「ウェブから生まれたウェブ太郎で、月に10万稼げるマンガ家なんてほとんどいない」かっぴーのネットマンガの実践論02 ネットマンガ実戦研究会

マンガHONZ 編集部2017年09月24日 印刷向け表示
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『ワンピース』初代編集の浅田さん、『左ききのエレン』のかっぴーさん、マンガHONZ編集長の佐渡島の3人で対談して、ネットでのマンガと「知られるためのコスト」の関係など、ネットマンガの課題と可能性、今後のマンガ産業はどうなっていくのか?、ネットマンガでの創作について語ってもらいました。ジャンプ+での『左ききのエレン』の連載も決まったかっぴーさんの、一番新しいネットマンガの実践論です。

左ききのエレン(9): 左ききのエレン・前
作者:かっぴー
出版社:ピースオブケイク
発売日:2017-08-30
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佐渡島:浅田さんが『左ききのエレン』で、一番いいと思っているところ、引き伸ばしたいと思っている部分っていうのはどこなんですか?

浅田:ぼくの目線は、おっさんになってしまっていてちゃんとしたアドバイスはできないと思います。おっさんが若い子が苦しんで頑張ってイイね、っていう目線になっちゃってるんで。だから、20代とかの、まだなにものにもなってない若い編集者が意見を言ったほうがいいと思います。

佐渡島:そういう相性って重要ですよね

浅田:ぼくは少年誌しか経験がないので、青年誌の作品に関してはこうした方がいいっていうアドバイスができる自信はないですね。

佐渡島:ぼくがかっぴーに聞いてみたかったのは、『左ききのエレン』って、アート・ディレクターなのかクリエイティブ・ディレクターなのかわかんないけど、かっこよく描いてるじゃないですか。

かっぴー:ああ、そう見えますか?そんなつもりはなくて、すべての職業にはかっこいい部分もあるし、かっこ悪い部分もあるって言うふうに描いているつもりなんですけどね。もちろん、アーティストにもいい面と悪い面があるとおもって描いています。

佐渡島:かっぴーは働いていて、広告代理店とかアート・ディレクターに魅力を感じた訳だけど、自分には合わないと思ったわけだから、クリエイティブ・ディレクターが目指すべき職業じゃないって思って辞めたのかなと。漫画家とクリエイティブ・ディレクターって全く違う職業じゃない

かっぴー:そうですね

佐渡島:光一っていう分身なんだけど、かっぴーがカッコいいと思ってない、っていうか、自分は目指さないっていう分身を主人公にしている時点で、物語を苦しくしているんじゃないかと思って。

かっぴー:8巻で光一が、クリエイティブ・ディレクターとかアート・ディレクターとかで能力を発揮し始めるっていうところまで描いて、すごく気分が落ち込んだんですよ。

ただ、今までで一番バズって、Twitterのトレンドにも半日以上入ってたし。今までの何倍ものPVだったし、やっと多くの人にエレンが見られたなって実感できたんですが。カッコいい側面だけじゃないっていうのは物語全体では描いているわけですよ。下請けからみたら広告代理店ってどう見えているんだろうかとか、そういうイイところと悪いところを描いて、やっと光一が一歩を踏み出したところがやっと描けたんです。

光一の成長を描けたのに、自分は広告代理店を辞めて、マンガを描いてるっていう現実に落ち込んだんです。

左ききのエレン(8): 物語の終わり
作者:かっぴー
出版社:ピースオブケイク
発売日:2017-07-04
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 佐渡島:本当は光一は、そこも抜け出してエレンと対決するためにはどうする?

かっぴー:光一はぼくの分身だけど、ぼくの代わりに広告代理店に残ってくれたんですよ。光一もぼくも、会社を辞めかねないところまで悩んで、ぼくは辞めたんですが、光一は残ったんです。

それで、つらい場面を乗り越えて、ぼくもこうしたらよかったっていうのをマンガで答え合わせできたんです。それを見てぼくは絶望したんです。それやっておけばよかったんじゃないか、自分にもできたんじゃないかって思ったんです。そういう未来が自分にもあったんじゃないかって思ったんです。

佐渡島:マンガでアナザーライフを実現しているのがすごくいいですね。青年漫画はアナザーライフを活かすか、自分の人生を分身に生きてもらうかに尽きる気がしてます。そういうエピソードがかっぴーから出てくるところが、『左ききのエレン』がいろいろな人の心を打つのかもしれないですね

浅田:エレンに関して言うと、ぼくにとっては「才能」モノであると同時に「サラリーマン」モノでもあるんですよね。自分にとって興味のある業界を覗き見したいっていう気持ちがあるじゃないですか。組織のなかでこんな苦しいことがあるんだっていうフックで、44歳のおっさんがスッと物語に入れたんですよ。

マンガ編集の世界も似たようなところがあって、若い人がクリエイティブの世界で、競いながら仕事をしてますからね。それで、編集から現場を離れていろいろなことが理解できるって言うような点でもかぶるなって。

佐渡島:そこもぼく面白いなって思っていて、サラリーマンものでよく描けてるのって島耕作しかないんですよね。

かっぴー:島耕作はやっぱすげーっす。さすがにサラリーマンやってないとわかんないし、取材じゃわかんないんですよ。

会長 島耕作(8) (モーニング KC)
作者:弘兼 憲史
出版社:講談社
発売日:2017-04-21
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佐渡島:ネットマンガでのマネタイズはみんな気になるみたいですが。ネットマンガでのマネタイズはかっぴーさんのなかではまだ難しいっていうのはあるんですか?

かっぴー:広告起用のマンガも描いているんですけど。ぼくの収入の6割から7割くらいは広告漫画から来てます。だからマネタイズの切迫感はないですね。ウェブマンガだけで食っていくのは苦しいかなと思います。

浅田:イブニングで『めしにしましょう』の小林銅蟲さんがtwitterでつぶやいてたんですが、ウェブマンガだけで月に10万円稼げるのは天才かよほど運がいいかどちらかっていうのを見ましたよ

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かっぴー:そのぐらいの感じですね。

佐渡島:まじっすか!

かっぴー:いやほんとに。月に10万稼げるウェブマンガ家なんてほんとにいないですよ。鈴木みそ先生のように、紙から降りてきた人でできる人はいますけど、ウェブから生まれたウェブ太郎にはキツイです(笑)

佐渡島:うちなんて、そこからエージェントフィーをもらえなければ、いつまでも食えないですからね(笑)

かっぴー:そうですよね。どうなっていくんだコルクは(笑)

菊池:ぼくが新人の漫画家を何百人も見てきた感じから言うと、広告マンガに行っちゃった新人って、創作マンガに戻っていきずらくなるんですよ。

かっぴー:そうなんですよ。だからぼくもギリだったんです。

菊池:広告費をもらってクライアントの意向を考えながら描くという習慣が一度つくと、お金にならない創作作品の深掘りがやりずらくなるんだろうなと思ってます。その点、両立しているかっぴーさんはすごいですね。

佐渡島:『バックコーラスの歌姫たち』っていうアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を取った映画があるんですよ。バックコーラスで一流のアーティストが褒めるくらいの技術の持ち主なんだけど、ソロで活動しようとすると人の心を震わせられないで、成功できないで、またバックコーラスに戻ってしまう。クリエイターとしての姿勢っていうのを自分で作るのと、人に指示されたことをやるという場面で両立するのは本当に難しい。

バックコーラスの歌姫たち [DVD]
監督:モーガン・ネヴィル
出版社:パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
発売日:2014-07-09
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かっぴー:それでいうと、さすがに広告代理店を6年やっていたおかげというのもあって、広告やりながら創作もバランスを取りながらできてますね。

広告マンガって本当に難しくて、広告として成立しているものは実は殆どないと思います。なので、依頼が集中してお金になっているっていうのはあるんですが、このまま広告をやっていると「変な金持ち」になると思って仕事を絞っています。

浅田:スキルとして、クライアントとの交渉とか、どうやって商品を売るのかっていう提案力とか、広告代理店で培ったものがあるから成立してるんですよ。

佐渡島:僕らが広告案件やるときは、代理店に入ってもらうことが多いです。かっぴーは無しでもできるんですね。漫画家を守る時には、代理店がいてくれる方が安心ですね。

浅田:それは作家さんのタイプによりますよ。クライアントの要求をさばける人もいるし、変にいろいろな人の意見を聞いてしまって混乱してしまう人もいるし。

かっぴー:ぼくは代理店にいたときからクライアントのところに自分で行って仕事を決めてくるタイプだったので。

佐渡島:それはもう知ってるので強いですよね

かっぴー:だから代理店に重宝されたんだろうなと思います。いまはもう、広告は抑えて純粋な連載マンガに集中してます。

佐渡島:ではそろそろ時間のようなので、最後にかっぴーが『左ききのエレン』にかける思いを聞きましょうか

かっぴー:描こうと思ったもともとの理由があります。ぼくはちっちゃいときに漫画家になりたかったんですよ。ただ、諦めるのも早くて、中学生の時に、映画が好きだから脚本家になりたいなとか、テレビの構成作家になりたいなとか、もうちょっとサラリーマンよりの仕事を見つけていったんですね。

そうした中で、広告代理店のアート・ディレクターというたまたま仕事を見つけて、アイデアを考えたり、CMのコンテを描いたりっていうのも話をつくるのの延長だなって考えたんです。だから、話を作りたかったんですね。

ただ、お金の話とかを現実的に考えると、広告代理店のサラリーマンとしてそれができるんなら最高じゃないかと思って代理店に行きました。だから広告代理店に行くために美大に行ったんですよ。将来決めるの早いねっていわれるんですけど、裏を返せば諦めるのが早かったんですね。

マンガとか映画とかやるの無理だって思って、でもクリエイティブなことやって、固定給もらってサラリーマンとして合コンすればいいやと思ってそっちに行ったんです。

それでしばらくしてマンガが注目されて、描きたくなったのがエレンだったんです。エレンのテーマって「才能」について話してるんですけど、みんな小さい頃サッカー選手になりたいとか、いろんな夢を持ってると思うんですね。

ただそれをちゃんと諦められた人ってどれくらいいるのかなって。なんとなく「無理そうだな」って思って、ぼくみたいにフワーッと諦めちゃう人がほとんどなのかなって思います。だからエレンのもうひとつのテーマは「ちゃんと諦める」ことなんです。で、諦めるためには全力でやらなければいけないという順番で物語を作っていってます。

だからそこに関しては、多くの人が共通して持っている感情なのかなと思って描いてます。「ちゃんと諦める」っていう考え方についてはこの作品で広めていきたいなと思ってます。

佐渡島:作品のなかでもそのメッセージが出てきますけど、そこの部分はほんとにいいですね。

浅田:本当にいろいろマンガ業界も変化していて、出版社が作ったアプリもあるし、投稿サイトもあるし、cakesもあるし、作家さんにとって発表の媒体がたくさんあるっていうのは幸せな時代になってきたと思っています。

ぼくは出版社の社員ですけど、一番望んでいるのはただ寝っ転がってマンガを読んでいたい、自分好みのマンガがたくさん出てきて欲しい、ということなんで、こうやって多様な媒体からたくさんのマンガがでてくるのは幸せなことだなあと思います。ただ、そうした中で、多くの作家さんが専業でマンガを描いて食べていくためには、業界が変化している分、心底、試行錯誤しなくちゃ、と思ってます。

佐渡島:本日は皆さんありがとうございました。

【おわり】

前半はコチラ!!ネットでトップクラスに売れたとしても、ジャンプで一番人気がない作品よりも知名度が低い!?『左ききのエレン』かっぴーのネットマンガの実践論01

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