なのかもしれない。

怪文書 (光文社新書)
作者:六角 弘
出版社:光文社
発売日:2001-10
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出版社:中央公論新社
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