『マネーという名の犬』 監修者まえがき by 村上 世彰

飛鳥新社2017年10月28日 印刷向け表示
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マネーという名の犬――12歳からの「お金」入門
作者:ボード・シェーファー 翻訳:田中 順子
出版社:飛鳥新社
発売日:2017-10-27
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お金って何だろう?

この本を読み始める前に、君たちがお金についてどんなことを知っているか、少し考えてみてほしい。

おこづかいやお手伝いをしてお金をもらっていれば、そのお金で自分の欲しいものを買うことができることは知っているだろう。

でもそれだけじゃない。お金には、欲しいものを買う以外にも、いろんなことができる力があることを、この本を読んで発見してほしい。

お金は一生付き合わなくてはならないものだ。日々の生活と切り離すことはできない。だから、お金と仲良く、楽しく付き合えるようになってほしい。そのためには、君が何をしてお金を稼ぐのか、何の目的のためにお金を稼ぐのか、稼いだお金をどういうふうに使 いたいのか、大人になる前に、たくさん考えてもらいたい。

お金は汚いものでも悪いものでもない。仲良くなれば、きっと君の毎日を楽しく豊かにしてくれるだろう。

少しここで僕の話をさせてもらおう。

僕の父親は、僕が小さなころからたくさんお金のことを教えてくれた。そしてこの本の主人公キーラのように、僕は小学生のころに株 への投資をはじめた。僕はお金を増やすことが大好きで、とうとう「お金を増やすこと」を僕の仕事にした。この本にも出てくる 「ファンドマネージャー」になったのだ。誰かのお金を預かって、増やしてあげる仕事だ。 僕の大好きなことで、ワクワクすることで、とても得意なことで、お金を増やしてあげればみんなもとても喜んでくれる。そして何より仕事を通じて日本をもっとよくすることができると思ったから、その仕事を選んだ。

「ファンドマネージャー」という仕事を実際にしてみると、想像していたのと違うこともあった。大変なことも山のようにあった。でも、とても楽しかったし、自分が得意で好きなことを仕事にすることができて、とても幸せに思う。今でもその気持ちは変わらない。

そして今年、僕のやってきた仕事について、僕は本を書いた。『生涯投資家』という本 で、6月に発売された。その本の中で、僕は、本が売れてもらえるお金を、若者への「投資の教育」のために使いたいと書いた。多くの人がこの本を読んでくれて、応援のメッセージもたくさんもらった。そして子どもでも読める本も書いてほしいというリクエストがたくさんあった。

日本では、小さなころから「お金」に関する勉強をするチャンスが少ない。これはとってももったいない。もっと多くの人が小さなころから正しいお金との付き合い方を学んでくれば、より多くの人がより豊かな人生を送ることができるのだから。ここにも、僕にできることがあるかもしれないと思っていたところに、この本の監修をしてほしいという依頼をもらった。

この本はドイツのボード・シェーファーさんという人が書いた本で、全世界で400万人もの人が、この本を読んでいるそうだ。子ども向けの「お金」の本にどのようなものがあるのか自分でも勉強してみようと思って、ここ15年くらいの間に出版された子ども向けの「お金」の本で有名なものを読んでみた。有名な小説家である村上龍さんが書いた『13歳のハローワーク』や、僕もお世話になっているジャーナリストの池上彰さんが書いた『14歳からのお金の話』など、とても大事なことが書いてあって、上手に説明もされているし、いつか君たちにも読んでみてもらいたい。でも初めてお金の勉強をするには、少し難しいかもしれない。この本は、冒険小説のようになっていてすらすらと読める。けれど、大切なことが物語の中にたくさん出てきて、楽しんで読んでいる間に、「お金と仲良くしたい」と思うようになれる。

この本が最初に出版されたのは2000年で、20年近く前に書かれたものだし、日本ではない国の話だ。だから君たちが読んだときに、すこし古臭く感じるようなところや、文化や風習の違いがあってわかりにくいことが出てくるかもしれない。でも僕は、この本がとても素敵にできているから、原作者の文章をできるだけそのまま残してある。だからわからないところはお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんなど周りの大人の人に聞いて、教えてもらいながら、ぜひ家族や身近な人と「お金」について話をしてみてほしい。

僕は、「お金」を増やすことのプロフェッショナルだ。だから、この本に書かれたこと と、少し違う意見を持っている部分もある。でも、「お金」との付き合い方にはいろんな方法や考え方があっていいと思っているし、君たちにも、この本をきっかけに、いろいろな使い方や君なりの考えを見つけていってほしい。

そのヒントに、僕がこの本を読んで最も大切で役に立つと思った部分を抜き出して、僕の考えや経験をコメントした。ぜひ、ここを読んでから、物語を読み始めてほしい。

1.誰かの問題を解決しようとすれば、お金を稼ぐことができる

どんなときに人はお金を払うのだろう。お金を払うというのは物々交換と同じだから、君がお金を払うときは、必ずその代わりのものを得ているときだ。じっくり考えてみると、必要なものや欲しかったものが手に入って「嬉しい」とか、何かをしてもらって「ありがとう」という気持ちのときにお金を払っていることがわかると思う。

どうやってお金を稼ぐかを考えるには、このポイントから考え始めればいい。誰が何に困っているだろう。そこで君は何ができるだろう。君が問題を見つけ、それを解決してあげたり助けてあげたりすれば、人は君に「ありがとう」というお金を払ってくれる。まずはお母さんの肩たたきから始めたっていい。

2.順調な時は誰でもお金を稼げる。トラブルに直面した時に本当の能力がわかる

この本にも出てくる株の話で考えてみよう。世界の全部が調子のいいときは、誰が株を買ったって儲けることができる。でも、株には必ずいいときと悪いときがあって、悪いときをどう乗り越えることができるのか、そこで君の本当の力が試される。大きな危機が訪れ、それを自分で考えて乗り越えようとするときに、君には大きな力がつく。そして乗り越えることができて初めて、君は自信をもつことができるし、君の力を証明することができる。

トラブルに直面したときに、もう一つ重要なことがある。これは人生のいろいろな場面で必ず役に立つから覚えておいてほしい。僕の父親は「株は下がり始めたら売れ」と教えてくれた。とても勇気のいることだけど、これは「損切り」と言って、取り返しのつかないような大きな損を抱えてしまわないように、少しの損のうちに手放してしまうことだ。 少しの損はあとから頑張って取り戻せばいい。この「損切り」の考え方は株の世界だけの話じゃない。人生のすべての決断において、とても大事だ。

3.お金のために働くのではなく、お金を自分のために働かせよう

君が将来お金を稼ぐようになったら、使わないお金を少し貯めておこう。少しお金を貯めることができるような生活をするということだ。そしてそのお金を、何か安全な方法で 増やしていくことを常に考えていてほしい。例えば君が病気になって働けなくなってしまったとき、仕事を失ってしまったときや君の家族が何か問題を抱えてお金が必要になったとき、こうして貯めたお金はきっと君を助けてくれるだろう。

そしてもう一つ、君がお金を貯めていれば、事業を始めたいと思ったときに、楽にスタートを切ることができる。始める前に銀行や人からお金を借りたり、事業に投資をしてもらったりするというのは本当に大変なことで、そこであきらめてしまう人はたくさんいる。

4.幸運は、つねに準備と努力の結果

僕は幸運が100パーセント準備と努力の結果だとは思っていない。だけど、一生懸命 、そして常に何かに向かって頑張り、準備を進めていれば、幸運を手にする可能性ははるかに高くなると思う。多い少ないはあるかもしれないけれど、誰にでも幸運を手にするチャンスは訪れる。でも、幸運がやってきても、何の準備もしておらず、その幸運を何とか自 分のものにする努力をしなければ、幸運は逃げて行ってしまうし、もしかしたら幸運が訪れていたことにさえ気がつかないかもしれない。

5.「お金持ちになれば、ほかの人を助けることができる」

少し長くなるけれど、とても大切なことだから読んでほしい。君が誰かを助けたいと思ったときに、どんな方法があるだろう。一緒に解決方法を考えてあげる、自分の時間を使って助けてあげる、解決できる人を探してあげる……いろいろな方法がある。

この本に出てくる状況とは少し違うけれど、いいきっかけなので社会貢献を例に考えてみたい。社会貢献とは、世の中で誰かが困っていることを、自分ができることを通じて解決のお手伝いをしたり、サポートしたりすることだ。例えば、世界には、親がいなくて住むところのない子どもたちが、学校へも行けずに道路で暮らしていたりする。この子どもたちが安全に暮らすことができるように活動をしている団体もいっぱいあるけど、まだまだ足りない。

こうした子どもたちをサポートするには、住むところ、食べるもの、着るものが必要だ。そして、将来きちんと働くことができるように、学校にも通わせてあげなくてはいけない。例えば、君がこの子どもたちを助けたいと思ったときに、何ができるだろうか? ボランティアとして現地に行ってご飯を作るのを手伝ったり、文字を教えてあげたり、洗濯なんかを手伝ってあげることができる。

そしてもう一つの方法として、君がお金持ちだったら、こういう子どもたちをサポートしている団体にお金を寄付するという方法がある。君がお金を寄付すると、団体はもっと大きな住む場所を用意したり、もらったお金で子どものためにお手伝いをしてくれる人を何人も雇ったりして、今よりもっと多くの子どもをサポートできるかもしれない。

特に社会貢献においてはお金だけでは解決できない問題が多い。けれど、ほとんどの場合、お金があれば、より早く、より多くの問題を解決に向けて動かすことができるのだ。そして「誰かを助けたい」と思ってお金を使うと、君は誰かの笑顔やたくさんの感謝の気持ちを受け取ることができる。そしてみんなが喜んでくれるだけでなく、自分も誰かの役に立つことができたという大きな喜びを感じることができる。

誰かを助けるため、人の役に立つためにお金を使うことは、君の人生をとても豊かにしてくれると、僕は思う。

僕は、震災支援でご縁をいただいた宮城県の南三陸町で、今年の9月 12 日に子どもたちへの「お金の教育」をスタートさせた。そして何年かかってもいいから1万人以上の子どもたちと、「お金の話」をしようと決めている。僕が知っているお金の話をしながら、君たちがお金についてどんなことを知っているのか、何に興味があるのか、教えてもらいたいと思っている。

そして近いうちに、僕自身で君たちに楽しく読んでもらえる「お金」の本を書いてみたい。君たちが家族や身近な人たちといろいろと話をしながら読み進めることができる本。 読み終わった後に「お金と仲良くしたい! そのためにもっと勉強したい」と思える本。 そんな本を書けたらいいなと思っている。

最後に、もう一度繰り返しておきたい。

この本を読むと、君の年齢によってはまだ難しいことやわからない単語がいっぱい出てくるかもしれない。でも、細かいことは気にせずに、まずは楽しんで読んでもらいたい。 何よりも大切なのは、「お金」は汚いものではなく、仲良くすればするほど、君たち、そして君たちの周りの人たちも幸せにしてくれるということを理解すること。そして、仲良くなるのはできるだけ早いほうがいいということだ。

ぜひ、夢アルバムを作って、君の夢や目標について真剣に考えてみてほしい。そして夢貯金箱を作って、どうやってお金を貯めていくか、貯めるために何をして稼いでいけばいいか考え始めてほしい。そのときに、人が困っている問題を見つけること、その問題を解決するために自分に何ができて、何が得意で、何をしているときが楽しいのかということを、時間がかかってもいいから、いっぱいいっぱい考えてほしい。 そして何か考えついたら、ぜひそのアイディアを形にするために、努力と準備を進めてほしい。

君がお金と仲良くなって、夢が実現することを祈って。

2017年9月

村上 世彰(むらかみ・よしあき) 
1959 年大阪府生まれ。1983 年から通産省などにおいて16 年強、
国家公務員として務める。1999 年から2006 年までファンドを運
営。現在、シンガポール在住の投資家。著書に、『生涯投資家』(文
藝春秋)など。               

写真提供:文藝春秋 

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