マンガを通じて常識を考え直したい人へ――『彼女になる日』

bookish2017年09月04日 印刷向け表示
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彼女になる日 (花とゆめCOMICS)
作者:小椋アカネ
出版社:白泉社
発売日:2013-07-05
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ボーイズラブ(BL)作家が一般読者向け作品を手がけるなか、少女マンガ家からBL業界への進出が実現しました。それが小椋アカネさんの『彼女になる日』です。人と人の関係における、友情と恋情の境目はどこにあるのかを問いかけ、常識を揺さぶってきます。

■友情と恋情の境目を探して

作品の舞台は、不思議な力で社会の男女比を一定に保とうとする世界。魚のクマノミのように、女性が少なくなると男性のなかから女性体に変わる人が出てきます。この現象は「羽化」と呼ばれ、幼少期によく起こるという設定。この羽化を高校生になって経験したのが、物語の主人公のひとり、間宮奈央です。そして間宮の幼なじみで女の子が苦手な三芳恭介は、女性になってしまった間宮にどぎまぎしてしまいます。

男同士の幼なじみのとき、2人の間にある「近くにいたい」「支えたい」という感情は”友情”。では、間宮の身体が女性になってしまったとき、2人の間の感情はどう名づけられるのか。友情のままなのか、恋情に変わりうるのか。もし恋情に変わる場合、それは身体が女性体になったからなのか。

この作品ではほかの少女マンガやBLマンガに比べて、この感情の捉え方がより難しいものだと描かれています。それは羽化で身体が女性になった人の自意識が男性なのか女性なのか、はっきり書かれていないからです。間宮の場合、女性体になったことは受け入れても、恋情を抱く相手が男性なのか女性なのかははっきりしません。描かれるのは、身体がオトコかオンナかに関わらず、三芳の一番近くにいたいという想いです。

一方の三芳も女性の身体になった間宮に平然としてはいられません。「そもそも好きって何だ」と考え始めます。現実でも、友情と恋情の線引きは難しいもの。三芳の疑問はすごく腑に落ちます。

彼女になる日 another 1 (花とゆめCOMICS)
作者:小椋アカネ
出版社:白泉社
発売日:2014-05-02
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■三芳の「お前だから」という最高の答え

ちなみに間宮は三芳から初めて告白されたときそれを「友達だ」と断言します。間宮側の親との確執が原因ですが、不安定で不確実な恋情よりも、友情のほうが強い絆だと考えたのではないでしょうか。

こうして三芳との関係を友情として片付けようとする間宮は、現実にいたら「頭でぐちゃぐちゃ考えるメンドーな子」と受け止められるかもしれません。しかし少女マンガもBLマンガも(もちろん小説も)たくさん読んできた私からすると「恋人同士と友達同士と仲間同士を比べると、明らかに恋人同士の別れが多かった」と思い出してしまい、間宮の考えにも一理あると納得させられました。

ここで読者に答えを提示してくれるのは、三芳のかっこいいセリフ。男性体に戻る可能性が出てきて、三芳が離れていくことをおそれる間宮に対し、三芳は「何があっても、おまえが大事だってことは変わらない」と言い切ります。

これ、いいですよね。女性なら(もしかしたら男性も)、誰でもいってもらいたいのではないでしょうか。いろいろなハードルを越えて、一人の人間として受け入れてもらえると実感できるからです。誰かとのつながりを求めていきる個人にとって、これほど心強いことはありません。

■常識を揺さぶるきっかけに

美しい2人の絆ですが、羽化した人間は少数派であるため、簡単には受け入れられない人もいます。これはシリーズの『彼女になる日 another』でより明確になります。

間宮と三芳は、学校の友人や家族の多くは受け入れられるものの、三好の親戚の一人には、間宮との結婚を羽化を理由に反対されます。『another』の中心のキャラクターはより幼い中学生であるため、学校でも受け入れられない人がたくさん。そうした環境では、多数派から少数派に対し、厳しい言葉が投げかけられます。

友情と恋情の境目、多数派のなかの少数派の存在ーーこうしたことは、きっと普段の生活では気にもしないと思います。好意や相手のためになにかしたいという感情は、同性同士なら友情、異性同士なら恋情と当たり前のように考えていませんでしょうか。自分の周りには、自分と違う考えを持つ人はめったにいないと考えていませんでしょうか。

しかし作られた世界のマンガは普段目にしないことを突きつけ、普段考えないことを「本当にそうなのか」と再考を迫ります。ぜひみなさんにも当たり前だと考えていたことをぐらぐらと揺さぶられてほしいと思います。

 

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