ヒーローの暴力は合法か?「あのジャンプ漫画」の社会的リアリズムを追究する『ヴィジランテ』 『僕のヒーローアカデミア』には外伝があった!

今村 亮2017年10月16日 印刷向け表示
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ヒーローのリアルとは?

ヒーロー漫画なんてネタ切れでしょと思われているかもしれません。しかしヒーローのリアリズムを追った作品群が熱い。たまたまコーヒーのCMもヒーローを扱っていて、そんな偶然も熱い。


ヒーローの本場アメリカでも、なんの能力もない高校生がヒーローの真似をしてマフィアを追った姿がYouTubeでバズる『キック・アス』が話題になりました。原作はマーベル・コミックの巨匠ジョン・ロミータ・Jrだというからまた熱い。
 

キック・アス 3 (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー 翻訳:光岡三ツ子
出版社:小学館集英社プロダクション
発売日:2015-04-22
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日本ではどうかというと、『空想科学読本』のような理系の作品群が思い当たります。90年代、スペシウム光線の理論的妥当性や、タケコプターの開発可能性などが大真面目に検討されてベストセラーになりました。そして2010年代はきっとこの作品でしょう。
 

ヴィジランテ 1 ―僕のヒーローアカデミアILLEGALS― (ジャンプコミックス)
作者:別天 荒人
出版社:集英社
発売日:2017-04-04
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『ヒロアカ』の外伝がすごかった!

今回ご紹介したいのは、ヒーローの法的妥当性に焦点を当てた『ヴィジランテ』です。ジャンプ本誌ではなく漫画アプリジャンプ+に連載されている『僕のヒーローアカデミア(※)』の外伝にあたります。(※以降『ヒロアカ』と省略)

 

そもそも『ヒロアカ』はすごい。スーパーマンを模した世界最強のヒーロー「オールマイト」を中心に、その死に向き合う物語を週刊少年ジャンプ本誌に持ち込んだ価値はかーなーり重い。

いわゆるアメコミは1940年代に第二次世界大戦を背景に軍事特需として誕生した産業です。スーパーマンは敗北を許されないという性質は、市場構造そのものが抱えてきた宿命的テーマだからです。(拙稿「スーパーマンはいつ死ぬのか?『僕のヒーローアカデミア』とあわせて読むべきアメコミを紹介したい。」参照)

ところで『ヴィジランテ』という単語は、あまり耳慣れないものかもしれません。アメコミの世界観においてはよく使われる用語で「自警団」と直訳します。スーパーマンのように政府や社会や星条旗の選任を背負った存在に対し、バットマンのように自分の意志で戦うヒーローのことを指します。スーパーマンとバットマンの対比はアメコミの歴史的命題ですが、ヴィジランテもまた本編との対比が鮮やかです。

『ヒロアカ』本編の主人公はオールマイトに見出され表舞台に駆け上がっていく高校生です。一方、『ヴィジランテ』の主人公はオールマイトに見いだされることなく普通の生活を続ける大学生コーイチ君です。残念ながらコーイチ君が出会ってしまったのはナックルダスターという「俺的正義」を追求する無認可の非合法ヒーロー。コーイチ君の日常が少しずつ騒がしくなっていきます。

少年はみなヒーローを目指す。だけど現実には誰もがヒーローになれるわけじゃない。行き場のない”個性”は時としてルールの外に向かう。
あるものは日常の中で力を暴発させ、ある者は我が身を怪物に変えてしまい、そしてまたある者はヒーローを勝手に始めてしまったりする。

ヒーローとヴィジランテを分ける境界線は何か?いかに法的に対応するか?これが『ヴィジランテ』が追究するリアリズムなのです。

超能力を法律でどう取り締まる?

『ヒロアカ』の世界観において超能力発揮は許認可制となっています。「個性」と呼ばれる超能力が市民の過半数を越えるまで拡がったことを受け、ヒーロー活動においてのみ許可される法整備が整っているという設定が『ヴィジランテ』によって明らかになります。

逆に言えば、一般人の「個性」使用には制限があるわけです。たとえば大学に遅刻しそうな主人公が道を高速移動しているところをお警察に見つかって指導される様子も見られます。
 

「公道での”個性”の使用禁止」は法律で決まっているんだよ


そんな時代において『ヴィジランテ』の主人公たちの活動はもちろん政府の許認可を得ていません。なので、「落とし物を持ち主に返す」「道案内をする」といったヒーロー活動においても、「個性」の使用は非合法となります。

コーイチ君のヒーロー活動はそんなノリなので、街やSNSで「親切マン」「苦労マン」と呼ばれています。ゆるくていいですね。非合法とはいえバットマンのような完全なるガチ勢ではなく、ときにシリアスに、ときにゆるく、無認可の正義を生きています。

俺たちのしていることはもちろん違法だし失敗も多いんだけど・・・
でもプロにはプロの仕事があるように、俺たちには俺たちにしかできない仕事がある
少なくとも師匠はそう言ってる。俺はその言葉を信じてみたいと思うんだ


敵側も同じで、わかりやすい悪は登場しません。バイト感覚の女子高生、行き過ぎたアイドルオタク、などなど。『ヒロアカ』本編よりもさらに日常的です。

一方もちろん、ヒーローだって無制限に「個性」使用が許されているわけではありません。相手の違法性が認められたときにしか「個性」使用や攻撃は許されません。本編でも大活躍のイレイザーが登場してこう言いました。
 

「なにもしないうちにぶちのめす」なんてのはそっちこそ犯罪だろ


では仮に「悪さをする前にぶちのめした」相手が、実際に悪人だったら誰が罰せられるのでしょう?警察はこう言います。

法律ってものがあるんだ
相手が敵だろうがなんだろうが、個人による私刑行為は犯罪だよ

個人による私刑行為は犯罪。と言いながらもコーイチ君の師匠ナックルダスターはこう言います。相当やばい軽はずみ発言ですね。

いや、ああいう紛らわしい面は殴っても構わんだろう

ゆるく物語が展開していく『ヴィジランテ』は本編よりもずっとおもしろい。こんな漫画が読みたかった!と思いながらジャンプ+の更新を筆者は楽しみにしています。
 

正義は非合法でもいい

筆者は教育NPO職員です。NPO職員なんて非合法ヒーローみたいなものです。政府に頼まれたわけでもなく、政府から給料をもらえるわけでもなく、自分たちが考えるやり方でほそぼそ稼ぎながら社会にはたらきかける日々です。本作が描く主人公たちに強く共感します。

時として私的な正義は誰かの迷惑だったり、法律に引っかかったりすることもあるかもしれません。でも一歩踏み出すおせっかいが、社会をよくしていくと信じながら生きていきたいものです。誰かに丸投げするよりずっとマシだと思いませんか?
 
こちら筆者の職場です。
NPOカタリバ。
https://www.katariba.or.jp
 

  

 

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